第22話12話 プライドは崩れ去りました(泣)

 

 

翌日、屋敷に仕立て屋のアンナとシェナがやって来た。

彼女達は姉妹でやっている仕立て屋で、王都で人気をはくしているらしい。

因みにアンナが姉で、シェナが妹だ。


「まぁまぁまぁっ、これはこれはシェナっ!」


アンナが俺を見た瞬間、鼻息荒くにじり寄ってくる。


「えぇ姉さんっ! わかっています!」


シェナも俺を見て、鼻息荒く手をワキワキさせている。

それがひどく不気味だ。


「あの、ちょっ」


俺はじりじりと後ろに後退し、母様の後ろに隠れた。

幼児相手にとる態度ではないだろう。


「すみません、息子が怖がっていますので離れてくれますか?」


母様が注意をして、俺を背にかばう。


普段天然だけど、今日は母様が頼もしく見えるよっ!


「「申し訳ございません!!」」


「あまりに可愛らしかったので!」


「こんな美しい天使を見たのは初めてでしたのでっ!」


と次々に口にした。

双子らしく息があっている。


うーん、このパターン。

なんかやな予感が。


「「是非この服を着て欲しいのです!!」」


声を揃えて言って、荷物から取り出したのは真っ白な……














青いリボンをあしらったフリフリワンピースであった。

しかも背中に羽がついている……所謂、天使のような。


「この服は自信作だったのですが」


「イメージに合うモデルがいなかったのです!」


興奮気味で姉妹は熱く語った。

その熱気は前世で見たあの腐女子に通じるものがある。


……………………え?着ないよ?

そんなキラキラした目で見ても嫌だよ。

俺、男だしね。

プライドってものがあるしね。

絶対嫌だよ。


俺は首を横に振った。


「絶対嫌です。無理です。とっととしまってください!むしろ帰ってください!」


俺は続けて言葉でも断固拒否を示した。

こういった輩にははっきり言うのが1番だ。


「絶対似合うのにっ!?」


「どうしても駄目ですか!?」


「ずぇったい無理です。あり得ません」


姉妹は食い下がってきたが、絶対無理、嫌だと言い放つ。


「ほらよく見てください!」


「最高級のレースとフリルを惜しげもなく使い」


「所々、宝石を散りばめた女の子の憧れ!」


「「どんなに高貴な貴族のお嬢様から、請われても売らなかった逸品ですよっ!!」」


姉妹が諦めずなおも食い下がる。

実にしぶとい根性をしている。


いや、知らんし。

というか俺男だし、宝石もレースも興味ないし。

……なんか最近こういうの多くね?

変態が、異常繁殖してんのかな?


最近会うのが、変な輩ばかりな気がする。

俺は埒が明かなそうなので、母様に助けを求める事にした。


「母様、僕は絶対着たくないです。男ですし」


「………………」


「母様?」


返事がない。

というか、肩がふるふる震えている。

何だか嫌な予感がする。


「かあさ「可愛いっ!! すごい可愛いっ!!」」


母様は突然叫んだ。

嫌な予感が的中してしまったようだ。


「そうでしょう、そうでしょう!」


「この服は女の子の憧れを詰め込んだお洋服ですもの!!」


「はいっ! とっても可愛いですっ!!」


母様は姉妹と手を取り合ってはしゃいでいる。


……逃げよう。

ここに味方はいない。


俺は騒いでいる3人をしり目にソロソロと扉に向かった。

だが──


「リュ~ゥ君っ? 何処にいくのかなぁ? まだ終わってないよぉ?」


母様は俺に呼び掛ける。

いつも通り優しい筈の母様の笑みが、今は非常に恐ろしく見えた。


「ちょっ、ちょっとお手洗いに、いっ行こうかと……」


俺は何とか戦線離脱を試みる。

諦めたら、そこで終わりだ。


「さっき行ってたよね? 私も一緒に行こうか?」


母様は俺の逃げ道を潰しにかかる。


「いっいえ、大丈夫です。あっなっなんかお腹が痛くなってきたなー?」


「2日後には王様に会うんだから、もうちょっと我慢しなきゃダメだよ?」


まだ採寸終わってないでしょ?と、母様が俺に徐々に近付いてくる。

俺はジリジリと後退し、背中がドアにぶつかった。

絶体絶命だと思った瞬間、扉が開いた。


「やぁ、おはよう、リュー。遊びに来たよ!」


そこには蕩ける様な微笑みを浮かべた兄様がいた。

神はまだ俺を見捨てていなかったのだと、そうその時思った。


「にっ兄様っ、助けてくださいっ!!」


俺は兄様に助けを求めた。

同じ男の兄様ならきっと助けてくれる筈だと。

俺の気持ちを察してくれる筈だと。


「うん? どうかしたのかな?」


兄様が俺の前に立ち、母様達にたずねた。


「レイ君そこを退いてっ! リュー君にはこの服を着てもらわないと!!」


「この服……?」


兄様が仕立て屋姉妹の持つ、フリフリワンピースを見た。


ゾクゥッ!?

なっ何か、悪寒がっ!?

逃げないとヤバイ!


俺は自分の直感を信じて、そのまま後ろに下がろうとした。


『ガシッ』


「リュー? 何処に行くんだい? 試着、まだだよ?」


逃亡しようとした俺の手を兄様が掴み、黒い微笑みを浮かべた。


「僕は男ですし……き着たくないです」


「ダメだよ? 我が儘を言っては。それに僕も見たいな?」


我が儘じゃねーよ!

あぁ、でもこれ断れないパターン……。


俺は兄様が同じ穴の狢変態である事を、この時思い出した。


「さぁ、戻ろうか?(ニッコリ)」


そうして俺は部屋に連れ戻されました(泣)







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆









「「「キャーッ!!可愛いっ!!」」」



「……………………。」


女3人でキャーキャー盛り上がっているのを、俺は死んだ目で見つめる。


「完璧だよっ! まさに天使だ! よく似合ってる!」


「………………。」


そして兄様がはしゃいでいるのを見て、俺はドン引いた。

だってまた鼻血出てるし。

もうキャラ台無しだよ。

俺の中で鼻血キャラになりつつあるよ。


「写真っ、写真を撮らなきゃ‼」


母様が急に叫び始める。

もう俺1人だけ置いてきぼりだ。


「奥様、既にご用意出来てます」


カメラらしき物を取り出すセルバさん。

セルバさんに母様達の暴走を止める気はないらしい。


おぉーい!?

流石出来る執事セルバさん。

でもこれは要らなかった。

ここに味方はいないのか……。


絶望した。

俺は四面楚歌なこの状況に絶望した。


「流石セルバさんっ! ありがとうございます!」


「いえ当然のことです」


当然じゃないよ……。

俺のプライドってものが……。


そしてそれから5時間程撮影会となった。

俺のHPは既に0だ。

あれからあのワンピース以外の様々な服(女物)を、着せ替え人形の如く着せられた。

最後の方は最早何も感じなかった。

慣れって怖いね。


「奥様っ! 今度はこのピンクのワンピースなんてどうです?」


「いや、リューにはこの水色の方が似合うと思う」


「どっちも着てもらえばいいんだよ♪」


もう日が暮れつつあるというのに、まだ続けるらしい。

目が血走ってるよ。


「母様、流石にもうつか」


『ガチャッ』


俺がギブアップを訴えようとした時、扉が開いた。


「帰ったぞ。……まだ採寸が終わってなかったのか?」


扉から出てきたのは、仕事帰りの父様だった。

ナイスタイミング!!

これは天からの助けか!

俺は一縷の望みをかけて、父様に助けを求めた。


「父様!もう限界です。助けてくださいっ!!」


「……リュート?」


父様が俺を驚いた顔で見つめる。


「ヴィンセント様お帰りなさいませ! 今リュー君に似合う服を選んでいるところだったんです!」


母様は上機嫌で父様に言った。


……似合う服って、それ女物だからね!?

外で着たら俺、変態のレッテルを貼られちゃうよ?!


「そうか、だがもう時間も遅い。リュートの体力的にも限界だろう」


「父様!」


流石父様常識的人!

カッコいい!


「……そうですね。リュー君ごめんね、疲れちゃったよね?」


母様はしょんぼりしながらも頷いた。

父様相手に無理に押し通す事は出来ないようだ。


やっと……終わった。


俺はそう思った。

この瞬間までは。


「安心しろ、服は全て私が買い取る。明日またやればいい」


父様ブルータス、お前もかっ!?




そうして、俺は翌日も着せ替え人形になった(泣)


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