第九節 華麗なる合流。 その二
「あれ? 誰かいる?」
「部外者が、勝手に立ち入ってしまい申し訳ありません。庭球部の先輩で、いらっしゃいますか?」
「うん。二年のイレイユ。最後に、そこの彼に負けた奴だよ。驚いた、戸締まりだけでもしておかないと。と思って戻って来てみたら、ははっ」
そこの彼。言いながら、
あの庭球部にあって、本来の活動を念頭に置いている先輩がいた事に、腹の中で驚く様子の面々がいる。
その気配を察したのか、イレイユは言葉を続けた。
「その分だと、倉庫を見たんだな。庭球が出来ればそれで十分。部長は、そう言う人だから。シャートブラムさんは、三年生から部長を勤めている。この方針は三年間、変わっていないって事さ」
非難と愚痴と言い訳をしているのが分かっているからか、イレイユは誰にも目を合わせず、
その姿は、庭球に対する懺悔のようでもある。だからこそ一人で、この場所に戻って来たと言えた。
「じゃ、ぼくは戸締まりをして来るから、思うようにやってくれ」
「はいはい! 俺も手伝います~」
「私も参ります」
イレイユに、元気に挙手した
分担を、それぞれ決め行動に移す中。士紅が、携帯型通信機器・ケータイを耳に添えて通話の最中だった。いつまでも見ていたくなる、端整な口元から語られる音律は耳慣れぬ異郷の響き。
気を取られた
士紅から語られる、一方的な通話の響き。慣れない音律が連なっているが、
不慣れな異国の言語の中に〝
そんな青一郎は、通話が済んだ士紅と視線が合った。モルヤンでは型遅れだと認識されている、二つ折りのケータイを畳みながら士紅が話し掛ける。
「悪い。ケータイ使用が禁止ではなかったから、着信に応じてしまった」
「そんな、俺の方こそ
「〝シザーレ〟って所。私は、そこから来たんだ」
「へぇ、シザーレ」
「〝ロスカーリア〟の方が、判りやすいかな」
いまいち反応が悪い青一郎のために、士紅が地名を言い直した。すると、別方面から声が起きる。
「何!? お前、大ロスカーリアから来たのか!」
「また、遠い所から来たんやのぅ」
近くで零れ球やカゴに手を付けていた、メディンサリと
「仕事だからな」
故意なのか、性格なのか。主語がない士紅の一言に、彼らは無難な肉付けをして話しを進める事にしたらしい。
「親父さん、お袋さんの転勤か何かで?」
「そんな所」
「大変やのう」
「あ、さっき通話中に、俺の名前が出てたみたいなんだけど、気のせいかな」
流れが変わりそうな気配に、珍しく青一郎は話しを引き戻した。青一郎の様子に、
「出した。通話のついでに、
「何だか、申し訳ないよ。会ったばかりなのに」
「気にするな。借りた物を、壊した私が悪いんだ。腕も落ちたからだし。続けて居ないと
「あれだけ動いてたのに? お前スゲーな」
「恐ろしい
それぞれの手元が、片付き出した頃。戸締まりや、他の作業を終えた有志が戻り出す。
季節は二月。冷えた空気、乾いた蒼天には雲一つもなく、彼らを包む。近い未来の部活動の先輩後輩は、情報交換をしながら屋外練習場へと移動した。
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