第96話03話 引っこ抜きに行きたい!

 

変人で……引きこもり?


“スペック高い完璧美少女で、ノブリス・オブリージュの体現者”


あの時聞いた話をまとめるとこうだ。

どう曲解したところで、変人や引きこもりにはならないだろう。


──つまり、何かイレギュラーが起きている可能性が非常に高い。


可能性は4つ。


転生者が原因。

俺の取った行動がシナリオに影響して、その結果王女の性格に変化をもたらした。

現にユーリの暴食ルートは、もうシナリオとして成り立たない。


②王女の周辺か、その身内に転生者がいる。

ただ、その場合の性格の悪方向への変化が謎だ。

そんな奴を王女の傍に置くだろうか?

そこまでの悪影響を与える存在な、有無を言わさずに王様が傍から排除しそうだ。


③只の偶然。

乙女ゲームの世界とはいえ、その行動が強制されているわけではない。

よって全てが同じになるとも限らないだろう。

最も、この可能性は限り無く低いと思われる。

調べた限りでは、これまでゲームとほぼ相違ないからだ。

ここまでの大きな変化は、その他の要因がない限り起きることはないだろう。


④これが本命、王女自身が転生者。

これなら様々な事に辻褄が合う。

兄様との結婚を拒絶したのは自身の死亡フラグ回避と、将来婚約が破棄されてしまった場合に自身の名に傷がつかないようにする為だろう。

その場合、高確率でこの世界の元となった乙女ゲームを、プレイした事があると推測出来る。

……まぁ、王女の中のやつがブス専っていう可能性もなくはないけど。


どちらにしろ、いくら考えても王女本人に会わない限り真偽は判断は出来ない。


……何とかして、引っ張り出せないかな?


ゲーム経験者なら、是が非でも会って話がしたい攻略本が欲しいし


「リュー君? どうしたの? 具合悪い?」


俺が考え込んでいると、母様が心配そうに俺の顔を覗きこんだ。


「いえ、大丈夫です。それより父様。ユーリア様にお会いすることは可能でしょうか?」


「……王女に?」


父様は俺のお願いに、相手が相手だけに苦い顔をした。


「え? リュー君、王女様が気になるの!?」


父様とは対称的に、母様は楽しそうに頬を紅潮させて俺に詰め寄った。


「え? えぇ、少し」


攻略本の為に。


「……何だか、僕王女の事嫌いになっちゃったな」


そして兄様は何故かどす黒いオーラを放つ微笑みをうかべて、そんなことを言い出した。


え? 急にどうしたんだ?


1年前の出来事は、俺にとって軽いトラウマなので思わずビクッとなってしまった。


「……リュート様。皆様はリュート様が、王女殿下に恋愛的な意味で興味を持っているのではないかとお考えです」


俺が兄様達の態度に戸惑っていると、背後からこそっとセルバさんが教えてくれた。


恋愛って……、ただ会いたいって言っただけなのに、飛躍しすぎだろう!


「違います! 全く、これっぽっちも恋愛感情はありません!!」


このままだと妙な誤解をされたままなので、すぐに全否定した。

まだ7歳の子供なのに、何ですぐに恋愛も結びつくんだ。


「えー、違うの? リュー君が誰かに会いたいなんて言うなんて、絶対そうだと思ったのに」


普段そう言うこと言わないのに、と母様は少しションボリした様子で言った。


女性は人の恋愛話を好むとはよく言ったものだ。

先程の母様の異様に高いテンションは、息子の初恋に興味津々だったということらしい。


「違います。ユーリア様は俺と同じ魔眼持ちですし、年齢も近いので1度会ってみたかっただけです」


年齢は兄様の1つ下で、俺の2つ上だ。

純粋に興味を持っても何ら不思議じゃない。


「そうなの……残念だわ。でも、そうね……リュー君にお友達が増えるのは良いことだし、何とかお会いできないでしょうか、ヴィンセント様?」


「……前に王妃殿下から王女とリュートとの婚約話が来ていた。そんなことをしたら、現実にしようと動くかもしれない」


「それは絶対嫌です!」


俺はバッサリと断りを入れた。


何も好き好んで、訳あり物件を選びたくない。


王女に対して失礼だが、ここで否定しないで後々婚約話を進められたらたまったもんじゃない。


「そもそも、王女は誰にも会いたくないと部屋から出ない。陛下や王子とでさえ会おうとしないのだからな。リュートが会うのは難しいだろう」


親や兄弟も拒絶するとは相当なものだ。

益々、転生者の可能性が高くなった。


それにしても……無理矢理連れ出そうとかはないんだな。


「王様もですか?」


「あぁ、王家の魔法は強力だ。暴走させる訳にはいかないし、王女は病弱ゆえ、魔力を全て封じるわけにもいかないからな」


父様は俺の質問にそう答えた。


王家の固有魔法は光属性の大規模破壊魔法だ。

威力が細かく調整出来ない代わりに、最大威力だと小国くらいなら一瞬で消し去れるときく。

他に追随を許さない程の高威力。

暴走しないように魔封石を付けさせるのが一般的だが、体の弱い人には長時間の装着は悪影響だ。

だから、王様達も手を焼いているのだという。

無理に言うことを聞かせようとした結果、王都が消えてしまったら洒落にならない。


んー、困った。

どうやって、王女に近づこうか?

俺の空間魔法でも、近付くのは厳しそうだしな……。


王城の警備は強硬だ。

どう王女と接触するか、俺は頭を悩ませたのであった。

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