ツッコミ芸人、転生する ~破壊神とコンビで目指す異世界お笑いNo.1~

ロリバス

第1話「ツッコミ芸人、転生する」

 どこにでも居る平凡なツッコミ芸人の俺――只野ただの 正也まさやが目を覚ますと、そこは何やら真っ白な空間で目の前には金髪ショートの高校生ぐらいの美少女が居た。

 彼女は俺が目を覚ましたことに気づくと、こちらを見て口を開いた。


「あなたは多分この状況に気づいたら『なるほど、どうやら俺は手違いか何かで死んでお詫びにチート能力を与えられて異世界に転生するってことかな。で、女神くん。俺はどんなチートを与えられてどんな世界に転生することになるんだ』って言うと思うんですよね。なのでその辺はもうわかってるものとして話を進めたいんですけど」

「たとえそうだとしても転生させる側がそういうメタメタなセリフ言っちゃ駄目だろ!!」

 

 台無しだった。

 どうやら、昨晩色々あって浴びるように酒を飲みふらついていた俺は、なんらかの原因で死んだらしい。

 で、金髪ショート――さっき言ってたことから察するに転生を司る女神かなんかなのだろう。が言うには、俺は異世界に転生することになるそうだ。

 よくあるラノベかよ、と思ったがそういうツッコミを予期してのさっきの発言なのだろう。ぐっと、芸人のプライドにかけてその言葉を飲み込んだ。


「えー、わかりましたよ。じゃあ最初から順番に説明していきますけど」


 女神はポリポリと頭をかきながら、あからさまに面倒臭そうにため息をついた。


「いや、いいよ……さっきので大体わかってるし……」

「まず最初にあなたの死は手違いじゃありません」

「最初と言ってること違うじゃねえか!!」

「常識的に考えて、前後不覚になるまで酒のんで急性アルコール中毒で死んだのを手違いって言うのどうかと思うんですよね。100%あなたの責任ですよ」


 まあ、それはそうだろう。自暴自棄になって飲んでいたのだから仕方ないといえば仕方ない。納得するより他あるまい。


「ざまあ」

「神のくせに人間を煽るんじゃねえよ!!」

「まあ、それはそれとしてあなたには転生してもらうんですけど」


 パチン、と女神が指を鳴らすと空間に映像が浮き上がった。

 どうやらそこはどこかの世界らしい、青い空に緑の木々と広がる平原。小さな村とそこに住む人々。穏やかな風景だった。


「へえ、のどかなところだな。ここが俺の転生する世界なのか?」

「はい、そうですよ。気に入っていただけました?」


 俺はうなずいた。現代文明に慣れ親しんだ身としてはいささか不便そうだが、正直心身ともに疲れ切っていたのも事実だ。こういう世界で穏やかな人生を送るのもいいだろう。


「そうですか。それは良かったです。まあこの世界は今、破壊神のせいで滅びかけてるんですけど気に入っていただけたならここでいいですよねはい決定!」


 女神が一息で聞き捨てならないことを言いやがった。

  

「きたねえぞ詐欺師野郎!! キャンセル! キャンセル!」


 俺が講義すると、女神は両手で大きく『×』を作った。


「はい駄目ですー! キャンセル不可ー! というかもともと選択の余地なんか無いんですけどー!」

「じゃあわざわざこんなやり取りする必要はねえだろうが!!」


 深呼吸をして俺は息を整える。選択の余地がないならこれ以上の抗議は無駄だ。というか女神のせいで無駄な抗議をさせられたのだがそこに言及すると抗議の無限ループが発生しそうなので流しておく。

 それよりも、今の俺には確認しなければならないことがある。


「じゃあ、俺はどんなチートがもらえるんだ?」


 破壊神のせいで滅びそうな世界ってことはゆっくり過ごすというわけには行かないだろう。戦闘は絶対発生するだろうし、使えそうなチートだといいんだが。

 俺の質問に、女神はこう答えた。


「チー……ト……?」

「おいおまえ最初に自分でチートがどうこう言ってたろうが!!」


 ぽん、と女神は手をうつと、俺に向かって満面の笑みを向けた。


「チートなんかより大事なものを……あなたはすでに持ってると思いませんか……?」

「無いと思うけど!?」


 芸人以外の職歴なし。ギャラよりバイトの収入のほうが高い。ブレイクし始めたと思ったら事務所の都合でコンビを解散させられた30代のツッコミ芸人である。自分で言ってて悲しくなるがろくなもんを持ってない。

 女神は胸に手をあて、俺をまっすぐ見た。


「心じゃよ……」

「おまえが俺の何を知ってる!! 初対面だろ!!」

「じゃあ絆」

「俺は今から一人で異世界に転生するんですけど!?」

「愛とか?」

「『とか』がつく愛はろくなもんじゃねえよ!!」


 異世界に転生する場合においてチートの有無は死活問題になるので必死で突っ込む俺。そんな俺の姿を見て、女神はうんうん、とうなずいた。


「なんて冗談はさておき、チートなんかなくてもあなたはすでに異世界で無双するために必要な技能を持っているんですよ」

「現代知識無双ってやつか? 心当たりがないんだが……」


 女神の言葉に俺は首をかしげた。正直、俺は18で上京してからお笑いしかやってこなかった男だ。お笑い以外にある知識といえばバイト先のスーパーのレジ打ちと品出しぐらい。品出し無双は寡聞にして聞いたことがない……探せばありそうなのが怖いが。

 女神は俺の胸を指差し、にっこりと微笑んだ。


「ツッコミ、じゃよ……」

「ツッコミで無双できるわけねえだろ!!」


 さて、今までのパターンだと女神はここでボケを重ねてくると思われる。俺は次のツッコミを入れようと身構えた。

 だが、女神のボケはいつまでまってもやってこない。俺は恐る恐る女神に尋ねた。


「……え、ツッコミで無双ってマジで言ってるの?」

「マジで言ってます」

「あ、ツッコまれると魔物が即死する世界とかそういう?」


 女神は軽蔑するような目で俺を見た。


「そんな世界あると思います?」

「そんな世界以外でどうやってツッコミで無双するんだよ!!」

「まあ、その辺は転生してからおいおい理解していただく感じで……」


 女神がそういうと、俺の意識がだんだん遠のいていく。こいつこのままなし崩しで俺を転生させるつもりだ。


「流石にもう少し説明しろ!! というかツッコミオンリーはどう考えても無理だろ!! 百歩譲ってせめてボケを用意しろよ」

「あ、その辺はなんとかなると思うんで」


 女神のくせに情報がふわっとしていた。


「あーまー……でも、そうですね。ツッコミオンリーは確かに厳しそうですしチートスキル一個あげましょうか」


 粘って良かった。これで多少は戦闘能力を確保できそうだ。


「チートスキル『ギャグ漫画補正』っと……」

「そのスキルなんの役に立つの!?」

「ギャグや洒落しやれでやってる限りは何があっても死にませんよ」

「破壊神がいる状況は洒落にならねえだろうがよォ!!」


 俺が抗議すると意識が更に遠のいた。こいつどうやら会話が面倒臭くなってきたので早く俺をここから転生させてしまいたいらしい。

 なんとかして抗おうと頑張るが、どんどん視界が暗くなっていく。


「では、頑張ってください。あなたはこの世界の命運を左右することになるんですから……」


 薄れゆく意識の中で、最後に女神がそんなことを言っているのが聞こえた――



――――



 そして、次に俺が目を覚ますと俺は洞窟の中に居た。

 あちこちに篝火が焚かれ、邪悪な紋様が入ったフードをかぶった奴らが何人も居る。どういうことか、と状況を確認しようとしたところで、俺は手足を縄でぐるぐる巻きにされていることに気づいた。

 俺が目を覚ました事に気づいたフードをかぶった奴の一人が、俺の方を見てクックックと笑った。


「どうやら生贄のお目覚めらしい。喜び給え、君は今から破壊神復活のための生贄として捧げられるのだ」


 なるほど。俺はうなずき、大きく息を吸い込んだ。


「こういう感じで命運を左右することになるとは思わなかったな!!」

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