第41話まさかの百合疑惑

「せっかく恋人になったのにまだ手も握れないなんて!

 もう我慢するのはやーめた!今日は

 姉さんに化けて姫宮様に抱きついてやるのだ!ヒヒヒ!」

と狐に頼んで竜寿御前りゅうじゅごぜんに変身した

定家さだいえは下卑た笑い声を立てた。


「姫宮様!たまには弟のことを抱きしめて

 やってはいただけないでしょうか?

 あの子がいつも悶々としているのを

 見ておりますのは姉としてつらいので

 ございます。」

と本人が絶対いうはずないセリフを並べて

定家扮する偽竜寿御前は式子内親王のそばににじり寄った。


「あら、わたしはどちらかというと、

 おまえみたいなかわいい女の子と

 仲良くしたいと思っているの。」

と言いながら、式子内親王は

定家に抱きついて、そのまま押し倒した。


「きゃあ、姫宮様が百合だったなんて!

 だが華奢な体つきなのになんて重いのだろう!」

と驚いた定家が我にかえって

あたりを見ると、丈の高い草が

おいしげった荒れ果てた廃屋である。

 

「助けてくれ!誰か!身動きが取れない!」

と石燈籠の下敷きになった定家はわめいていた。


「よこしまな心を起こした罰ですよ!

 さっきのあんたの振る舞いはただの痴漢じゃないの!

 反省するまでしばらくそのままでいなさい!」

と言い捨てると、妖狐はせせら笑った。


「ちょっとした出来心だったのに、

 厳しすぎるよ!」

と定家は大いにしょぼくれていた。




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