異世界侵略☆ふらんちゃいず大作戦☆
とりとめたいちと秋の空
第一部 男 meets 女
第1話 ある日森の中くまさんにであった。
細長い木から葉っぱが1枚落ちてくる。
落ちた葉は既に何枚と積み重なり、木の根元や周辺の大地を覆い隠している。
辺りは見渡せる限り木々が乱立しており太陽の光を遮りやや薄暗い。
木々の間には十分な間隔があって、獣道のように何かが通った跡もある。
同じ様な木が無数にあるが、種類は様々で、蔦が這っているものや白い幹のもの、それを20本は纏めた様な、下からでは高さが分からないほどの大木まであり、葉っぱの色でさえ赤、黄、緑、さらに青白く光を放っているもの等様々である。
その様々な色の落ち葉達が風に煽られ入り乱れた後では、その下にどのような物が隠れているのか、ここを初めて訪れた者ではその答えを知る前に、その命を失うことも決して珍しいことではない。
さて、落ち葉が一層と積み重なり小動物が隠れらる程度の小山となったところでは、今まさに一匹の鼠が息を潜めて獲物を探している。
その意識の向う先には、地面に落ちた木の実を食べている、豊かな尻尾を揺らした栗鼠が2匹と、これまた落ち葉の下に身を潜め、赤い目を閉じて長い耳を澄ました魔獣―
木の実を食べきった栗鼠の一匹が、新しい木の実に手を出そうと飛び出した瞬間、目の前の地面から凄まじい勢いで血のように真っ赤な牙が迫り栗鼠の腹を刺すと、もう一匹は木の実を捨てて全力で反対方向に走り出す。
しかし、血牙兎は勢いそのままに地面を一度蹴り方向を修正すると、瞬く間に飛びつきその背を食い破る。
注意深く辺りを見回し、素早く餌となった2匹を引きずり葉の下の巣穴へ帰ろうとすると、血牙兎の耳がピクリと動いた。
次の瞬間、頭上の木の蔦に擬態していた蛇―
遅れて着地した血牙兎は深隠蛇に意識を向けることなく、栗鼠を回収すると、衝突の際にダメージを受けたのか、覚束ない足で葉の下の巣穴へと帰っていく。
すると、その一部始終を見ていたであろう鼠が葉の中から姿を現す。
それに続いてわらわらと辺りから鼠が8匹姿を現し、待ってましたと言わんばかりに深隠蛇に群がりその身を貪りだす。
8匹の体を合わせても蛇の半分も大きさがない鼠―
その周りには既に様々な生き物が餌を求めて集まっており、鼠に襲いかかるタイミングを計っている。
そろそろ食事が終るかというタイミングで一番に襲いかかったのは、やはり一番近くにいた血牙兎だった。
先程の覚束ない足取りは嘘だったと言わんばかりの勢い―事実、鼠をおびき寄せる演技だったのだろう―で、一匹に葉の下から襲いかかり、その牙で首元に噛みつき生命を断ちきる。
ここで撤退することなくさらに隣の鼠を仕留めようと行動に移した瞬間、こちらを目がけて直進してくる凄まじい速さの影に気づくが、既に体の動きは止められず、なすすべもなく銀色の体毛に黒い爪を持つ狼―
黒爪狼はまるで止まるそぶりも見せずに周囲の生き物を手当たり次第に襲撃し、黒爪狼から逃げようと近くの生き物は一目散に散って行った。
にわかに森の中が騒がしくなったところで、自身の縄張りの異常に気が付いた、全身を白い体毛と所々の黒い体毛で覆い、大きな力瘤を持つ巨大熊―
大瘤熊猫が黒爪狼を視界に収めた時には、既にその鋭敏な嗅覚によって接近を察知した狼が、一直線に立ち向かってきており、体5個分程離れた距離で自慢の黒い爪をふるうと、その軌跡に沿って風切り音とともに斬撃が飛び出した。
しかし、その斬撃は熊の前足の一振りで掻き消されると、一瞬の内に接近した狼がその首元に飛びつき、牙と爪を突き立てる。
が、熊もこうくることは分かっていたとばかりに別の前足で首元を守る。
急所を狙う狼と身を捩る熊のせめぎ合いはしかし長くは続かない。
いつの間にか熊が動かなくなったかと思えば、狼が身を捩りだす。
その攻防の間に全身の筋肉を膨張させ、狼の爪と牙を抑え込んだ熊は、大きな体躯をさらに一回り大きくして立ち上がると、必死に脱出を図る狼を器用に前足で抑え込み、自慢の力瘤に蓄えた力を解放するように、全身を使って地面に叩きつけた。
地面は大きく揺れ、雷鳴の如きでは足りぬ程の轟音が響くと、そこには今の衝撃で巨大なクレーターが誕生している。
周囲の落ち葉が爆発したかのような勢いで四方八方に飛び上がり、次いで木々が衝撃から逃げるように吹き飛ばされ、その中では逃げ損なった鼠や兎等が余波をくらい絶命しているのがわかる。
むき出しになった地面には地割れさえ生じており、それに巻き込まれる形で木々が何本も倒れている。
衝撃が去った後も森のざわめきは収まらず、その威力の凄まじさを宣伝しているかのように四方に只ならぬ空気を伝搬する。
その中心には黒爪狼が、これ程の衝撃を受けても体がバラバラになることもなく、外傷らしい外傷も負っていない状態で息絶えており、その生物としての規格外さを死してなお誇示している。
その隣には、小さくない傷を受けたが、なおその強靭さに一切の陰りを感じさせない大瘤熊猫がたたずむ。
ざわめきが止み静けさを取り戻した森の中において、自身の力を示すように、誰がどう見てもこの光景を生み出したのが自分だと分かるように、堂々と咆哮した。
これはこの森の日常茶飯事。
黒爪狼も大瘤熊猫も強力な魔獣であり、おおよそ地上の他の生物の範疇には入らない、規格外の生き物だが、決して食物連鎖の最上位ではない。彼らもまた一時の間に狩られる立場になりえるもの。
ここは人類未踏破領域。
大陸西域に漠然と存在する大森林。人類の居住領域より遥かに広いとされる、人類を脅かす数多の生物の暮らす弱肉強食の魔の森である。
「見つけた」
そう呟いた声が聞こえたのか、大瘤熊猫がクレーターの中から視線を上げる。
クレーターの淵に立つ生き物と視線がぶつかると、2拍の間を挟み、示し合わせたかのように同時に動く。
果たして最初に間合いに辿り着いたのは二足歩行の生き物―人間の男―であった。
黒爪狼に勝るとも劣らないスピードで、男はその手に持つ歪な形の巨大な鎚を正面に突き出し、無謀にも大瘤熊猫と正面からぶつかると、弾かれたのは男の倍以上もでかい熊の方であった。
ここは最前線。
人類未踏破領域を開拓する為に集まった、限界を超越する者の戦場。強さを求める者、未来を切り開く者、人類からあぶれた者の活躍の場。人々は彼らを開拓者、もしくは英雄と呼び、彼らを称える歌を惜しまない。
熊は吹き飛ばされながらもかろうじて体勢を整え、男を見失ったことに気付く。
追撃に備え警戒しつつ、体中に力を漲らしたところで再度吹き飛ばされた。
が、今度は男を見失わず、されど体勢が整わず、また追撃をくらう。
男は鎚を正面に構えたままその立派な体躯に見合わぬ俊敏な動きで突撃を敢行し、熊を翻弄するが、相手を弾くだけで、この森で生き抜く強靭な体に大きなダメージは与えられない。
数回そのやり取りを繰り返したところで、いよいよ激昂し理性を失った熊が、我が身を省みない起死回生の一撃を喰らわそうと、大きく立ち上がった。
それを待っていた男は熊の懐に迫ると、大きく振りかぶった鎚の一撃と、熊の自慢の力瘤から解放された一撃が交差する。しかしそこに先程のような衝撃は発生せず、気が抜けたように熊が崩れ落ちた。
彼こそバードン・ドラゴヴィック。巷で「狂い鎚」と呼ばれる、イカした男である。
読んで頂いてありがとうございます。
初めて小説を書きました。
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