古き竜王


「|古き竜王(エンシェントドラゴン)!シンヤはどこにいるの!?」

(何を言っておる。貴様の目の前にいるだろう)


 光が消え目の前にいるのは三頭の龍と一匹の狼。これのどこにいるの。


「ネル、俺はここだ」


 中央にいる黒い龍が振り向いた。


 は?あれがシンヤなの?


「あれ?もしかしてわかんないのか?」


 そう黒い龍は言うと、徐々に体は小さくなり現れたのは、私を助けてくれたシンヤだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「で?お前は俺たちと戦うか?」

(いや、貴様らからは敵意が感じられぬ。いいだろう)

「よし、ハク、ルナ。戻っていいぞ」

「わかったー」

「はい」


 ハクとルナはポンッ、音を出し煙が出た。そして煙の中から人の姿となったハクとルナがいた。ルナは外した【隠蔽の指輪】を拾いまた自分の指につけ、ハクはニコニコ笑っている。


「お前らいつの間に体が大きくなったんだ?人の体は変わらないのに」

「私たちもわからない」


 ハクの頭の上には、はてなマーク三つ浮かんでいる。俺もわからないため考えていると、ルナが口を開いた。


「………恐らく、元の姿と人間の姿の成長速度が違うんです。人間の姿の時は周りの人間と変わらないが、本来の姿は人間の姿だろうと成長速度が変わらないんです」

「どういうことだ?」

「ボクの体はフェンリルとこの少女の二つの姿があります。だが、本来のフェンリルの姿は、人間の姿になっている間はご主人の|古の王国(アトランティス)の中に収まっています。それは多分、ハクも同じです」

「うん、そうだよー」

「そしてご主人の|古の王国(アトランティス)の中は、獣神ロナウド様に作られたので神気が充満している。しかもあの獣神様ですから、動物であるボクたちの体は影響しやすく、人間の体は変わらずに本来の姿だけ成長したです」

「あ、だからか。賢いなぁルナは」


 俺はよしよしとルナの頭を優しく撫でた。それを見ていたハクも、物欲しそうに見てきたので、ハクの頭も撫でてあげた。

 すると、|古き竜王(エンシェントドラゴン)も発光して元の姿に戻った。そこに居たのは金の髪に金の瞳、エルフにも届くと思われる容姿の20代ぐらいの女性だった。


「ほう、人型になれるのか」

「当たり前じゃ、我は太古から存在する者じゃぞ」

「お前が、|古き竜王(エンシェントドラゴン)か?」

「む、その|古き竜王(エンシェントドラゴン)とはさっきからなんじゃ。我の名は三竜王が一人、天竜王・アリアじゃ」

「へ〜、それが本当の名前か。じゃあアリアって呼ぶな。俺は神夜だ」

「うむ。わかったシンヤ。それよりお主」

「お主?」

「ああ、あの時は敵意があると思い言葉使いがああなってしまった」

「そうなのか」

「での?お主?我を見てもどうも思わんのか?」


 少し、色気を出してアリアは聞いてきた。


「ん?確かにすごく美人で綺麗ないいお姉さん系の人だが………それがどうかしたのか?」

「お主、そんな風に思ったのか……」


 俺はうん、と頷いた。

 だって本当にそう思ったんだもん。

 アリアは少々顔を赤く染める。


「まぁ、そんな感じだ。それよりお前、服を着ろ」

「おお、忘れておった」


 そう言いアリアはしゃがみこみ、思いっきりジャンプして谷から出た。


「な、なに?あのジャンプ力は!?」

「ネル、あれは体の一部を竜化してやったんだ」


 ジャンプしたアリアはすぐに戻ってきた。体には赤色のスカートを着ており、体が全部すっぽりと入っていた。


「おお、綺麗だな。よく似合ってる」

「じゃろじゃろ。もっと見てもええんじゃぞ?」


 アリアはそう言ってスカートの端を上に少し持ち、ギリギリの所まで持ち上げた。


「し、シンヤを誘惑するのはやめてください!」


 そこにさっきまで壁にもたれていたネルが、俺とアリアの間に真っ赤な顔で入り込んだ。


「む、そう言えばその女はお主のこれか?シンヤ?」


 アリアは小指を立ててこちらに向けた。ネルはさっき以上に顔を赤くしている。


「ち、違います!!」

「なんじゃ、違うのか?」

「まぁなぁ」


 ネルの答えを聞いたアリアは、ネルの横を通り後ろにいた俺のに近ずいた。


「シンヤ、そのドラゴンの力はどうやって手に入れた?」

「それは秘密、ただ言えるのはこの力は分けてもらったものだってことだ」


 アリアの質問に俺は口に人差し指を当て、シーというポーズをとってそう言った。


「ふ、まぁいいじゃろう。それよりお主、まだ力を隠しておるな」

「おっ、やっぱりわかるのか」

「当たり前じゃ」

「だが、それも秘密だ」

「なんじゃ、つまらんのう」


 アリアは口にした通りつまらなそうな顔をした。


「おい、アリア。さっきの三竜王ってのは、お前みたいなのがあと二体いるってことだよな」

「お、シンヤはわかったか」

「ああ」

「あ、あと二体って、本当なの!?」


 ネルはこちらに振り向き、驚きを表す。


「うむ、あと二体の名は、海竜王・リヴァイアサン、地竜王・ワームじゃ」

「ほー。そいつらは強いのか?」

「まぁの、我の次ぐらいにかの?」

「そうか、それにしても竜の姿の時は流石、王と名のつくだけはある気配と威圧を感じたぞ」

「ふむ、よくわかってるでわないか!」


 アリアは小さな胸を前に出し、自信満々にそう言った。


「む?今変なことを考えてなかったか?」

「いいや?何も考えてなかったけど」


 鋭い目で見てくるアリアに、ポーカーフェイスで対抗する俺。子供の頃、神界で神様たちとポーカーなどのゲームをしていた時、あの人たち心読めるから無心になった。だが、それでも気づかれたので、理由が表情と視線とわかりポーカーフェイスを鍛えたのだ。


「ふむ、まぁいいじゃろう」


 そんな簡単に見破られては困るからな。


「あ、あとシンヤよ。あの少女たちも何者じゃ?」

「ああ、あの子たちはある人から預けられたんだ。まぁ、その人も二人のこともまだ教えられないが。自分の娘のように育てているよ」

「なるほどのぉ。しかしお主たちには秘密が多いのぉ」

「秘密が多いほどかっこいいだろ?」

「いや、べつに」

「あっ、そう」


 アリアの言葉にそっけなく応えたが、一つ疑問に思ったことがあったので、アリアに問いかけた。


「アリア、その服ってどうやって手に入れたんだ?お前が作ったって訳じゃないだろう」

「うむ、それはだなーーー」


 アリアが何かを言おうとした瞬間、アリア、俺、ハク、ルナ、ネルが地上を見た。

ほう、流石Aランク冒険者。ネルも気づくんだな。

 俺たちが見た所に居たのは、数十人の人間の少年少女たち、10歳から15歳ぐらいのだ。しかも、この谷を囲っている森の中の魔物を数匹持ってだ。


「おっ、人間なんて久しぶりに見たな」

「まぁここらじゃあまり見かけないからねー」

「そうだねー」


 現れた子供たちは何事もないように振る舞っている。


「アリア姉ちゃんー、飯持ってきたぞー。だからか降ろしてくれー」

「わかった、待っとくのじゃー」


 アリアはまたドラゴンの姿になり、少年少女の元に飛んでいく。そして背中に全員と狩った魔物を乗せると戻ってきた。


「お前、その子達どうしたんだ?」

「あぁ、彼らたちはみんな奴隷なのじゃ……」


 アリアの背中から降りて「ご飯どんなのにするー?」や「今日は何して遊ぼっか?」などという楽しげで、笑顔を見せる子供たちをアリアは人間の姿になり悲しみの目で見てそう言った。

 俺は子供たちをよく見てみると、首輪が嵌められていた。


「彼らたちは、村や両親に奴隷商人に売られたり、人攫いによって奴隷になった子たちじゃ。そして、奴隷になったあと売れることなく期限の2年を超えてしまった売れ残り。売れ残りは処分されるのでこの谷、幻惑の谷に放り込まれたのじゃ」


 アリアは悔しそうな顔をして、地面を見た。

 多分、今まで育ててきてなぜこの子たちのような子供が商売の道具にされなければいけないのか、そう思ってきたのだろう。


「そして、そんな彼らたちをたまたまここに住んでいた我が育てたんじゃ」

「この子たちは、どこで売れ残ったんだ?ここに入れられる時、ドラゴンの耳なら聞こえていただろう」

「うむ、この子たちは帝国の奴隷だったのじゃ。恐らく、人攫いも奴隷商人が帝国の冒険者に金を渡しやっているとも言っていた」


 その言葉で俺の心の中に、激しく燃える怒りができた。

 帝国。そんなものはこの世界では一つしかない。それは俺がこの世界に召喚され、愛菜と雫がいる場所だ。


 どこまで腐っているんだ!帝国の人間は!

 同種を殺し、捕まえ、攫い、売り、弄ぶ。そんなものゴブリンやオークとやっていることは変わらないじゃないか!

もともと帝国のことは気に食わなかったが、まさか金儲けのために幼い子供を攫い売るとは。

 さすが、邪神を崇拝しているだけわある。


 俺の心は、怒りと呆れた二つの感情がグルグルと渦巻いていた。

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