第81話16話 勃発
トーリから忠告を受けて、1ヶ月が過ぎた。
その間、非常に慌ただしく時は過ぎ、休む暇はほぼ無いに等しかった。
リオナやスールは無事正式に家に迎え入れることが決まった。
俺も2人とは、仲良くできそうなのでよかった。
だが、王様からのご依頼を受けてからは、この国だけでなく他国にも俺の事が広まったようで、家に忍び込もうとする賊が後をたたくなっていた。
まぁ、俺や父様達が屋敷を魔改造したので、家は鉄壁の要塞と化してるから安全なのだが。
家中に張り巡らされている電気が流れる銅線や牢や行きの転移陣、それを越えたとしても更なるトラップが待ち構えている。
今のところ挑戦者は後をたたないけれども、それを破れる猛者は現れていない。
……未来永劫しないかもしれないけど。
それ程に屋敷の警備は強固だ。
「そういえば、昨日も賊が侵入したそうですね」
視線上げると、スールが紅茶と茶菓子を用意していた。
これが何気ない会話で振られるあたり、我が家の異常具合がうかがえる。
「うん……懲りないよね」
俺は昨日の賊を思い出して、苦笑いが溢れる。
確か他国の者だったと報告を受けた。
「ですね。この屋敷の防犯を突破するには、上級魔術師だけでも300人は必要ですもんね……むしろ、それだけ用意しても、失敗しそうな感じですし……そろそろ察してくれるとありがたいですよね」
スールも俺につられて苦笑いした。
2人ともすっかりこの異常な日常に慣れたものだ。
「まー、他国のスパイもたまに混じってるから、父様や陛下は情報源ってちょっと喜んでいる所もあるみたいだね」
その関係で、我が家のトラップは即死させるものもあるが、半殺しにして生け捕りにするものも多い。
その話をしていた時、2人が大層黒いオーラを出していたのを覚えている。
「そうなんですか……」
スールは苦笑いをしつつも、ちょっと引いていた。
リオナとスールは正式に俺の従者や侍女になったので、王様と顔を合わせた事もある。
なので、具体的に想像出来てしまうのだろう。
王様も父様も、ちょっとアレな人だからね……。
尊敬は出来るが、普通という言葉からは程遠い2人だ。
「……リオナさんは、無事家に着いたでしょうか?」
窓の外を眺めながら、唐突にスールがポツリと溢した。
「一応、護衛は付けているから大丈夫だと思いますが……」
リオナは2日ほどの休暇を取って、実家に帰っている。
まだ、忙しくてユーリに会わせてあげられていないが、手紙が送られてきた。
それを妹に見せてあげるそうだ。
久しぶりに会う妹に、表情では分かりづらいが随分と楽しみにしているように見えた。
スールはリオナの身を案じているようだが、狙われる可能性のあるリオナには当然公爵家の護衛を付けている。
リオナに危険はまずないだろう。
「そうですよね……」
それでも、スールは不安そうに顔を俯かせていた。
「……何か心配事でも?」
スールとリオナは、この1ヶ月で随分打ち解けた。
同僚としての絆も、芽生えつつある。
これはとても良い傾向だが、何故そんなに不安そうな顔をするのか。
「いえ……特に何かあるわけではないのですか……何というか胸騒ぎがして……」
俺の問いにスールも確信があるわけではないのか、要領を得ない答えを返す。
「後で、確認に行かせましょうか」
万が一の事もある。
それに確認に行かせた方が、スールも安心するだろう。
「よろしくお願いします」
スールは俺に頭を下げた。
「いえ、僕もリオナさんの事は心配ですので、当然ですよ」
俺はこの事を特に重くは、受け止めてはいなかった。
スールの勘が間違っていなかったことを、俺はこの後に知ることになる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
──日が沈み始めた頃だった。
『ゴンゴンゴンッ!!』
荒々しいノックと共に、ガチャリとノブが下がり、扉が勢いよく開かれる。
「どうしたん……リオナさん?」
いきなりの来訪者にどうしたのかと目を向けると、そこには息を切らせたリオナがいた。
俺とスールは目を見開いて、リオナを見据えた。
リオナはまだ実家のメイソンの家にいる筈だが……
「リュート様、妹っが! レナが!!」
リオナは、はぁはぁと息を乱しながらも、俺に叫ぶよう言いつのった。
「妹?」
「リオナさん落ち着いてください。リオナさんの妹がどうしたんですか?」
スールがリオナに駆け寄り、落ち着かせるように背を撫でた。
「──っ、はぁ。もう、大丈夫です。スール君、ありがとうございます」
リオナは一息つくと大分落ち着いてきたのか、俺を真っ直ぐ見据えた。
「それでリオナさん、何があったのか話してください」
俺はリオナに先を話すように促した。
この慌てぶりからして、良くない事が起こったに違いない。
「はい、今日メイソンの家に帰ったのですが、何時もいる筈の場所に、妹が見当たらなくて……それで、探しているうちにこれが見つかって……」
リオナはポケットから、少しぐしゃぐしゃになった紙を俺に差し出した。
「……手紙ですか?」
俺は紙を受け取り、視線を手紙に落とした。
「はい、妹は誘拐されたのです」
その言葉は俺の思考を止めるのに、十分な力を持っていた。
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