本山らのと夏の神社
七条ミル
(1)出会い
友達とはぐれてしまった。
なぜだかわからないけれど、友達に誘われて町の隅っこにある丘陵に遊びにきていた。この丘陵を何と言うのかなんて覚えていないけれども、誘われて断るのもなんだか気が引ける。
そんなこんなで重い腰を上げて、友達とこの丘陵地に遊びにきたのに、ずんずんと走るように進んでいく友達に私はついていけず、結局中途半端なところに取り残されてしまった。
鋭い日差しがじりじりと腕を突き刺す。日焼け止めを塗ってきたとはいえ、半袖で来たのは間違いだったかもしれない。髪の毛は結ばずに放っておいているから、首から肩甲骨あたりにかけてもまた蒸してくる。
この丘陵には、たしか小さなころに来たような記憶があるが、もう道なんかも忘れてしまって、完全に迷っている。
どちらに行けばいいのかまったくわからない。
少し頭がくらくらしてきて、水筒の中に入れてきたポカリを飲もうとしたけれど底を真上に向けても一滴も垂れてこなかった。
仕方がないのでどこかで休むしかない。
暫く歩くと、遠くに鳥居が見えてきた。少しぼんやりとしているけれど、木々に囲まれた神社というのはだいたい涼しいから、きっと休むこともできるだろう。
赤くて大きな鳥居が目前に迫ってきて、境内が見えてくる。
奥に薄ぼんやりと、人影が見えた。なんとなく紺っぽくて、髪は長くて胸も大きいから、きっと女の人だろう。手元に視線を落としていて、その手には一冊の本が握られている。
なんとか鳥居を潜り抜けて、手水舎の水で左右の手と口を清めて、少しだけはっきりと世界が見えるようになった。
沢山の木に囲まれた神社はやっぱり他のところよりも涼しくて、神様の力ってすごいのかな、って思ったりもする。
でも、やっぱり口に水を含んだだけでは水分は補給できていなかったようで、急に眩暈が襲ってくる。世界が一気に真っ白になって、ふっと体が前に倒れるような、そんな感じがして。
「あっ!」
という女の人の声がして、私の意識はそこで途切れた。
意識が戻ると柔らかなものが頭の下にあった。頭の下にやわらかいものがあるけれど、やに暑い。私の部屋はこんなに暑かっただろうか――
そういえば、私は倒れたんだったな、と唐突に思い出した。ときどきこんな風に倒れたりするけれど、意識を取り戻した直後はいつも直前のことを覚えていない。
目を開けると、少し赤みがかった黒の着物、なんだかとてもでかいなにか、それから、上から覗きこむ、頭に狐の耳の乗っかった女の子の顔、少し大きな丸眼鏡。少し情報量が多い。どうやら、膝枕をされているらしい。
「あっ、起きましたか。体調はどうですか? これ、飲みますか?」
少ししてから、邪魔なものが胸だと気づいた。もう、なんでもいいや、クソ。でも、これくらいのスタイルがあったら、私でももう少し目立てるのだろうか。もう少し、日の光が当たるところで生きれるのだろうか。
「あのー、お~い」
ふっとわれに返ってその女の子を見ると、手には生茶のペットボトルが握られていた。
「ああ、ごめんなさい、ちょっと考え事してて……」
人が話しているときにも普通に考え事をしてしまうのは私の悪い癖だ。
「ああ、気にしないでくださいね。で、これ、飲んでください、ちゃんと水分補給しなきゃだめですよ!」
女の子はにこりと笑って、私の手に生茶を握らせた。私は身体を起こした。ペットボトルは冷えていて、ふたを捻るとかりりと音を立てた。左手にふたを持って、右手で生茶をぐいと口に流す。
身体中に水分がいきわたるような気がした。生き返る、そんな感じ。
ふと女の子のほうを見ると、女の子は少し首をかしげて、にこりとわらった。
「本山らのっていいます!」
女の子はそう名乗った。大学生らしいけれど、なんでこの丘陵の神社に一人で本を読んでいたのだろう。それに、頭にのった狐の耳、そして腰のあたりから覗く尻尾……。
らのさんの手元には、一冊のライトノベルが置かれている。光が反射して表紙はよく見えないが、らのさんはライトノベルをよく読むのだろうか。
「桜木
私も挨拶をした。
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