第35話02話 ヤンデレ?いいえ、萌です。
ユーリ・クレイシス
ヤンデレ攻略キャラにして、あの昼休みの悪夢。
あの日、あの腐女子のせいでクラスメイトは皆食欲をなくし、あれからどんな時でも即逃避が絶対になった。
本当、食事中にカニバの話とか普通しないよな。
……まぁ、転生した今少しは感謝してるけどな。
あれだけ盛大にネタバレしてくれれば、シナリオを大体は把握出来る。
「魔眼持ちは数少ないから、同年代の友人としてユーリとは仲良くして欲しい」
屈みこんで俺に目線を合わせて、優しく微笑んだ。
大人の利害ではなく、父親としての願いだ。
その姿はまるで良き父親のようだった。
なんか凄くいい人そうだ。
少なくとも悪い人に見えない。
……どう見ても豚じゃなくて、只のイケメンなんですけど?
しかも教皇でもないみたいなんだけど!?
腐女子~ぃ、どう言うことだよコレ。
強制的に聞かされていたネタバレが、現実と食い違っている事に俺は内心混乱した。
聞いてないよ。
それともいい人そうなのは演技で、裏は真っ黒なのか?
……うぅー、分からん、兄様の例もあるしな……。
すぐに判断を下せる訳もなく、俺は取り敢えず判断材料を集める事にした。
「勿論です! 僕も同年代の友人は少ないので、仲良くしてくれると嬉しいです」
愛想よく笑顔を浮かべて俺は後ろのユーリに握手を求めたら、おずおずと手を握られた。
「……ん…」
こんな子が、ヤンデレね……。
容姿は父親譲りの髪と目の色で、髪の長さは肩より少し長いおかっぱ。
少年というよりは少女に見えるし、仕種はまるで小動物のようだ。
「人見知りのこの子が握手を……珍しいな。これは是非とも仲良くして貰わなければ」
トーリはそんな息子の様子を微笑ましく見ていた。
握手くらいで驚くとは、ユーリは相当人見知りを拗らせているようだ。
「お前達は同年代だし、魔眼持ち同士だ。国家の有事の時は、協力して貰うこともあるだろう。仲良くしといて損はない」
王様は俺達の頭をわしゃわしゃと撫でた。
折角、整えて貰った髪型が少し崩れてしまった。
「さてと、大人達は退散するか。子供同士仲を深めとけ」
「では、ユーリ。私は挨拶回りをしてくるよ。リュート君と遊んで貰いなさい」
ユーリがトーリの言葉にこくこく頷いて、バイバイと手を横に振った。
そして王様達は俺達から離れ、別々の貴族の輪に入っていった。
「「………………」」
ユーリは大人しい性格のようで、2人の間に静寂が流れる。
俺としては初対面であるし、大人達にはもう少し間を取り持って貰いたかったものだ。
「……軽食でも食べますか?」
「……(コクッ)」
俺の提案に、ユーリは言葉ではなく頷いて答える。
んー、あんまり好かれてないのかな?
それともただ人見知りなだけか?
何が地雷になるか分からないから、手探りの状況だ。
「じゃあ、行きましょうか」
俺は取り敢えず先導して前を歩こうといた。
“くいっ”
背を向けた瞬間、後ろに引かれた。
振り向くとユーリが俺の服の裾をを掴んでいる。
「……どうかしましたか?」
「…………」
尋ねるが、ユーリは喋らない。
何なんだこれは?
よく分からないが害はないので、裾を掴んだままなのは放置して、俺は軽食の置いてある場所に進んで行くことにした。
ユーリも裾を掴んだままだが、黙ってついてきた。
軽食は甘いものから、食事系まで様々だった。
王族の誕生会だけあって、どれも一流の料理人が調理した豪勢な食事だ。
「何が食べたいですか?」
「……」
ユーリは答えなかったが、視線はケーキやお菓子に向けられている。
甘い物がすきなのかな?
「ケーキ、美味しそうですね。いくつか食べますか?」
「ん、……たべる!」
食べたいものが当たってたのか、目を輝かせた。
俺は微笑ましくなって、ケーキを取り分けてあげた。
すると、モグモグと食べ始める。
まるで、雛鳥に餌をあげる親鳥になった気分だ。
ちょっと可愛いかも、弟みたいで。
……年齢的には年上だけれど。
だが、見た目は小動物系の幼い容姿であるし、俺の1歳上に見えにくい。
何より、精神的に幼く感じる。
「美味しいですか?」
「ん。もっと……?」
まだ食べ足りないのか、首を横にコテンと倒した。
かっ可愛い!!
初めて母様達の気持ちが分かった。
俺は新たにケーキを取り分けた後、思わず頭を撫でてしまっていた。
母様もいつもこんな気持ちなのだろうか。
「あり……が…と」
ユーリは少しだけ口角をあげ笑みを作る。
先程まで表情が薄かった分、それにはインパクトがある。
……そうか、これが萌ってやつか。
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