華を照らす光

カゲトモ

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 コンコン。

 まだ店は閉まっていないと言うのに、扉の向こうでノックの音がした。どうしてそんな小さな音が耳に入ったのか。それは店内ががらんとしていてジャズの音しか響いていなかったからだ。だから別に閑古鳥が鳴いていたって訳じゃない、時間が時間だからだ。

 だって時計はもう深夜の午前零時四十五分を指しているから。ラストオーダーまであと十五分。

「はい」

 扉が開く気配を感じられなくて声を掛けながらノブを回した。誰も居なかったらどうしよう、なんてことが頭を過ぎったけれどそんなことはなくて。そこにいたのは今まで見た中で一番楽な恰好をしたその人だった。

「桜小路さん」

「こんばんは、まだやってらっしゃいますか?」

 いつもはつばの広い帽子を被ってサングラスを掛けて、と日焼け対策ばっちりなご婦人か芸能人か、とどちらかの恰好をしていると言うのに。今日は打って変わってキャップに黒縁眼鏡と言った楽な出で立ちだ。

「もちろんです、どうぞ」

「ありがとうございます」

 店内を一度見渡してから彼女はそのキャップを外した。桜小路ありあ。彼女は正真正銘の超有名歌手だ。

「良かった、もうクローズになっているかと思って」

「ふふふ、丁度良いタイミングでしたね」

「お店、何時までされているんですか」

「もう誰もお客様がいらっしゃらない様でしたらあと十五分でクローズにしていました。とても素晴らしいタイミングです」

「あら、そうなんですか。遅い時間からごめんなさい」

「いえいえ、どうぞお気になさらず。この時間に来てもらえるように呼び寄せたのかもしれませんから」

「マスターがですか?」

「ふふふ、そうです」

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