第4話侵入者現る
知性を感じさせる美しい額を黒いつややかな髪が縁どっていた。
まつ毛が長くて切れ長の目に、
筋の通った小さな鼻、形のいい小さな唇は人形のように整っていた。
「なんてお美しい方だ。まさに天女だ。いつまでも見飽きない。
おそばにいられるなら、このまま人間に戻れなくなってもかまわない」
などと定家少年は理性を失いかけた頭で考えていた。
しばらくして、衣擦れの音と足音がこちらに近づいてくるのが聞こえてきた。
突然、
若い男が現れたので定家少年は仰天した。
式子は目を覚まし、
男に口を手でふさがれてしまった。
「怪しからん奴じゃ!忍び込んできた上に姫様にふれおって!」
と自分のことを棚に上げて定家少年は憤激した。
「宮様、お手紙差し上げてもお返事を下さらないから
直接思いを打ち明けに参りました。」
とおびえる式子に男はささやいた。
「だれか助けて!」と式子は叫ぼうとしたが声がかすれて出なかった。
「むだですよ。女房をてなづけてあります。それに
と小馬鹿にしたような笑みを浮かべて男は言った。
直後に定家少年は急に体が重くなるのを感じ、
床にたたきつけられた。男が驚いて手を離したすきに、式子は逃げ出した。
「イタタタ…」
とつぶやき定家が自分の体を見ると、毛むくじゃらになっているではないか。
犬に変化した定家は雄たけびをあげ、男の足にかみついた。
痛さに悲鳴をあげて侵入者は逃げ去った。
「源氏物語の
とはいえ姫様がご無事でよかった。」
式子が隠れているところまで定家は歩いていき、しっぽを振りながら
熱いまなざしで見つめた。
「さっきはありがとう。おりこうなわんちゃんね。」
といいながら頭を撫でられた定家少年は
「うれしいな。好きな人にさわられちゃった。
それになんていい香り。このまま飼ってもらえないかな。」
と能天気に浮かれていた。
「大丈夫ですか。あなたの力になりたいです。」といったつもりが
式子にはワンワンという犬の鳴き声にしか聞こえなかった。
そこで定家は筆と紙をくわえてきて思っていること
を書き連ねたので式子は仰天した。
「まあ、あなたは妖狐の類だったのね。
でもわたしにとっては守り神だわ。」
定家は自分の名前とここにきたいきさつを書こうとしたが、
途端にチョウに戻ってしまい、見えない力で建物の外に吹き飛ばされた。
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