ランナーズ・プルガトリィ ~凡才パイロットはいかにして最強の剣使いと互角に渡り合えるようになったのか~
草場 影守
1話 炎の中を歩むモノ
あなたは、生きるために殺人を犯した人たちを、許すことができますか。
北アメリカ、オーガスト陸軍基地。小高い山と平原ばかりの僻地。
新兵訓練が主だった任務であるのどかな基地は、今や火の海と化していた。
基地施設の片隅にある、さびれた倉庫の外では人型兵器、
散発的な爆発音が大気を揺らし、密閉されたコクピットに振動を伝える。
だが、その中には大型火器による発砲音が含まれていなかった。
この基地に配備されているGLWには、手持ちの外装火器ガンポッド、歩兵の自動小銃を模したそれに五五ミリ
施設内だから、発砲許可が下りなかったのか。
想定外の事態が起きているらしい。
もっとも、この基地襲撃自体が想定外なのだが。
アレックス・ボールドウィンは灰色の、軽装の騎士を模して造られたGLW、《マーベリック》のコクピットシートに座り、ハーネスを下す。
緩衝剤に圧が加わり、体がシートに固定された。
機体の本起動が完了するまでの間、補助バッテリィでOSを立ち上げ、
正面に設置された制御モニタに表示されるOSは古い。
警告音とともにNO DATAの表示。
パネルのキーを叩き、警告表示を消す。
この機体には一切の
それどころか、どの通信帯の信号も拾わない。
通信機器自体を積んでいないのだ。
マニューバが存在しないということは、GLWが出力できる動作パターンが存在しないということ。
つまりは動かせない。
「ハロー、アレックス。何をいたしますか」
女声の電子音声が響く。OSに連動したナビゲートAI、レイチェルが起動する。
「はろー、レイチェル。自爆するよ」
細部は端折ったが、つまりはそういうことだ。
キュイ、と制御モニタの搭載カメラが稼働する。
これがレイチェルの目。
「おおっと、発言の意図がわかりません。ご冗談ですよね?」
カメラが連続で稼働音を鳴らす。目を白黒させる、といったところか。
「この機体が狙われていて、奪われるくらいなら、自爆してってマリーが」
「おお、なんということでしょう。佳人薄命とは、まさにこのこと」
レイチェルが嘆く。
当然だ。二回目の起動で、いきなり死ねと言われたのだから。
システムから自爆プログラムを呼び出す。
これだけは初期から搭載されているなんて、この機体は何のために存在していたのか。
一〇年も放置されていた挙句、盗られそうになったから破壊するというのでは、不びんでならない。
「なんとかなりませんか、アレックス。レイチェルからのお願いです」
自爆までの時間設定表示。一五分。
「……やってやろーじゃん」
死の
即座に基地から離れて自爆させる、当初の計画は破棄だ。
コンソール下部、
口元が不気味にゆがんだ。笑みを形作ろうとしたが、うまくいかない。
敵をいっぺんに引き付けて、基地の外へ連れ出してやろう。
時間稼ぎができれば、援軍とやらが間に合うかもしれない。
それなら自爆しなくて済む。そう考え、自爆装置を起動した。
「神よ、わたしはあなたがきらいです」
AIが神の存在について言及する、歴史的場面を目撃したのかもしれない。
この非常事態でなければ、なかなかに興味深い案件だ。
今が非常事態でなければ、だ。
「さぁ、行こうレイチェル。せっかく生まれたんだ。もう少し、あがいてみよう。上手くいけば、自爆はしなくて済むよ」
「
レイチェルが不明な機能を行使している。
今は気にしていられない。
GLWの足音、振動音が近づいてきた。
乱れることのない等間隔なリズムから、すぐ近くには味方機が存在していないのだと悟る。
「ほんとうですか、アレックス。ならば、今からわたしの神はあなたです」
「えっと、おおげさじゃないかな」
アレックスは、つなぎ服に突っ込んであったデータケーブル端子の片方を、《マーベリック》のユニバーサルコネクタに接続。
そしてもう片方の端子を一べつし、覚悟を決めた。
自爆まで、一四分三六秒。
機体が一度、震えを起こす。
吸気量が増え、ハイドロジェネレータが起動電力を満たし、人工筋肉が収縮したためだ。
全身に血液エネルギーが行きわたる。
鋼の人が、目を覚ます。ゆっくりとコンテナが開いていく。
戦乱を招くことを生まれながらに課された、原罪を持つ兵器。
彼等、神亡き星往く罪人たち。
戦火によって浄化を待つ者。
ここは現世に出でた
これは、
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