第20話10話 家族団欒

 

兄様と微妙な気分で別れた後、城から帰ってきた父様が俺が焼いたケーキが既にないことを知り非常に残念がった。


……残しとこうとは思ったんだけど、母様1人でほぼ全部食べちゃったんだよね。

まさか全部平らげるとは……胃もたれしないのかな?

前々から薄々感じてはいたが、母様の胃はブラックホールのようだ。


あまりにも父様がしょんぼりしていたので、俺は今度また何か作ろうと心に決めた。

勿論、母様が沢山食べても大丈夫な量を。


「……ところで何か必要なものや欲しいものはないか?」


ショックから立ち直った父様が、俺と母様に尋ねた。


「欲しいものは特にありませんが……リュー君の洋服や靴が新しいのがそろそろ必要になりますね」


「そうか、明日仕立屋をよぼう。セルバ手配を」


「畏まりました」


母様の要望に父様が応え、即座に指示を出した。


「子供って成長するのが早いですね。ほんのちょっと前までこんなに小さかったのに」


「……それは私も見てみたかったな」


父様が俺の頭を撫でる。

少し悲しそうだ。


「これからは見れますよ? 大きくなるのはまだまだこれからですから」


「……そうだな、これからはずっと一緒だ」


「はい!」


母様が笑うと、父様も笑う。

母様はとっても幸せそうだ。

俺も嬉しい。

やはりこの屋敷に来て正解だった。


「リュートは何かないのか?」


「そうですね……では本が読みたいです」


今までは母1人子1人の質素な暮らしで、娯楽品とは無縁であった。

だが、本がどんなに高価でも此処は公爵家だ。

蔵書だけでも数多くある筈だ。


「そんなものでいいのか? 我が家の蔵書は多い。セルバに後で持ってこさせよう。読みたい本があるなら言いなさい」


「ありがとうございます!」


父様は即座に快諾してくれた。

これで上級魔法や、空間魔法も試せるだろう。


「子供なのに無欲だな……そういう所はカミラに似たのか?」


父様が俺の頭を撫でながら言った。

そうであるなら俺も嬉しい。

だが、母様と違って、俺は無欲とかそんなにいいものではないだろう。

興味があるものが、限られているだけだ。


「それと王に謁見することになった。3日後に王宮へ一緒に連れていく」


「謁見ですか?」


問い掛けでなく断定。

3日後に謁見する事は決定事項のようだ。


結構すぐだな。

それだけ魔眼持ちは、国にとって無視出来ない存在ってことなのか。


「あぁ、王様に顔を見せに行くんだ。……謁見用の服を1から作るのは難しいから、出来合いの物を持ってこさせなくてはな」


時間があれば一から作らせるのに残念だと、父様は言ってセルバさんを見やった。


「その様に手配します」


「頼んだ」


セルバさんは俺達に頭を下げると、部屋を退出して行った。


「父様、王様はどんな人ですか?」


母様から寝物語に聞いた話では、人物像が掴めない。


「うむ……そうだな変人? いや豪胆? 思い切りがいいとも言えるな」


俺の質問に、父様が頭を悩ませながら言った。


え?変人?

それって大丈夫なのか?


父様の言葉で、急に謁見が不安になってきた。


「変人、ですか?」


「あぁ、少し変わったところがある、な。カリスマ性や能力はあるが、気分屋というか……少々、回りを振り回すタイプではあるな」


父様は苦笑い気味に答えた。

その口振りから、王様とかなり親密ではないかと感じた。


「仲がいいんですか?」


「あぁ、子供の頃から陛下の将来の側近として長く一緒にいるからな」


幼馴染みってやつか。

兄様も皇太子の親友設定だったし、随分王家と近しいな。

……俺もそうなるのかな?

確か第3王子は俺と1歳差だ。

……けど、そしたらまたリリスに絡まれそうだな。


俺は簡単に予測出来る未来に、少しうんざりした。


「後は私の父と母にも、近いうちに顔を見せに行くことになる。両親は領地の方にいるから、落ち着いたら行こう」


「はい!」


俺は元気よく頷いた。


お祖父様とお祖母様か。

俺や母様のことを嫌がらなければいいけど。


「大丈夫だ。お前達のことは歓迎してくれる。元々私達の結婚に強く反対してたのは、他の親族達だ。父も……今では受け入れている。初孫を見て泣いて喜ぶさ」


俺の考えている事に気付いたのか、父様が安心させるように俺にそう言った。


「そうなんですか?」


「あぁ、最近は会う度にまだ見つけられないのかと何度も言われたよ。母には情けないとばかり叱られたものだ」


母様の質問に父様は苦笑いで答える。

父様にとっても、認めてくれた事は嬉しい事だったのだろう。


そうか……あまり歓迎されてないと思っていたから良かった。


拒絶されるよりも、歓迎されていた方が何倍もいい。

リリスのように取り付く島もないと、態々手を伸ばす気にはなれない。


「奥様が……」


母様は俺以上に驚いているようだ。

けれど、受け入れられた事をとても喜んでいる。


「あぁ、だから顔を見せてやってくれないか?」


「はい、もちろんです!」


母様は涙を滲ませた目で笑った。

俺も会うのが楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る