神の寝る間に
錦徹
第1話 神の御託
神は絶望した。
かつて自分が創りだしたものが、こんなにも愚かだったなんて。神が創り出した世界を壊していったのは、かつて自分が創り出した、人間だったとは・
神は行動する。
自分自身が犯した罪を制裁するように。人を殺していった。
そして神は、人を断罪し終えると長い眠りについた。勝手に創って勝手に絶望して全く自分勝手なものだととアーテはぼんやりとその神の一連の行動を見ていた。
神は、娘であるアーテに昔話を語るように、人間の話をしていた。
「人を創り出したのは間違いだったのか。
あぁ、人は私と交わした約定を忘れてしまったのかな。月日も経ちすぎているしアダムとエヴァの後継者も増えすぎているからね。けれど、聖書にして人々に力強く根付かせたはずなのに、それでも罪を重ねるとは愚かしい下等種族よ。禁断の実を食べて、地に落ちたことを忘れてしまったか。」
神はぼそぼそと、独り言をつぶやくようにアーテに語り掛ける。話をしながら神は天候を操作し、時々感情的になると天災を各地で起こした。
「本当に愚かだ。この天災やら、異常気象をどこかの国の陰謀と勘違いして争い始めるとは。ある国では、食料のために紛争が起こっている。手と手を取り合ってみんなで助け合おうなんていう、思いやりにあふれた結論には至らないのか。核ミサイルが飛び交っている。一つの国が核ミサイルを飛ばすと、それが発端となりドミノのように核ミサイルが飛ぶことを分かっていながらも、スイッチを押さずにはいられなかったらしい。」
「ヒトハオロカダ」「ヒトハミニクイ」
神はその二つの言葉を、自分自身に言い聞かせるように繰り返す。アーテには父である神の方がよっぽど愚かに見えた。自分を正当化するようにアーテに話し続ける父に対しうんざりしかけてさえいた。
父の気が済むまで地球は弄ばれた。
そして父は、娘と七人の分身を置いて眠りについた。
アーテは荒れ果ててしまった地球を眺め呟いた。
「神って案外無責任なのね」
「神だって完璧じゃないんだ。
ありとあらゆる力を持ったって、感情を持っている限り欲が捨てられるわけじゃないんだ。君の父だって、ダメだと分かっていても人と神の子供をつくっただろう。ゼウスが愛した人間の女はすぐ死んでしまったけれど、君という禁忌の子供はこの世に生まれ落ちてしまったわけだ」
ふうんと、アーテ髪を弄びながら興味なさそうに返事をする。この話は何度も聞かされた話だったからだ。最初のうちは何かしら父の援護をしていた気もしたが、そう何度も同じ話を繰り返されると、飽きるのも当然のことだ。
「全知全能の神となってもなお欲しいものが尽きないとは、神というのも人のように傲慢なんだね」
ハスは遠くを見つめ薄っぺらな、軽薄そうな笑顔を浮かべた。そして今後の話をした。
「僕は神が起きるまで、フラフラっと旅してこようかな」
「オレモ、こんなツマラナイ星はごめんだ」
筋肉がむき出しで、暑苦しい男は「ツヨイヤツ、イッパイ」と片言の言葉を叫んだ。本当に脳内が筋肉でできている可能性を考慮しなければならないかもしれない。
「私もイイ男が、たくさんいる星に行きたいわぁ」
「おれも、旅しようかな」
そう次々とこの星を出ていく話になっていった。アーテはこんな暑苦しい集団で生活はしたくなかった。この際一人で地球を回ってみるのもいいかと思った。
「私は地球に残るわ。みんな好きにしなよ」
アーテを守るためだけに創られた神の分身たちだが、たいして元々アーテには興味を持っていなかったのでその言葉を言い訳に、次々と地球から旅立っていった。そうして残ったのは二人。
「何かあったら、神の加護を使いなよ。それでたいていは大丈夫だと思うから。けれど、それでもダメな時はその忠実な犬でも呼べばいいと思う」
ハスはそう言葉を残すと、残像を残して消えた。
余計なお世話だと、アーテ。
不老不死の身で全知全能の力をほとんど受け継いだ私に対しての嫌味だろうと分かっていながら、悪態をつくことはやめられなかった。そしてハスが犬と呼んだ男が声を上げた。
「私はアーテ様に付いていきます」
「あぁ、けど大丈夫だよ。私一人で十分だよ」
アーテは遠回しに、けれどはっきりと拒絶の言葉を口にした。カオスも拒絶の意味を分かっていながら食い下がらなかった。
「アーテ様に付いていきます」
面倒だと心の奥で呟いた。
カオスという男は、忠犬の様にアーテに仕えていた。自分を生み出した神ゼウスよりアーテに忠誠を誓っている。
アーテ自身はその依存のような関係をウザったく思ってはいるのだが存在のすべてを拒絶することはできなかった。けれど今回は一人にしてほしかった。父のあの愚かしさを目の当たりにしてショックではあったのだ。
「んーとじゃあ、私を守れるぐらい強くなって帰ってきてください」
会話の返事にならない言葉を伝えると、アーテはできる限り遠い場所を想像した。そしてそこへ、カオスを送り込んだ。カオスは何か叫ぼうとしていたがそれが言葉になることはなかった。
「あぁ疲れた」
アーテはぽつりと呟いた。さすがに今のは力を使いすぎた。何処かへ何かを飛ばすという行為は存外力を使うものなのだ
死ぬことはないだろう、けれど疲れた。
気づいたら地面が目の前にある、かなり意識がもうろうとしてきた本気で死を想像しかけたとき視界が黒に染まった。
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