第32話22話 誕生パーティー ③~対決?~

 

……滅茶苦茶睨まれている。

周りに他の貴族が大勢いるのに、顔が鬼のようだ。

周囲がドン引いてる。


俺は敢えて視線を合わせずに、王様達と会話を続ける。

こういうのはスルーするに限る。

周囲の貴族達も視線を合わせないよう、少しずつ距離を取っていた。


「じゃあ、俺達はまだ他の貴族供の相手があるから、仲良くすんだぞ?」


「「はい」」


王様達は俺達から離れるとすぐに、別の貴族達に囲まれた。

王子の誕生会だけあって、国中の貴族が集まっている。

挨拶に来る相手も山程居そうだ。


「……王子は芸術性に富んでいるとお伺いしましたが、特に何がお好きなんですか?」


王様にああ言われた事だし、王子であるエドワードとコミュニケーションを図ってみる。


「僕のことはエドって呼んでっ! 兄上もそう呼んでいると聞いたし。僕は音楽が好きだよ、自分でもヴァイオリンをよく弾くんだ!」


王様が居なくなったせいかエドワードは態度を崩し、弾んだ声でニコニコと俺に言った。


「私(わたくし)のエド様に……(ブツブツ)」


「そっ、そうなんですか」


思わず俺の声が上ずってしまった。


おぉっ!? 益々、嫉妬オーラが。

これが婚約者って……同情するな。


俺は心の中でエドワードに手を合わせた。


「リュート君も弾いたりしないの?」


エドワードはリリスに気づかずに、楽しそうに俺に話しかける。

いや、本当は気付いていて、気づいてない振りをしているのかもしれない。

そうでもしなければ、リリス以外とまともに話す事が出来ないから。


「僕は「エド様っ! 私(わたくし)、貴方の為にピアノの練習をしてきましたの!! 一曲プレゼントいたしますわ!」……」


リリスは俺達の間に無理矢理割り込むと、自身の胸をエドワードの腕に押し付け媚びるように言った。

その姿が母親クリスティーナと被る。


7歳児の無い胸を押し付けて、どうするんだ?

意味か無いだろうに……。


「あぁ……そうだね」


エドワードは先程までの感情豊かな表情が一変して、ひきつった笑顔を浮かべる。


俺は、先日の本邸での出来事を思い出す。

リリスの非道を。

そして味わったばかりの自分自身の無力さも。


……イライラする。

こいつにも、自分自身にも。




……駄目だな、切り替えないと。

今日は人脈を作りに来たんだ。


そうこう考えているうちに、ピアノの音色が会場に響く。

皆がリリスに注目し、本人も得意気だ。


………………これは。


「流石、エドワード様の婚約者ですな」


「まだ7歳ですのに」


そう口々囁かれていた。


は?

この演奏が?

下手……じゃ、ないか?

それとも、一般的な7歳児ってこの程度なのか?


俺は前世でピアノや演奏の部類で幾つも賞を受賞していたので、このレベルが上手いとはとてもじゃないが思えない。

お世辞かとも思ったが、完全にそういう訳ではないみたいだ。

これがこの世界の一般のレベル。


音楽が止み、会場が拍手に包まれる。

そして演奏を終えたリリスが、俺の元に近寄ってきた。


「如何かしら、私(わたくし)の演奏は?」


「…………」


俺はあまりの得意気な様子に、黙りを決め込んだ。


「ふっ、言葉もでなくて? まぁ所詮、下賎な平民の子ですもの。教養がなくてもしょうがないわね。ふふふっ!」


俺の沈黙を別に捉えたのか、リリスが大声で罵ってきた。

俺は公爵子息であり、魔眼持ちだ。

こう言っては何だが、この国では俺の価値の方がリリスより遥かに高い。

これには周囲の貴族達も眉を潜めた。

そしてエドワードもその1人であった。


「リリス、言葉が過ぎるんじゃないか?」


「只の事実ですわ、エド様。……そうだ貴方もエド様に演奏の1つでもプレゼントしたらどうかしら? ふふっ、まぁ妾の子はピアノに触れたこともないでしょうけど?」


エドワードの制止も聞かず、リリスは更に俺と母様を侮辱し挑発してきた。

俺は黙ってピアノに向かう。


「あら、止めた方がいいのではなくて? ウェルザックの名に傷がつくわ!」


リリスはクスクスと嘲笑を浮かべる。

その顔は俺が失敗する事を確信しているようだ。


……いいよ。

その喧嘩、買ってやるよ。

母様まで侮辱した事、後悔させてやるよ。


俺はリリスが嫌いだ。

だから、容赦はしない。


俺は鍵盤に触れ、音を奏で始めた。

前世でよく弾いた曲を。


会場はその音色に聞き入り、その奏でる姿に終始見惚れた。

演奏が終盤を迎え弾き終える頃には、涙を流す者も大勢いた。

曲が終わり席を立って、お辞儀をしてもまだ誰も動くことは出来ない。

一拍遅れてハッとしたように、溢れんばかりの拍手と歓声が上げられる。


「所詮、僕は平民の生活に慣れ親しんでいたので、この程度(・・)しか弾けませんね。今度教えて頂こうかな?」


俺はリリスに先程の仕返しとばかり、嫌味を言う。

俺とリリスの演奏、どちらが優れているかは明白だ。

先程から周囲からは俺の演奏に対する称賛ばかりが送られ、もはや誰もリリスが演奏したことなど覚えていない。

リリスは先程より一層顔を歪ませ、憎悪に満ちた目で俺を睨み付けた。

7歳の子供に対して大人げないと思うが、こいつは別だ。

俺はこいつを許さない。


「すっすごい!! こんな演奏は初めて聞いよっ!! 一番嬉しい贈り物だっ!」


エドワードは先程の演奏にいたく感激なされたようで、頬を上気させ俺の手をぶんぶんと振った。

設定通り、音楽などの芸術に対し並々ならぬ情熱を持っているようだ。


「喜んで頂けて光栄です」


「僕も教師が褒めてくれていたけど、まだまだだね! あぁっ、もう一曲! もう一曲弾いてくれないか!?」


「えぇ、勿論。……そうだ、折角ですしデュエットしませんか? エドワード様がヴァイオリンを弾いて」


「本当!? すぐに用意させるよ! それとエドって呼んでっ!」


一緒に弾かないか提案すると、エドワードは益々目を輝かせた。

そして俺達は二人で曲を奏でた。

こんなに楽しいのは初めてだと、エドワードは笑っていた。





……俺はこの時知らなかった。

エドワードの攻略には高い教養が不可欠で、攻略すると二人で演奏するスチルが出る事を。

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