第88話23話 No.1にランクインしました。

 

「リュー、無事かな?」


ゲート魔導具によって、現れたのは兄様だった。


マジか……兄様が来る可能を考えない訳ではなかったけれど、本当に直接乗り込んでくるとは。

俺が言えた義理ではないけど、兄様は公爵子息なんだから不用心過ぎなんじゃないか(ゾクッ)


俺が不用心ではないかと心の中で非難していると、背筋に寒気が走った。


……すみません、そうですよね。

一番不用心なのは、間違いなく俺ですね。


俺の考えなどお見通しなのか、黒い笑みが更に深くなる。


というか、もう既にバレてらっしゃる?

…………スール、……あいつチクったな。


兄様の黒いオーラの中に確かな怒りを感じ取り、俺は兄様に計画の全容がバレていることを悟った。

そして、チクった犯人の事も。


そのうちバレるとは思ってたけど……やっぱり凄く怒ってるな。

暫くは、自由に外出できなさそうだ。

ほとぼりがさめるまで、大人しく魔法の開発でもする事にしよう。


「ここは僕に任せて、君達は敷地内を捜索してきて。情報を吐かせたいから、出来る限り生かしておいてね」


「はっ!」


俺が現実逃避に耽っていると、その間に兄様はテキパキと兵士達に指示を出していた。


「なっ、何故ここに公爵家の奴等が!?」


「君に答える必要、あるかな? ウェルザック公爵家に喧嘩を売ったんだ。君達の国が無事であり続けられるなんて思わないでね?」


動揺する男に対し、兄様は冷たく告げる。

笑みこそ浮かべているが、その目は一切の感情を浮かべていない。


「くそっ! そう簡単にいくと思うなよ!!」


男は短剣で兄様に斬りかかろうとした。


「“アイス・ランス”」


「ぐっあ゛あ゛ぃ゛ぎぃあ゛!!?」


剣が兄様に触れるより早く、氷の槍が男の手足を貫く。


「ふふっ、大丈夫、殺しはしないよ? まだ・・ね? 《ボキッ》けど、リュー達にその汚い手で触れたんだ。《ゴキャッ》腕や足の1本や2本……や内蔵の3つや4つ、使い物にならなくても全く問題ないよね?《ベキッ》 ねぇ、リューもそう思わない? 」


「ぐぅうっ…………ぅう」


兄様は楽しそうに話しながらも、苦悶の声をあげる男の骨や内蔵を確実に潰していた。

多分、俺の顔色は今すこぶる悪いだろう。


怖い、怖すぎる。

最早、ホラーの域だよ!!


「……兄様、流石に内蔵は命に関わってきますので、吐かせるまでは待った方がいいかと。というか、今にも死んでしまいそうなのですが……」


「あはは、大丈夫だよ? 一応、傷口ごと凍結させてるから。すぐには死なないよ。こんなクズの心配までするなんて、リューは優しいなぁ」


俺は既に白眼を剥いて気絶している男を見て、兄様をやんわり止めてみるが、兄様は大丈夫、大丈夫、問題ないとますます足に込める力を強めた。


「ぐ……ぅえ゛……」


意識を失った男の口からは、苦悶に満ちた声が何度ももれる。


「本当は今すぐ始末してやりたいけど、こういった事は根本から絶たないと繰り返すからね。《ベキベキッ》……本当、ゴミ風情がリューに手を出すなんて《ポキ》……万死に値するよ《グチョッ》」


そのあまりに凄惨な光景をリオナはレナに見せないようにしながらも、兄様の行動に顔面蒼白。

俺も呆然と見ていることしか出来なかった。


……自業自得とは言え、少し誘拐犯である男に同情してしまった。


「そんなことより、リューは怪我してないよね?」


男を瀕死の重症に追いやって漸く気がすんだのか、兄様は俺の側で膝をつき頭を撫でながら俺の具合を尋ねた。


黒いオーラは消えたが……怖っ、兄様怖っ!


さっきのは、子供に見せちゃいけないレベルだった。

俺が前世なしの普通の子供だったら、確実にトラウマレベルだ。


……やっぱり、一番敵に回しちゃいけないのは兄様だな。

うん、何があってもこの人だけは怒らせちゃいけない。


俺は今日その事を改めて認識した。


「僕は大丈夫です」


「よかった……あぁやっぱり、魔封石をつけられたんだね。絞められた跡がついてる……あと眼球くらいは潰しておくべきだったかな?(ボソ)」


兄様はホッとしたように笑うと、俺の手首につけられた手錠を見た。

ポツリと怖い独り言を溢しながら。

聞いてない、俺は一切聞いてない。


「はい……確実に魔法を封じる事が出来ますからね。兄様、申し訳ないんですが鍵を──」


《ガチャッ、カチャッ、カシャンッ》


探してきてください、の言葉を続ける前に、手錠は解錠され床に落ちた。


「……え?」


俺は訳が分からず、間抜けな顔をした。


「うん、外れたね。魔法は使えるかい? 念の為、自分にヒールをかけておいて」


「え? え? えと……“ヒール”?」


俺は兄様に言われるがまま、魔法を自分にかけた。

手錠が外れたお陰で魔法はいつも通り発動して、頭痛や手足を縛られた時に出来た傷が癒えた。


「あ、あの、魔封石は、硬度が高くて、そう簡単に壊せない筈では??」


俺は兄様に先程から、疑問に思っていることを尋ねた。


魔封石の硬度は、非常に高い。

壊すにしても、そうとう高い威力の魔法が必要になる。

そして、そんな魔法をぶっ放されたのなら、俺も只ではすまない。


「うん? 壊してないよ? だって、そんなことをしたら、リューも巻き込んじゃうし」


兄様は俺の足を縛る紐を切りながら、当然のように答えた。


「えぇ? じゃあ、どうやって??」


「これで、カチャカチャっとね」


兄様はそう言いながら、細い針を出して微笑んだ。

俺は目を丸くして驚いた。


え? それで解錠したってこと!?

兄様は公爵家子息だよね!?

何、そのスペック。

乙ゲーキャラに、盗賊スキルって必要なの?

どんなゲームだよ!!?


俺の中の乙女ゲームのイメージが大いに揺らいだ。


「リオナ達の枷も外さないとね」


そうして、兄様はリオナやレナの拘束をテキパキと解いていった。


「後の事は任せていいだろうし、僕達は先に屋敷へ帰ろう?」


兄様は満面の笑みで、俺に手を差し出した。






この日、俺とリオナの中で逆らっちゃいけない恐ろしい人No.1に、兄様がランクインしたのは言うまでもない。

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