第12話 レアスキル!発覚

「す、凄い!魔力値が2万だなんて」


 ギルド支部に、職員の驚愕と周囲の感嘆する声が響き渡る。タンの魔力検査の結果に皆が驚いているのだ。姉であるシエルは誇らしげに頷く。


 魔力は全ての生命が持つエネルギーの事である。中でも魔力値はその大小を指し示す物であり。通常、一般人の平均魔力値が2,000とされている中で彼の数値は大いに優秀であると言えるだろう。魔法属性が珍しい炎であった事も関係しているに違いない。


「えへへ、やったよお姉ちゃん」


 姉に駆け寄るタン。その表情は嬉しさを隠しきれないボーダーコリーと言った所か。実に微笑ましい光景だ。無邪気に喜ぶ弟の様子に姉であるシエルも満足げだ。


「ふふん、やっぱり私の弟は優秀ね」


「はっはっは流石だね」


「やったよ天馬さん」


 天馬に飛びつく少年。それを抱きしめ返す筋肉、実に暑苦しい光景だ。さながら嬉しさを隠しきれないゴリラと言った所か。無邪気に喜ぶ筋肉の様子に姉であるシエルはしかめ面をした。


「いつまでひっついていないでよ」


「おっとそうだった、私も調べて貰わなければな」


 苦笑する天馬。先程見つけたクエスト『霧の魔人』に挑もうとするのだ、それなりの準備と心構えは必要となるだろう。その為にも早く己の魔力検査を終えてかのクエストに備えなければならない。


「ふふ、だが私も負けないぞ」


 ムチムチパツンパツンの二の腕で力こぶを作る天馬。そんな天馬に対してしてタンが話しかける。


「天馬さん、僕とどっちが上か勝負しませんか」


「勝負?」


「はい、どっちの魔力が優れているか勝負です」


「ほほう、筋肉の貴公子と呼ばれたかった事のあるこの私に勝負とは…面白い」


 思いがけぬ勝負に俄然乗り気となる天馬。それを見つめる周囲の目は些か冷笑気味である。まぁ普通に考えて魔力二万に勝てるとは思えない。中にはどうせ無理だと指をさして天馬を笑い飛ばす物までいる位だ。


 だがそんな冷笑にも天馬は動じずそのまま意気揚々と受付台へと歩いてく。そんな男の背中を見つめるシエル。ひそひそ声でシエルは弟へと問いかける。


「ちょっとタン、勝負だなんていいの?」


 この場合のいいの?とは圧勝してしまい天馬に恥をかかせてしまうだろうけど構わないのか、という意味だ。だがそんな姉のいぶかしげな表情にも得意げに応えるタン。


「ふふ、お姉ちゃんもみんなも勘違いをしてるんだよ」


「勘違い?」


「天馬さんはすごい人だって事さ!それを僕はお姉ちゃんにも知ってほしいんだ!」


「凄い人…そうは見えないけど」


「天馬さんの魔法属性聞いた?実はね……」


 姉に密かに耳打ちをするタン。とても可愛らしい仕草で思わず抱きしめたくなってしまうがシエルはぐっと我慢をする。


「天馬さんって回復魔法なんだって!」


「うそ!レアスキルじゃない!?」


 その事実に驚愕するシエル。回復魔法とはレア属性である。その適正を持つものは7000人に1人とも呼ばれる。非情に珍しく、その有用性は計り知れない価値を持つのである。この漢、もしかして凄い人物なのかもしれない。ごくりとシエルはつばを飲んだ。





「次の方どう……ぐへっ!?」


 淡々と業務を続けていた女は口ごもる。ひきつぶされたカエルのような声を出しながら突如現れた1人の筋肉を見上げた。そのあまりの異様さに女ははっと息を飲んだ。その只ならぬ気配、尋常ならざるオーラに思わず息を飲む。


「ここに手をかざせば良いのかな」


 漢の問いかけにも生返事しか返せない。ケツを突き出しながら淡い光を放つ水晶に向かって手をあてがう男。ただそれだけの動作で女と周囲の人間は魅了される。


 先ほどまで冷笑をしていた観客といつの間にかシンと静まっていた。その漢の歴戦の猛者のような気配【マッスルオーラ】が非戦闘者である一般人にもありありと伝わったのだ。ふくれあがる上腕三頭筋、パツパツになるパンツ。全てが他の人間とは異なっていた。


 違う、この男は他の人間とは明らかに違うと。その異様な雰囲気に思わずその場に居た人間は生唾を飲む。すると漢の全身が震え上がり—————



「ふぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 みるみるとふくれあがる筋肉、一帯に轟く咆哮。溢れんばかりのオーラと凄まじいフェロモンがはち切れんばかりに観客に降り注ぐ。漢の渾身の叫びが、そこにはあった。


「え!」


「ふんのほぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!」


「あ、有り得ない!嘘でしょう!?」


 そんな馬鹿な、あり得ない!呼吸困難になるほどの女の激しい動揺。そんな彼女の驚愕が周囲の観客にも伝わる。一体どんな数値だったのだと騒ぎ始めるオーディエンス。アル中の翁が、酒瓶を落とした。



「…あなたは本当に人間ですか?」


 疲れたようにつぶやく受付女、思わず駆け寄るシエル。


「そんなに高かったんですか!」


「2です」


「え?」


「魔力値2…です」


「………………」


 先ほどまでの歓声が嘘のように消えた。


「魔力値2?嘘でしょう」


 平均魔力値2,000の世界で魔力値が2の人間、そんな話聞いた事も無い。全ての生命が生きる為に必要とされている魔力がたったの2という異常。産まれたばかりの子猫の方が遥に強いという事実。


 ちなみに汚染区域に住む便所虫の魔力値は3である。図らずとも天馬は、お前の存在価値は便所虫以下宣言をされたのであった。


「…魔力値2の回復魔法って…」


 それは最早存在理由を根本から揺るがす命題。誰かを直すたびに自らが死にかけるというヒーラーにあるまじき暴挙。カレーライスのカレー抜き位意味が無い存在である。いいやそもそも魔力値2では何を治せというのか。


「ゆ…」


「ゆ?」


「指のささくれを直す程度の魔法ですね」



それ只の指のささくれ修復機じゃねーか

しかも一回限定の



そんな誰かの空虚なツッコミは人ごみの閑散へと消えていった。



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