11-2 こんなはずではなかったが

 約束通り、魔王軍所属の「救世主」として、魔導装甲艦プレデターの甲板に戻ってきた。そして、投降を呼びかけた。

「すまない。俺は魔王のためには戦えない。これが結論だ」

 甲板は水を打ったように静まり返っている。

「せめて無駄な争いを避けたいと思う。思い上がったことを言うけど、俺が加担しなきゃ勝ち目はないだろう。投降してくれ」

「救世主殿は」

 と、ガロン大佐が言った。

「我々が魔王に踊らされているとお考えか」

 厳しい声だった。

 正直、言われた通りだったので、俺は黙っていた。

「祖国は貧しい。奴隷の国だ。産業が複雑化していく中で、資源も技術も持たない我が国は、搾取される側に回された」

「……」

「一度立場が決まってしまうと、覆すのは難しい。奪う側がその優位を守ろうとするからだ」

「……」

「魔王様は我らに希望を与えてくださった。他人から何と言われようと、あの方を裏切ることはできない。秋の空か猫の目のように移り気な『救世主』よ、魔王様に刃向かう気なら、今ここで成敗してくれよう」

 ガロン大佐が静かに抜刀する。あとに続く者はない。

 全員と戦う事態も想定していたから、大佐一人だけならずいぶん楽だ。

 けれど、気は重い。この立派な人物を討ち取らないといけないのか。

(こんなはずじゃなかったのにな)

 あれだけ毛嫌いしていたチーレムにダイブするつもりだったのに、何の因果か、気が滅入るような戦闘に臨んでいる。人生はつくづく思い通りにならない。

「……」

 スキル【防御円】発動。

 ガロン大佐は、

「参る」

 堂々と宣言し、床を蹴った。

 疾い! 一撃目、迷いのない唐竹割り。ギィンと高い音が鳴り響いて、防御円の被弾した箇所が赤く発光する。

 さらに、たたみかける連撃。これが大佐の本気か。目ではとても追いきれない。

 が、この防御円は前方を厚くしている。破られる心配はない。ひたすら打たせて、息切れを待つ。

 推定40発ほどもらった頃だろうか。海面に少し大きなうねりがあって、甲板が揺らいだ。その瞬間、

「!?」

 視界が奪われた。

 上手い。単純な力押しと見せかけて【閃光】を撃ったのか。

 急いで自分に【状態異常解除】を……いや、防御円の配置変更が先だ。

 どこから来るかわからない。前方に集めていた魔力を均等に分散。

 頭上に被弾。上か! 被弾箇所に魔力を集め……

(いや、軽い!)

 鞘を投げただけのフェイク。見事に引っかかった。やはり俺は実戦経験が足りない――と、反省している場合じゃない。

 防御円の背面に強烈な衝撃が走った。

 被弾情報――【天元突き】! 防御を完全に捨てた一点集中の攻撃スキル。

 想像を絶する威力。防御円は推定あと2秒で破られる。だから1秒後、俺は振り向きざまに彼の顔めがけて【黒龍破】を放った。

 ……誇り高き海軍大佐の頭部は跡形もなく消し飛んだが、その首から下は天元突きの体勢のまま、微動だにしなかった。大きく踏み込んだ右足、そして、柄の底を押す左手の力強さに、俺の目は釘付けになった。もし誰かにその隙を突かれていたら、俺はあっさりやられていたかもしれない。

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