第24話「目覚めるは白き修羅神」
燃え盛る炎のように、全身から光が
自分の中で急激に圧縮され、
だが、彼女が感じていることは
押し切られそうになる中、仲間達も死力を振り絞っていた。
「んぎぎぎぎ……っ! スーパーロボットは、負けないです……負けられないですっ!」
限界を超えた機体が、各所でプラズマをスパークさせる。
負荷に耐えられなくなった関節が、バチバチと火花を散らした。
それでもエルは、相棒たる愛機を信じて魔力を注ぐ。
足元の土がめくれる感覚が、ダイレクトに脳裏に伝わってきた。
『機体が危険な状態ですわ。関節が
『すおみは各機の状況を見てて!
『な、なんの話かな、
絶体絶命だった。
四機の
まっすぐ撃ては、城壁は
そして、無防備になった街と市民が砲火にさらされるのだ。
そんな中で、みんなのリーダーである
『エルッ! あとどれくらい頑張れるっ!?』
「んと、えと! もう、いっぱいいっぱいです! でも」
『ガッツとファイト、頼らせてもらってもいい? ゴメン!』
「エルにお任せなのです! 全然話がわからないのですが、エルなら大丈夫ですっ!」
灯はすぐに、
驚きの声があがったが、誰も異論を挟まなかった。
それほどまでに、現状は厳しい。
だからこそ、全員がエルの爆発力に賭けることにしたのだ。
仲間達のムラクモが、離れてゆく。
一気に支える質量が増えて、エルの三号機は大きく後ずさった。
だが、エルは
『すおみっ、その大砲をもう一回準備して! 私はラーテの砲撃を封じる!』
射撃が不可能になったラーテが、
まるでいきもののよう……その名の通り、巨大な身体にそぐわぬ臆病さを持った、ただの大きな
「うわあああああっ! ラーテさんはっ、絶対にぃ、通さないですううううううっ!」
両手で押すシールドを、更に強く押し当て押し込む。
そうして少し愛機を下がらせると、振りかぶった腕に
ガタガタと震える関節が
それでも、エルは握った鉄拳を全力で目の前へ……シールドへと叩きつけた。
同時に、よろよろとコクピットの中で立ち上がる。
両手で握った箒を支えにして、気合の一撃を
「ただのぉっ! パァァァァァンチッ!」
鈍い金属音と共に、インパクト。
叩きつけた拳の指関節が、弾けて死んでゆく感覚が返ってきた。痛みはないが、愛機の痛みを想像すれば感じられる。
オーバーハンドのパンチが、
衝撃でジョイント部分が外れて、合体していたシールドが左右に割れる。
ラーテの前面装甲には、くっきりとシールドの形に
そして、沸点を超えて限界を突破したエルは、まだ止まらない。
「ガッツとっ!」
手にした箒を目の前に、両手で握って力を込める。
「ファイトォォォォォォッ!」
そして、ミシミシと音を立ててたわんだ箒は、真ん中から真っ二つにへし折れた。
エルが折ってしまった箒は、二つに別れたどちらからも光を
ムラクモ三号機のひび割れたバイザーは、その奥へ燃え盛る
「わたしっ、昔からっ! 泣いてから、強いっ、子ぉ、なんですうううううっ!」
箒の成れの果てを両手に、エルが拳を繰り出す。
三号機は一発、また一発と繰り出すパンチでラーテを押し返していった。
激情に我を忘れる中で、エルははっきりと感じ取っていた。
魔力を持たされ、人類抹殺を本能として刷り込まれた
そしてそのマシーンは、最優先で殺すべき人間の姿をしているのである。
『霧沙っ、すおみ!』
『オーライッ! ラストナンバー、行くよっ!』
『88mmカノン砲、砲身展開。容赦はしませんわ!』
全身のスラスターが生み出す推力を、一点に集束して絞り込む。
周囲で仲間達が動き出す中、エルはまっすぐ前だけを見て拳を振るっていた。
シールドを手にした三号機は、デタラメな乱撃でラーテを押し返していった。
だが、遂に機体が限界を超え、それを超えた領域での爆発的な機動に耐えられなくなる。ガクン! と片膝を突いたまま、ムラクモ三号機はその場で動けなくなってしまった。
前のめりに転んで、エルは前の全周囲モニターへと顔面を強打する。
鼻血が出たが、涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で彼女は敵を
「うう、やっつけるです……みんなを守る正義の盾になるです!」
『お疲れ、エル! あとはボク達にっ!』
『任せてくださいな!』
なにかがエルの三号機を追い越した。
さらに霧沙は、浴びせられる機銃掃射をロックビートのリズムに乗って避ける。
そして、再度地を蹴るや肉薄、密着の距離で十字傷にコンバットナイフを捩じ込んだ。
そのまま
『すおみっ!』
『はいっ!
強固な分厚い装甲に、霧沙が無理矢理こじ開けた穴。
そこへと、全速力ですおみが突っ込んできた。彼女の四号機は、まるで
迷わずすおみは、長い砲身を装甲の亀裂へと突き刺した。
そして、スイッチ……遠慮なく全弾、ラーテの中へと叩き込む。
身震いするラーテは、
「や、やった……やったです!」
『まだだよっ、エル! みんなも! あと一台……もう一台、ラーテがいるっ!』
灯の声はまだ、緊張感を失っていなかった。下段に構えて剣を握る一号機の前に、ゆっくりと再びラーテが現れる。いましがたやっと倒したものと、全く同じ巨大な陸上戦艦だ。
そして、その砲塔の上に人影……
趣味的な軍服を着て、手に箒を持った少女は霧の中で
『お疲れ様ね、魔女さん達。ふふ……もうギブアップかしら? じゃあ、そこで見ていなさい……あの街が戦後の最後の犠牲者。そして、第三次世界大戦の最初の
スカーレット・ブラッドベリがうっそりと
許してはいけない……だがもう、エルも仲間達も限界だった。
折ってしまった箒を握り締めて、エルはうおーんと声をあげて泣くしかできない。自分達に秘められた力があって、その全てを出し切ったが
スカーレットは足元の
その時、ネルトリンゲンの方から声があがる。
城壁に並んだ市民達が、足元を踏み鳴らして絶叫していた。
口々に
エルにはドイツ語はわからない……だが、その中に日本語の絶叫があった。
『成太郎っ! 死んだらブッ殺すわよ! あんたは、あんたはねえ……この、私がっ! 蘇らせたんだから! クソジジイの犯した過ちをブッ潰す、そのためにあんたが……みんなが必要なんだから!』
突然、巨大なトレーラーが走り抜けた。目で追うエルは
そしてそのまま……彼女は真正面からトレーラーでラーテに体当りした。
金属がひしゃげてよじれる音が響いて、エルはコクピットから飛び出す。地面に落下してすぐに立ち上がれば、恐らく正面衝突の直前に脱出したのだろうか……灘姫は停止ししたトレーラーの横に倒れていた。
「灘姫ちゃん! 今、助けるです……あっ」
駆け寄るエルは目撃した。
見上げるラーテの上で、成太郎がスカーレットの脚を振り払うのを。そのまま彼は、力なくゆらりと起き上がって……そのままトレーラーの上に落下していった。
同時に、燃料に引火したトレーラーが、爆発炎上する。
ラーテの巨体を赤々と染めて、黒煙が濃霧を
「あ、ああ……指揮官さんっ! 指揮官さん……成太郎さぁん!」
灘姫に肩を貸して立ち上がりながら、エルは
「あは、ばっかみたい!
彼女が高らかに
不意に爆発の中から、何かが飛び出した。
それは霧を払って闇夜に昇り、満月の中で振り返る。
エルはその時、涙に
そこには、焼け焦げた防護シートをマントのように
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