第17話 名推理と上腕三頭筋
日の出後から数時間程経った頃、死体焼却所に疲れた顔の男達がやってくる。彼らは布に包んだ人間の死体を運んでいるようだ。彼女はそっと近づき詳しい話を聞く事にした。
「お話を聞かせて貰ってもいいですか」
冒険者にしてはやけに若く見える少女の外見に少しだけ驚きながら、1人の警備兵がシエルの問いかけに応じる。ゴムのように厚い手袋を外しながら少女の方に向かい合う警備兵。
「勿論良いとも、といっても見ての通りだと思うがね」
「やはり霧の魔人でしょうか」
「あぁ…霧の魔人に襲われたと最期に言い残してそのままぽっくりさ」
「…………」
死体を見つめながら押し黙るシエル。死体は年老いた翁。全身に傷を負いながら血を抜かれた無惨な状態で横たわっている。
「この死体は…」
「既に協会で祈りは済んでいるよ、あとは焼却処理して土に埋めるのさ」
「死体は全てその処理を行うんですよね」
「勿論だ、いくつか死体処理施設はあるけどすべて最期は焼却処分するよ。その方が衛生的だからね」
その後も推定の死亡時刻やら死んだ人数やらを聞き取り手元の手帳に詳細に書き留めるシエル。
死体焼却所を出ながらシエルは考える。どうにもこの事件は異常な事が多過ぎる。彼女はぼんやりと路地裏を歩きながら先程まで書き留めていた手帳をみつめる。
【異常な点】
死者の性別・年齢がまるで一致しない
即死した者から重傷者まで、負傷の度合いの差が大きい
目撃者が存在しない。いたとしてもその後何らかの要因で変死している。
彼女はこうして事件の詳細をまとめては、所属ギルドに逐一報告をしていた。ギルド自体も事態を重く見たのか警備体制をしきながら警備兵と協力捜査をしている。だというのに一向に情報が集まらないのだ。これは幾らなんでも異常な事態である。王都の中の人間がこれだけ調査しても犯人に繋がる有効な情報を見つけられないなど普通は有り得ない。
いいや待て何かがおかしい。メモを書き留めながらシエルは思考する。そうだこの事件…いいやそもそも一連の犯行
どうして魔人の仕業だと分かったんだ
確か最初の方は正体不明の殺人鬼だったはずだ。それが何時からか【魔人】の仕業だと言われるようになった。一体何故なのか
そう、被害者が魔人の犯行だと明言したからだ。ならばなぜそれ以上の情報が出てこない?男か女か使用する武器は何なのか。そういった情報が現れないのはなぜ?その後、被害者は皆姿を消すように変死してしまうのはどうして?。
もしも魔人の犯行ならばどうしてもっと政治に関わる主要な人物を殺さないのか。武器庫なり宿舎なり襲わないのは…それがどうしても分からない。
魔人の犯行に見せかけた誰かの犯行だろうか
機関のかく乱が目的?或は只の愉快犯?
殺す事が目的ではなく…何かを調べている?
まるで何かを探し求めているような…
彼女は考える。冒険者として被害を食い止める為にも早く犯人をつかまえなければならない。その為にも情報を集めギルドや警備兵と連携をする事で対処をしなければいけない。
謎を解く鍵が必ず何処かにあるはずだ
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