3泊4日!? 世界救済短期ツアー!

第旧惑星

プロローグ

【プロローグ】



 ここは海に面した城下町。

 心地よい風が海の匂いを運んでくる素敵な町です。

 城下町というだけあって、メインストリートの商店街は活気に満ち溢れていて、特産の海産物や生活必需品が売られています。

 

 私は商店街を抜けて少し歩いたところにある、街一番の公園にやってきました。

 子どもたちが楽しそうに遊具やボールを使った遊びに興じています。 

 私は子どもたちが座るためのシートを敷いてから、声を張り上げて子どもたちに語りかけました。


「みんなー! 絵本の読み聞かせの時間ですよー!」


 私の声に反応して、子どもたちがこちらを振り向きます。


「あーっ、読み聞かせのお姉さんだー!」

「やったー!」

「ゴブゴブ!」


 ヒューマンだけでなくエルフや獣人、ゴブリンなどの様々な種族の子どもたちが集まってきます。

 趣味で始めた読み聞かせですが、今では子どもたちの娯楽の一つとなっているようで、嬉しい限りです。


「お姉ちゃん! 今日は何のお話聞かせてくれるの?」

「そうねー……」


 私は少し迷ってから、絵本袋から紫色の表紙の本を取り出します。


「じゃあ今日は、『魔女と赤の悪蛇』」

「えー! それもう飽きたー!」

「違うのがいいー!」


 子どもたちから大ブーイングを受けます。何度も小さい頃から聞かされているだけあって、この話は飽きられてしまっているようです。

 私は再び迷ってから、別の紫色の表紙の絵本を取り出して言いました。


「これは? 『魔女と黄土の獅子王』」 

「えー!」

「他のにしよー!」


 これも飽きられているようです。


「『魔女と群青の大鷲』は?」

「えー!」

「『魔女の最期と臨海の王国』」

「えー!」

「『三人の弟子とライムの鯉』」

「えー!」

「『三人の弟子と黄の戦士』」

「ゴブー!」


 どれも駄目なようです。


「お姉ちゃん、他のはないのー?」

「うーん、じゃあ”あれ”読んでみようか」

「あれって何ー?」


 やれやれ、と少し困った表情を見せながら私は一冊の本を絵本袋から取り出します。

 おひさまの光を反射してキラキラと光る七色の表紙に、皆注目してくれました。


「これは聞いたことがある? 『三人の弟子と白の龍』」

「なにそれ」

「聞いたことが有るような、無いような……」


 ざわつく子どもたち。

 そこで、子どもたちのリーダー格の少年が言いました。


「どうせアレだろ! 三人の弟子が協力して龍を倒すんだろ!」


 少年の言葉に、私は首肯し言います。


「そう、これはそんなありきたりな物語……でもね」

 

 私は一度言葉を区切り、皆を見回してから言いました。


「これを聞くのは世界であなた達がはじめて。だって、これはの魔女の物語ですもの」

「えーっ!? どういうこと!」

「ゴブ!?」


 一際騒ぐ子どもたち。

 私は子どもたちに問いかけます。


「――ねぇ、みんなは魔女の物語で誰が好き?」

「流れ星の魔女!」

「大鷲!」

「結界の魔女!」


 口々に子供たちが好きな登場人物を挙げます。

 「流れ星の魔女」が多く挙がり、次いで「結界の魔女」が人気なようです。


「みんな、流れ星の魔女が好きなんだね」

「好きー!」

「じゃあ流れ星の魔女のどんなところが好き?」

「強いところ!」

「かわいいところ!」

「かっこいいところ!」

「すごいところ!」


 ふふ、と笑って私は続けます。


「じゃあみんなの中に流れ星の魔女に会ったことのある子はいる?」


 私の言葉に一瞬間があった後、子どもたちは言います。


「いるわけないじゃん!」

「えー!?」

「おねえちゃんお話と現実を一緒にしちゃだめだよ」

「そうだよね、みんな絵本で描かれた『流れ星の魔女』しか知らないよね。

――だったら、このお話はきっと楽しいよ」

「そうなの?」


 私は頷き、続けます。


「本当の『三人の弟子』達をみんなには特別に教えてあげる。

『流れ星の魔女』が本当に『強くてかわいくてかっこいいすごい魔女』なのか、

『結界の魔女』が本当に『根暗で不愛想だけど優しい魔女』なのか、

『本の魔女』が本当に『地味で存在感の無い魔女』なのか……全部このお話を聞けば分かるよ」

「なにそれー!」

「聞きたいー!」

「早く早く―!」

「ゴブ―!」


 興味深々の子供たちに、私は微笑んで言います。


「さぁ、聞きたいお友達はおとなしく座ってねー」


 みんな我先にと座る中、リーダー格の少年は何かが気に入らないのか立ったままです。


「君は聞きたくないの?」

「フン! そんなウソ話聞きたくないやい! 誰も会ったことがない魔女の弟子さまの『本当』なんてわかりっこない!」

「わかるよ」


 微笑みながら心を込めた一言を返すと、少年は口を噤みます。


「……君が生まれるちょっと前、十年とちょっと前に、この街に魔女の弟子がやってきたんだ。これは、その時のお話」


 私は目を細めながら、最初のページを皆に向けてめくりました。


「わぁっ!」

「あー!」

「ゴブ―!」


 皆が騒ぎ出します。

 なぜなら、そのページに描かれた絵はまさに、ここ、海が見晴らせる公園の景色だったからです。

 しぃー、と私が人差し指を鼻の前に立てると、子どもたちは急いで口に手を当てます。


 ーーどう、聞きたくなった?

 そう言って片目を瞑ると、少年はドンと乱暴にですが、腰を下ろしてくれました。


「――それでは、『三人の弟子と白い龍』のはじまりはじまり」

 

 私はそうして、読み聞かせを始めるのでした。

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