第44話11話 魔導具作成

 

あれから小一時間程、掃除に費やした。

ゴミを掃き、捨てて、部屋を換気した。

散らばっていた書類や道具は綺麗に整頓して、ようやく人心地つくレベルにまで落ち着いたのであった。


「これで……やっと、魔導具を造れる!」


幼児の体力でコレはキツいな。

風魔法で補助しまくってやったが、それでもキツい。

手足がふらふらと力が入らなくなってきた。


「流石は魔眼持ちと言うべきか。その年でこのコントロールは見事だな」


「僕もこんな普段生活で使えるレベルの魔法コントロールはないな……凄いな。」


ジョディーや兄様が感心したように言った。

俺はそれよりも、ここまでしてようやく綺麗になったこの部屋の方が驚きだ。


「そうなんですか? 魔法使った方が楽なのに」


これを魔法無しでやったら、1日では終わらない。

ゴミがとにかく多い。


「魔法はまだ……戦闘用に使われるのが主だからな……。平民で使える者も多くないし、何より生活で使われるほど浸透していないからな」


「生活に使えるほどの魔力も皆ないんだよ? 大半は1日に下級魔法10発も撃てれば良い方だからね」


2人が苦笑いして教えてくれた。

どうやら俺の魔力は平均より相当多いみたいだ。

1度1日にどれくらい撃てるか試したことがあるが、下級魔法どころか上級魔法でも100発以上は余裕だった。

流石は貴族の血というべきか。


「よしっ、うんじゃ取り掛かるかっ!」


ジョディーは準備を始めた。


「それは何ですか?」


俺は綺麗に片付けられた机に並べられた無色透明の玉と、魔法陣が書かれた台座について聞いた。


「あぁ、今日全部作るのは無理だからな。今日は核である魔玉を作る。この透明の玉だな。台座は魔法陣を魔玉に刻むための物だ」


「そうなんですか」


「僕も作ったことないから、初めて見るな」


俺と兄様はまじまじと、机の上の道具を見た。


「この台座に手を置いて魔力を流すんだ。そんでもって魔力で魔法陣を刻むんだ。ほら、やってみろ」


「あ、アバウト。もっと詳しく教えてほしいんですが……」


俺は再度説明を求めた。

天才肌故か、言ってる事が大雑把過ぎる。


「んー? だからここに手を置いて、ぶぉーと魔力流して、すいすいーと魔法陣を書くんだよ。分かっただろ?」


「「…………」」


ジョディーは人に教えるのが苦手らしい。

抽象的過ぎて、ほとんど意味が分からない。

俺達はジョディーに教わる事を早々に諦めた。


「……じゃ、やってみますね」


ジョディーは役に立たなそうなので、俺は実際にやってみることにした。

何となくの流れは、さっきのでも分かる。


席に座り、台座に手を翳す。

魔力を流しながら、魔法陣を刻んでいく。


刻む魔法陣は……回復魔法がいいかな?

ジョディーは使えないみたいだし。

あると便利だし、喜んでくれるだろう。


台座の中央にある魔玉の色が透明から、白い光を放ち始めた。


よし……これで……終わり、とっ!


俺は魔玉に上級魔法である“ハイ・ヒール”を刻んだ。

初めてにしては、中々の出来だろう。

俺は顔を上げて、ジョディー達を伺い見る。


「「…………」」


2人は目を見開き口を開けて、驚愕の表情を浮かべていた。


「あ、あれ? ジョディーさん? 兄様? どうしたんですか? ……もしかしてこれって失敗ですか!?」


2人があまりに固まったまま動かなかったので、俺はまさか失敗してしまっていたのかと恐る恐る聞いた。


「いや……な」


「えぇ、あまりにも」


「やっぱり失敗なんですか!?」


2人のお茶を濁したような物言いに、俺は失敗してしまったんだと確信した。


そうか……失敗か。

初めてにしては結構いい線いったと思ってたのに……。


俺は前世含めやれば大抵のことは出来たので、初の失敗にしょんぼりした。

何だかとても悔しい。


「いやいや、失敗なんてしてないぞ! むしろ大成功だ!!」


「そうだよ、リュー。僕もジョディーもまさかいきなり成功するなんて、思わなかったから驚いただけだよ!」


落ち込んだ俺を見て、2人は慌ててフォローを入れた。


「……本当ですか?」


俺は上目遣いに少し目を潤ませて聞いた。

俺が子供だからといって、嘘を言っているのではないのか。


「(……可愛い)本当だよ。ね、ジョディー?」


「あ、あぁ勿論だ。しかもリュート、お前無詠唱で刻んだだろ。普通詠唱するんだぞ?」


「そうですか。なら、良かったです」


2人の目を見ると、嘘は言っていないようだ。

兄様は頬を赤く染めていたが。


まぁ、それはスルーで。

成功か……うん、良かった。


やはり、失敗するよりも成功の方が嬉しい。


「ところでなんの魔法を刻んだんだ? 凄い魔力を流し込んでいたが」


何気なくジョディーは聞いてきた。


「あぁ、回復魔法の“ハイ・ヒール”です」


「は!?」


俺の答えに突如ジョディーが奇声を上げた。


「え? 何か不味かったんですか?」


「不味いっていうか……ねぇ?」


「はぁー、これだから箱入りのボンボンは。そもそもこの魔玉の大きさで上級魔法は容量が足りん。上級魔法を刻めるレベルの物は、殆ど採れなくて稀少で私も数個しか持っていないしな。しかもお前の年で上級魔法使えるのも十分おかしいからな。」


「……リューは同年代の子供の魔法レベルを知らないからね。でも僕もこれには驚いたな」


「そっ、そうなんですか? でも刻めましたよ?」


ジョディーの物言いに押されながらも、俺は疑問を口にした。


「魔力の純度が異様に高いからか? 出来上がった魔玉も濁りが一切ないしな。……それにしても、6歳児に一発で楽々追い抜かれるなんてな……」


「あっ……で、でもこれはたまたま、」


ジョディーの少し残念そうな表情を見て、俺はすぐに言い訳を入れようとしたが、それはジョディーによって遮られた。


「いや、いい。元々私は魔玉作りはそこまで得意ではなかったしな。6歳児が大人に気を使うな。これは私の修練不足だ。……それよりリュート、お前に魔玉作成を依頼したい。今現在回復魔法、しかも上級魔法である“ハイ・ヒール”を刻める者はこの国にいない。回復魔法を使える神官も多くないしな。魔導具として大量に作れれば、怪我や病に苦しむ民も多く救うことが出来る! ……協力して欲しい、頼む!」


ジョディーは俺に頭を下げた。

6歳の子供である俺に、誠意を持って。


俺は前世何でも出来るが故に、嫉妬され憎まれ遠巻きにされてきた。

だからジョディーも俺のことを妬み避けるかと思った……前はそうだったから。

現に何年も職人としてやって来たのに、こんな子供に簡単に抜かれたらプライドが傷付いた筈だ。

しかし彼女は誠意を持って、俺に頭を下げて頼んだ。

俺を利用するためでなく、多くの人を助けるために。

彼女は理想に誠実で、自分のプライドなどその為に捨てられるのだろう。

それは真っ直ぐで美しく、俺にはとても眩しく思えた。


だから──


「勿論です、協力させて下さい」


俺も損得関係なしに、彼女の手を取ったのだ。


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