第5話04話 うちの子は天使である。 side カミラ

 

“うちの子は天使である”


私は腕の中で眠るの愛しい息子を見て思う。

これは間違えようのない事実だ。

父親譲りの、でもあの方より少し白っぽい艶々の銀髪。

大きいお目眼は私とあの方の色を纏った美しいオッドアイ。

白い肌はスベスベのモチモチ。


……はぁ、超絶可愛い、まさに天使!!

しかも、笑ったときの顔は魔物も瞬殺レベルなのだっ!


それに頭もとてもいいし、とってもお利口な自慢の息子である。

私はあまり勉強は得意ではなかったので、これはあの方に似たのだろう。


もともと、私はとある上級貴族の家で働いていた侍女であった。

そしてその家の次期当主である若様、ヴィンセント・ウェルザック様と恋に落ちたのだ。

身分違いの恋ではあったが、私もあの方も愛し合っていた。

そして、周囲の反対を押しきる形で私が16の時結婚した。

あまり祝福のされない結婚だった。

私は商人の娘で大した学や教養もなかったが、ヴィンセント様が恥を欠かぬよう必死で努力した。


しかし一年後、彼はクリスティーナ・シュトロベルン公爵令嬢を正妻として、なかば無理矢理結婚させられることになった。

私が公爵家の嫁としては、何もかも不足だったせいだ。

そして私は身分の関係上、第二夫人になった。


このことに対して全く思うことが無いわけではなかったが、自分の身分を考えれば仕方ないと思っていた。

ヴインセント様の傍にいれる事が幸せだった。

なんせ彼女、クリスティーナ・シュトロベルンはこの国一番の貴族の娘として生まれた。

同じ公爵家同士、身分の釣り合いはこれ以上ない程とれている。

ウェルザック公爵家にも、利を与えられる。

ただの平民の娘とは大違いだ。


問題は、彼女は既に一度結婚しており男の子と女の子、二人のお子様を産んでいた事のみであった。

ウェルザック公爵家も名門のお家だ。

子持ちということで、周囲もこれにはかなりの難色を示していた。

ヴィンセント様もかなり抵抗していたが、結局はシュトロベルン公爵家による強い働きかけで2つの家は結ばれることになった。


そうして奇妙な結婚生活が幕をあけた。

と言っても、貴族の間では、クリスティーナ様はとても美しいが性格がかなり苛烈で有名であったので、ヴィンセント様は私に離れを用意して接触しないように気を利かせて頂いた。

そのお陰で私は離れに移ってからも、ヴィンセント様と穏やかな日々を過ごしていた。


しかしそんな日々は、長くは続かなかった。

数ヶ月過ぎた頃から、私の周辺で異変が起こり初めた。

最初は些細なことであった。

それが段々とエスカレートしていき、私は少しずつ追い詰められていった。

ヴィンセント様に相談したいが、彼も家を継ぐための準備で忙しく、これ以上負担になりたくはなかった。


そしてとうとう、それが起こった。

私に付いていた侍女が毒殺されたのだ。

彼女はとても優しい人で、貴族の世界に戸惑う私をいつも支えてくれた。

そんな人が、殺されたのだ。

私は怖くなった。

犯人は、きっとクリスティーナ様だ。

私のような平民の娘ににヴィンセント様が心を傾けていたのが、彼女のプライドを傷つけたのだ。

このままでは、私や私の周囲の人を更に傷付けるかもしれない。

常に不安が付きまとうようになった。

ヴィンセント様も私を心配してくださり、護衛を多くつけてくださったりと以前より多く傍に居てくれるようになった。

それでも私の不安は晴れなかった。


そんな不安定な日々を過ごすなか、私のお腹に新しい命が宿っていることを知った。

前よりも嫌がらせはましになったが、未だに続いている。

お腹に子供が宿っていることを知られれば、今度は私ごとお腹の命を狙いに来るかもしれない。


この子を守れるのは私しかいない、私がこの子を守らなけれは。


そう考えた時、私は直ぐに家を出る決断をした。

ヴィンセント様にさえ何も言わず、屋敷を出た。

1人で町や村を転々としながらも、王都から遠く離れた田舎町で出産をした。

王都からこれだけ離れた場所なら、いかに公爵家と言えど簡単には見つからないだろう。

その考えは正しく、私達にまとわりついていたクリスティーナ様の影は遠退いた。


ほっとした。

そして、ヴインセント様に何もお伝え出来なかった事を申し訳なく思った。


難産のすえ生まれた子供は、とても愛らしい子供であった。

そして、魔眼まで宿していた時は驚いた。

恐らく公爵家に伝わる物だと思うが、左右で陣が違う。

各国々の王家や貴族にはもともと、固有魔法を持つがゆえに栄えていた。

しかし時と供にその血は薄れ、魔眼持ちはほとんど生まれなくなったと聞く。

このことが露見すれば政治の道具として巻き込まれることだろう。

シュトルベルン公爵家はこの魔眼に対して、並々ならぬ執着があると聞く。

私とこの子はきっと引き離されてしまう。

母親として、それは私にとって耐え難い事であった。


なるべくこの子を人目に触れないよう、私は気を配った。

田舎町とはいえ、魔眼の事を知っている人もいるかも知れない。

噂になったら、国から使者が派遣されるだろう。

そして、国中の人間がこの子を追い狙うようになる。

そうなったら、私ではこの子を守り通せない。

幸い、何時も面倒を見てもらっているヨキナさんはいい人で、リュー君の魔眼の事も黙っていてくれる。

他の誰にもリュー君が魔眼持ちである事は知らない。


……私がこの子を、リュートを守らないと。

まだ幼いこの子を守れるのは、私だけだ。


住み込みで働いているおかみさんも好い人で、私達親子によくしてくれた。

働く時間やお総菜を持ち帰らせてくれたりと、なにかと融通してくれている。

お陰で母1人、子1人でも何とか生活が出来た。


勿論、それはリュー君の協力のお陰でもあるだろう。

リュー君は、全然泣かない子で夜泣きに困ったことはない。

まるで、私に気を使ってくれているみたいだ。

私には世間の母親が悩むように、寝不足で困るということも手が掛かるということもなかった。

それは感謝すべき事てはあるが、私の事情のせいでリュー君の子供らしさを奪っていると思うと申し訳なく思った。

リュー君は時々何かを悟った様な、諦めた目で物事を見ている。


そして多分……何か……私に隠している。


何時もニコニコと可愛らしく笑っていたが、私やヨキナさんに本当の意味で心を開いていない。

ふとした瞬間に、私を冷めた目で観察していることがあった。

その目には幼い子供ではあり得ない、理知的な光が宿っている。

その事にほんの少し寂しさを覚えていたが、私は気付かない振りをしてリュー君をかまった。


例えこの子がどう思っていても、私にとっては愛しい子。

それはこの先永遠に変わる事はない。


だから、魔法を教えて欲しいと初めておねだりされた時はとても嬉しかった。

しかも魔法のお勉強もどうやら理解してるみたいで、さすがあの方の子!と自分のことのように誇らしかった。


……リュー君は私に理解していることを、知られたくないみたいだけど。

もっともっと甘えて、私に我が儘を言ってほしい。


「んー、んにゅぅ……」


その時腕に抱いていたリュートの瞼がピクッと震えるえると、ゆっくり持ち上がった。


「おはよう。目が覚めた?リュー君」



私とあの方の可愛い可愛い子、私が絶対守るからね。

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