第24話開かずの間に閉じ込めた禁断の恋
平家打倒の挙兵は失敗に終わったが、
いまだに
高貴な身分で人前に顔をさらさなかったためか、
以仁王の顔を知る者はいなかった。
打ち取った首が本物かどうかわからずにいた平家は
以仁王の妻である
彼女は
(1137~1211)に仕える筆頭女房である。
八条院は以仁王の叔母でもあり、後見人でもあった。
三位局は運ばれてきたうち、一つの生首を見ると
袖で顔をおおって泣き出し、ようやく決着がついた。
機転の利く女だから、影武者の遺体の前で
泣いてみせた可能性はあきにしもあらずである。
妹の
「わたしはどうして実の兄に憧れてしまったのだろう。
異母兄弟ならまだしも、よりによって母を同じくする兄弟に。
幼い頃に別れ別れになって、わたしは斎王として、
お兄様は僧侶として生きるはずだった。
なのにわたしたちはどちらもその道を
再び出会ってしまった。わたしは斎王時代の終わり頃、
祭の見物客の中にいたお兄様のお姿を遠くから見て、
誰だかわからずにほのかな恋心を抱いてしまった。実の
兄弟に恋してしまったと気づいてからはずいぶん苦しんだけど、
何とか本当の気持ちを隠しおおせていた。
なのにお兄様はむごたらしい最期を遂げ、
もう二度と会うことはできない。
わたしの道ならぬ恋のせいで
天罰が下ったのだろうか。
罰せられるとしたらわたしの方なのに。」
と式子は思い悩んでいた。
心の中にある開かずの間に封じ込めたはずの
情念がいまさら暴れ出していた。
当時の貴族社会では同じ父と母をもつ兄妹でも、
別々の乳母のもとで育てられることが一般的であったため、
他人のように感じてしまうのも無理からぬことであった。
離れ離れになった肉親とふたたびめぐりあい、
自分に似ているところが多いゆえに相手に惹かれてしまう現象を
「ジェネティック・セクシャル・アトラクション」と呼ぶ。
「母も妹も次々に死んでしまい、兄まで失って
なんてむなしいのかしら。
もう生きている甲斐もないから
家族のもとに行きたい。」
と式子内親王は思い詰めていた。
夜半、うつらうつらしていた内親王の枕元
に亡き乳母が現れて、
「心で思うだけなら罪ではありませんよ。
あなたは気づいていないかもしれないですが、
すぐそばにあなたを想ってくれている人たちがいるのだから
死ぬなどとおっしゃってはいけませんよ。」
とやさしく声をかけた。
式子はなつかしい乳母の胸に抱かれて声を上げて泣いた。
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