第2話
真っ白だった視界がだんだん明確になっていく。
心の奥深くから意識が這い上がっていくような感覚に襲われ……。
俺はがばっと身体を起こす。
あたりを見渡すとどこかの部屋の中で、俺はベッドの上にいた。
窓から朝日が差し込んでいる。
次第に記憶が明瞭になり、俺は反射的に左腕を見る。
「やった! これは『武王の証』だ!」
左腕に刻まれた模様を見て、俺は思わず歓喜の声を上げる。
どうやら俺は賭けに勝ったらしい。
自然と口端が上がってしまう。
そう、前世で『転生の宝玉』を使った俺は無事に転生を果たしたようだ。
もちろん前世の記憶を保ったままでだ。
そして、もっとも重要なのは……。
俺の左腕に刻まれた『武王の証』。
俺は前世で読んだ文献の内容を記憶の底から引っ張り出す。
間違いない。
この【武王】というのは、俺の前世の職業【武闘家】の上位職で、もちろん『一般職』などではなく、『上級職』だ。
しかも、この世界に存在するあらゆる職業の中で、戦闘能力にかけては最強の職業なのだ。
まさに俺が望んだ、期待以上の証を引き当てたというわけだ。
正直、上級職でさえあれば何でもいいと思っていたから、いい意味で誤算だった。
【武王】は【武闘家】の上位職だから、前世で得た技術や経験をそのまま流用できるのは大きい。
また一から技を覚えなおす必要はない。
その上、【武王】は己の拳による戦闘だけでなく、剣などの武器を使った戦闘も得意とし、おまけに攻撃魔法まで操ることができる。
【武闘家】だった前世の俺より、幅広い戦法を取ることができる。
戦闘の引き出しを増やせるのだ。
これなら、更に修行してステータスを引き上げればラビリンティアの500階層から先に潜ることができるに違いない。
ようやく、限界を突破して更なる高みを目指せる。
自室を出て移動しながらも嬉しさがこみ上げてきて、思わずにやけてしまう。
「おい、クズのフェイ。何にやけてやがる」
突然声をかけられてそちらを見ると、15歳とは思えない肥満体型の少年がいかにも不機嫌そうに立っている。
こいつは俺の兄ジェイナスだ。
俺が転生した家はラザフォード家という地方貴族で、三人いる兄弟の中の長男が今目の前にいるジェイナスというわけだ。
ちなみに俺は三男で7歳。
フェイというのは俺の名前だ。
「お前は『欠陥職』なんだから、少しは申し訳なさそうにしてろよ。この穀つぶしが!」
一方的にまくし立てて、ジェイナスはどこかに行ってしまった。
あいつは俺が前世の記憶を取り戻す前から、ああやって意味不明な事を言って突っかかってくるのだ。
まったく、あんな奴が同じ家族だなんて、それだけで憂鬱になってくる。
だがあいつはラザフォード家の長男だから、ゆくゆくはあいつが当主になるんだよな。
ラザフォード家は間違いなくあいつの代で終わりだな。
まあ俺は冒険者になるためいずれはこの家を出るつもりだから、どうでもいいんだが。
それはそうと、いくら前世の記憶とステータスを引き継いだとはいえ、俺はまだ7歳の子供だ。
どうやら子供のうちは前世のステータスは封印された状態になっているらしい。
封印は成長と共に自然と解けていくので、のんびり過ごすのも悪くはないのだが。
それでも、今からでもやれることはやっておきたい。
ひとまず当面の問題は、栄養の確保だろう。
今朝の朝食の食卓に並べられた料理は、とても貴族のものとは思えない粗末なものだった。
スープは冷めてて味がしないし、パンは硬くて量が少ない。
どうやらラザフォード家は貴族とは名ばかりの貧乏領主らしい。
一応毎日三食食べれるので飢え死にする心配はない。
だが栄養摂取をおろそかにすると、今後の身体的な成長に影響を及ぼす可能性がある。
俺はしばらく考えて、屋敷の玄関から外に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます