6-1 ステータスが見えるようになった

「おはよざいまーす」

 テレビのお天気お姉さんに朝の挨拶をし、顔を洗う。ブレンディを牛乳で溶かしてカフェオレを作り、白パンをレンチンしてもそもそと食う。着替えれば準備完了。

 女性はこれプラス、髪も化粧もやらなきゃいけないんだから、毎朝本当に大変だろうと思う。

 お天気お姉さんたちは一体何時に起きているんだろう。むしろ放送が終わってから寝るのだろうか。

 そんなことを考えながら、バイトに出かける。

 昨晩飲みすぎたのか、普段より若干頭がぼんやりしていた。そのせいで、部屋を出てすぐのところに描かれていた魔法陣に気づかず、あっさりと踏んでしまった。

「!」

 足元から光がほとばしる。

 しまった。まさかこんな強硬手段に出るとは……!

「……」

 ……異世界に転送されるわけではなかった。

 だが、何だか、視界がおかしい。端の方で常にうっすらと見える――パソコン画面の「ウインドウ」のようなものが。それを見ようと意識すると、ぐっと明確になった。


 ▶ステータス

  アイテム

  スキル


 ステータスが見えるようになっていた。

 い……いらねえー! 現実世界でこの表示いらねえー!!

 状態は感じたまんま、持ち物は見たまんまである。数値化とか文字化することに何の意味が?

 アスリートや登山家には便利かもしれない。だが俺は一介の書店アルバイトだ。どう考えてもコマンド画面いらない。ココナの奴、こんなことで俺が喜ぶとでも思ったのだろうか。

「……」

 まぁとりあえず一度内容を確認しておこう。

 カーソルを「押す」と意識すると、案の定、クリックできた。コマンド画面からステータス画面に移行。


  体力 60/64

  気力 28/34

  魔力 2/9999

  状態 二日酔い【軽】


 二日酔いなのは言われなくてもわかっている。魔力の最大値が異様に高いのは、おそらくココナの言う「高地トレーニング」のせい。そして、現在値が低いのは、この世界にはスミノフ粒子とやらがほとんど飛んでいないせいだろう。

 他に、体温・脈拍・血圧などのバイタルデータも表示されている。なるほど、緊急搬送される時には便利かも……って、そんなわけない。

「僕、自分のステータス見えるんで」

 なんて言ったら、頭を強く打ったと思われるだけである。

「戻る」と意識して、コマンド画面に戻る。「下へ」そして「押す」。アイテム画面に移行する。


  E 無難な服

  E 無難な靴

  財布:所持金10234円(預金残高××××××円)

  ポメラ

  書籍:スティーヴン・キング『ダークタワー』


 おいおい、マジか。預金残高どうやって調べた。しかも合ってるから怖い。

 俺ん家の住所をピンポイントで当ててきたことといい、あちらの世界のプライバシー侵害っぷりは常軌を逸している。

 あと、「無難な服」って。何を着たら「オシャレな服」になって、何を着たら「くそダサい服」になるのか――この画面がどう見分けるかには少し興味がある。

 オメーに判定できんのか? おーん? と、ポプ○ピピックみたいなことをつい考える。

 さて、残るは「スキル」だが……もうそろそろ出かけよう。いつまでも玄関先に突っ立っているのをご近所に見られたら変な人間だと思われる。

 というか、見たくない。知りたくない。自分にどんな能力があるのか。把握しているつもりだが、つまびらかにはされたくない。

「普通自転車免許」のように誰の目にも明らかなものだけ表示されるなら構わない。しかし「執筆:レベル2」などと明言されたら、いろいろ差し支える気がする。「どうせ俺なんてレベル2だし」と不貞腐れかねない。

 いや、「執筆」が表示されるならまだいい。例えば「社交ダンス」など、今の自分がまったく興味のない分野の隠された素質が表示されて「執筆」が出なかったら、俺の人生は何なのだということになる。

 夢を見させてくれ……と思いながら、俺は自転車にまたがり、バイト先へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る