プリンセスの歌

@peacesoundsaaa

第1話

〇はじめに

プリンセスを扱ったアニメというと、一般的に華やかなイメージをする人も多いだろう。実際、代表的なのはディズニーのアニメ映画で、ストーリー、キャラクターたちのビジュアルはどれも王道でわかりやすく、たいていの物語はハッピーエンドである。しかし、日本の数少ないプリンセスを扱ったジブリ映画である「かぐや姫の物語」は、とてもハッピーエンドとは言い難い。ストーリー、イラストは、ディズニー映画などの外国の映画作品とは、ほぼ対極の存在といえるであろう。そんな中、ある3つのプリンセスを扱ったアニメ作品を見て、私はあることに気づいた。

プリンセスたちは、みなストーリーの中で必ずといっていいほど歌を歌う。幼い女の子であれば、誰しもあこがれるプリンセス。しかし、そんな彼女たちの歌であるから、絶対に美しくて幸せな響き、とは限らない。時に切なさや悲しさまでも感じ取れる、奥が深いメッセージがきっと彼女たちの歌には込められているかもしれない。

それを探るべく、ある3人のプリンセスに目をつけた。

〇全く異質の3人のプリンセスストーリー 1. かぐや姫の物語

プリンセスと言ったら、美しくて可愛くて、ストーリー中盤でトラブルに巻き込まれても、結局王子とくっついてハッピーエンドがお約束な気がするが、私はあるアニメ映画をみて度肝を抜かれた。かの有名なジブリ映画作品の、「かぐや姫の物語」である。ハッピーエンドではなく、少し切ない終わり方をする物語という印象であったが、ジブリのかぐや姫は“少し”どころでない。なにしろ、手厚く老夫婦に育てられたかぐや姫は、きれいさっぱり彼らを忘れ、少しの情けもなく月へさっさと戻っていってしまう。そして鑑賞者が、あまりのあっさりとした別れに呆然とさえする中、バックで流れる音楽の楽し気なこと。まるでお祭りで流れているような愉快な調べ。姫が去っていく悲しみと、明るい音楽のミスマッチさが、余計に見ているものにショックを与えるように思う。

赤ん坊の姿で登場したかぐや姫。幼少期から丁寧に描かれている彼女も、しっかりと物語中で歌っている。子供のころは、あどけない声と音程で口ずさまれた歌が、彼女が大人へと近づいていくにつれ、変化をしていく。そのうち、歌う範囲が広がり、物悲しい調べのフレーズに達する。これは、いったいかぐや姫の何を意味しているのか。彼女の様子や、心情を踏まえ、分析していきたいと考える。

1. アナと雪の女王

近年大ヒットしたディズニー映画、「アナと雪の女王」。グリム童話などの「雪の女王」とはだいぶ異なるストーリーとなっている。触るものを凍らせてしまう魔法の力を持つエルサは、プリンセスであるにも関わらず、自身の力のために城に引きこもっている。これは、プリンセスストーリーとしては、珍しいケースであるように考えられる。なぜかというと、物語とするからには、普通と違った面白みがないと人々の興味を引くことができない。いまも日本の皇族はそうであろうが、“プリンセス”という存在は、基本的に気軽に外出ができない存在である。国の未来を背負う、大事な娘であるのだから、お城の中で大人しくさせているべきなのである。だからプリンセスを物語として取り上げる時、その逆をいき、作者たちはわんぱくにプリンセスを外に出したがる。もちろん、そうでないと話が進まないのだから。

アナやクリストフのおかげでストーリーは進んでいくが、エルサは基本的に一人である。序盤は特に、目立って登場するシーンはない。しかしなぜエルサが圧倒的に存在感を示すのかというと、それは彼女の歌にある。

「Let it

go」という彼女の歌は、多くの人々が耳にしたことだろう。抜群の威厳で歌われたエルサの姿は、アナと雪の女王をヒットへ導く大きな要因となったことだろう。しかし、誰でも知るこの曲。エルサに自身に焦点を当てたとき、これはいったいどのような意味を持つのだろうか。

1. 白雪姫

2つの作品に比べ、格別古くに制作されたディズニーアニメ、「白雪姫」。森の中に逃がされた姫に王子が出会い、恋に落ち、やがて結ばれるというストーリーだ。この作品が、個人的に最もプリンセスストーリーの王道である、といえるように思う。

美しいと評判の姫は、森の中の動物にさえ人気者で、誰からも愛される。そしてその美しさの嫉妬した魔女により、彼女は一時仮死状態となるが、王子のキスにより目が覚める。

白雪姫は、王子を呼び寄せるために歌を歌う。可愛らしい、ロマンチックで幸せな歌詞。まさに恋する乙女の代表格ともいえるような言葉がこもった歌。これが彼女の魅力を、王子にとどまらず、見ているこちら側にも伝えてくるのだ。2人の愛の歌、とでも表せるだろうか。でも、愛と表現するにしては、二人はその歌をきっかけに出会っているのだから、愛というのは大げさかもしれない。果たしてどのような意味が、彼女の歌に含まれているのだろうか。〇彼女たちの“歌”

これらのアニメ作品を考察して、私は3人のプリンセスに共通点を見つけた。3人みな、歌を歌う。これらがつくられた国、年代、もちろん製作スタッフも全く異なるであろう、3人のプリンセスは、ストーリー内で同じように歌っている。しかし、彼女たちの歌がどのようにとらえられるかはまた違ってくる。

かぐや姫が最初に歌うのは、幼い村の子供たちと遊んでいる場面であった。子供たちが無邪気に童謡のような歌詞を口ずさむと、かぐや姫は憑りつかれたかのようにその歌の続きを口ずさむ。「なにそれ、変なのー!」と言われ、その場面は終わるが、かぐや姫が成長し少女となったときでも、同じ歌を口ずさむ場面が登場する。そこで私が感じたのは、彼女の“成長”と“悟り”だった。

同じ歌が同じ人物によって、繰り返し物語内で歌われることで、彼女の変化を感じ取ることができた。幼いころ、口からこぼれたようにもらした調べは、不安定であどけない。彼女自身も、なぜその旋律が口から漏れたのかわからない、という様子に描かれていたように感じる。だが、だんだんと年を重ね、徐々に大人の女性に近づいていくかぐや姫が同じ歌を歌ったとき、その一つ一つの音は明快でまっすぐだった。幼少期に、突如浮かんだ旋律の意味をすでに理解し、自分の運命を見据えているかのような、彼女の心を感じた。次に、エルサの歌を聴き私が感じたことは、“孤独”と“強がり”である。 Let it goが歌われるとき、彼女以外の人物が画面に映ることはない。決して暗い歌ではないはずなのに、エルサはずっと一人である。前向きな歌詞で、聴くものたちを勇気付けるようなものだが、どこかぬくもりに欠けている。理由のひとつに、「少しも寒くないわ」のセリフとともに、エルサは城の扉を閉めてしまい、終わってしまう点にある。つまり、かろうじて外にでていたエルサだが、自身の力により城を作り上げ、ラストでは孤独の世界へ入って行ってしまっている。曲と映像の圧倒的な美しさで、見る者の多くを引き込んだが、そこに隠れているものは“孤独”、さらに言ってしまえば、彼女の“強がり”なのではないか。なぜ”強がり”かというと、物語のラストで、彼女はアナが生きる王国に戻っている。戻りたくても、魔法の力で閉じこもらなければならなかったのが、エルサというプリンセスだ。「本当は国へ戻りたい」という心情が、Let

it goには隠されているのではないか。

最後に、白雪姫の歌について述べたいと思う。白雪姫の歌は、“夢”や“幻想”を感じさせされる。彼女は森の中、自然の中で、誰か私を愛してくれないかしらと口ずさむ。そして通りがかった王子が、ともに歌い出し、これが二人を結ぶ大きなきっかけとなっている。王子は「愛の歌」、とか「君に捧げる」とか、白雪姫へ口にしてはいるものの、2人の男女のラブソングではないように思う。

一見愛に満ちているこの歌はあくまでも、“夢”なのだ。明確な結末は用意されていない。彼女たちの幻想やロマンチストなセリフが、メロディに乗っているだけで、愛はまだ芽生えていないと思うのだ。せいぜい恋心のきっかけというくらいだろうか。

なぜ私がそう思うか。理由は、歌が終わりを迎えるシーンにある。王子が、口説き文句を歌にのせて白雪姫に送る。これが愛の告白として描くならば、白雪姫は何かしらのアクションを返すだろう。まんざらでもないような白雪姫だが、にっこり微笑みカーテンを閉じるだけで、そのシーンを終えてしまう。この歌は、白雪姫にとって夢や幻想、憧れなのである。彼女は、結果を必要としていなかったからだ。白雪姫の口ずさむ歌詞には、リアルな欲求ではなく、私たちが日常的にふっと考えたり、思ったりする理想と似たものが含まれているように思う。別に今すぐほしいものではないけど、あったら良いな。くらいのウェイトのもの。

〇終わりに

3人のプリンセスの歌を比較し、見えてきたものは、“成長”と“悟り”、“孤独”と“強がり”、“夢”と“幻想”という要素だった。プリンセスストーリーといっても、ただ一概に幸せなストーリーだけでなく、そこには悲しみや別れ、愛と見せかけて、思ったよりもあっさりした感情が詰まっている、というのが比較をした印象である。

プリンセスの歌について、これほど熟考したことはなかったが、“悟り”や“強がり”といったキーワードがあがってくるのは、自分でも意外であった。夢のような存在である彼女が歌う歌に、このような現実的なワードが合わさるのは、大変面白い。このような物語は、幼い女の子たちがよく好む傾向にあるが、大人の目線でそれぞれの行動や心情について分析してみるのも、奥が深く興味深い。

かぐや姫、エルサ、白雪姫にとどまらず、さまざまなプリンセスが世界に存在していると思うので、彼女たちがどのような人物で、いったいどのような歌を奏でるのか。今度はさらに多くの焦点を当て、比較したいと考える。

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