第50話17話 兄様は既に末期。

 

ユーリが遊びに来た日の夜、俺は夕食時に父様に明後日教会へ行くことを報告した。


「いいだろう……但し、レイアスも一緒に連れて行く事が条件だ。レイアスがリュートに足らない部分を、サポートをしてくれる筈だ。アイツはまだ幼いが優秀だからな」


「はい、分かりました。明日お願いしてみます」


父様は案外あっさりと許可を出してくれた。

父様は兄様の事をとても信頼しているようだ。

兄様も特に用事がなければ、俺に付き合ってくれるだろう。


「明後日は……特にレイアスに用事はなかった筈だ。問題ないだろう」


「そうなんですか? それはちょうど良かったです!」


明日ついでに、用意したプレゼントも渡すか。


俺は部屋のチェストに仕舞ってあるプレゼントを思い出して、口角を上げた。

兄様が喜んでくれたらいいのだが。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









翌日、セルバさんに伝言を頼み、お昼御飯に兄様を呼んで貰った。

返事はすぐに返ってきた。

絶対に行くとの事だ。

俺はほんの少し呆れつつも、俺は昼までの空いた時間に本を読み続けた。


「お昼御飯のお招きありがとう、リュー」


「いえ、僕も兄様に頼みたい事があったので。此方こそわざわざ来て貰ってありがとうございます」


兄様は約束した時間通りに、離れに訪れた。

さらさらの黒髪を後ろにかきあげ、美しい微笑みを浮かべている。

流石、攻略対象者。

今日も今日とてイケメンだ。


「頼み事? リューのお願いならなんでもOKだよ?」


そして今日も今日とてブラコンだ。

妙な頼み事であったらどうするつもりなのか。


「……せめて内容を聞いてから、引き受けてください」


俺はじと目で言った。


「ははっ! 内容を聞いても聞かなくても、答えは同じだからね。愛だよ、愛」


兄様は笑って言ってのけた。


……もう、末期かもしれない。


この時の俺はきっと遠い目をしていた事だろう。


「……とりあえず、お昼御飯を食べながら話しましょうか」


俺達は席に着いた。

昼は簡単につまめるサンドウィッチが出てきた。

具に海老やローストビーフが挟まっていて、中々食べごたえがある。


「……それで? 頼み事ってなにかな?」


あらかた食べ終わった頃に兄様が口を開いた。


「はい、先日の回復魔法の魔導具の件で、明日教会へ話に行くんですが兄様に付き添って欲しいのです」


俺はトーリ・クレイシスの件は言わないで、建前のみを言った。

乙女ゲームがどうとか言っても頭を疑われるだけだろう。

逆の立場であったら、俺は信じない。


「ふーん? 勿論、一緒に行くよ。でも急だね、その日に試作品が出来るんじゃなかったっけ? 別の日じゃダメなの?」


と、探るような目で問われた。


う、疑われている。

まぁ試作品出来たら教会へ行こうって、話だったからなぁ。

しょうがないかも知れない。


「え、えぇ。でも回復魔法を使える人は少ないですし、早ければ早いほどいいかと思って!」


苦しい言い訳かとも思ったが、建前としてはこれが一番だろう。


「……まぁ、そういうことにしといてあげるよ。時間は午前中かな? 夕方過ぎにはジョディーが来る筈だし」


そう言った兄様の目は、貸し1つだねと語っていた。

一応は納得してくれたみたいだが……早まったかもしれない。


「は、はい。お願いします」


俺は内心冷や汗をかきながら、笑みを浮かばせた。


「そ、そうだ兄様にプレゼントがあるんです! 昨日ユーリや母様達には渡したんですけど……」


「プレゼント? 何かな? ……もしかしてリューがジョディーから巻き上げていた魔石が関係してるのかな?」


やはり兄様は鋭い。

俺のプレゼントが何かもう目星がついているみたいだ。


「そうです。察しがいいですね」


「そりゃあね、目的をもって魔石や宝石を選んでいたみたいだったからね」


「確かに……それもそうですね。では、プレゼントです兄様! いつもありがとうございます!」


俺は満面の笑みを浮かべて、プレゼントを渡した。

サプライズとはいかなかったようだが、喜んでくれるかどうかの方が重要だ。


「ありがとうリュー! 僕こそ何時もリューには感謝してもしきれないよ!」


兄様は心からの笑顔を浮かべて、受け取ってくれた。

和やかな雰囲気が俺達の間を流れる。

俺もつられて笑みを浮かべた。


「でも……どうせなら1番に受けとりたかったな。ぽっと出の|兎(ユーリ)に1番を盗られちゃって、ちょっと残念」


ははっと冗談目かして、兄様は言った。

その表情は終始美しい微笑みだ。




兄様……兄様の方が残念です。

俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

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