魔王と女王と人間たち(3)

 壇上に用意された拡声器を右手で軽く叩き、咳払いを一つ。

 機材に問題ないことを再確認し、女王は深く息を吸う。


「――諸君。これまでの長きに渡る式典の準備、ご苦労であった! 無事、今年もこうして皆と共に建国記念を祝えることを嬉しく思うぞ!」


 城下町から湧き上がる数多の喝采に、空気が震える。


「もうすでに踊り、飲み、食らい、大いに宴を楽しんでいることだろう。午後になれば我もそちらへ赴くつもりだ。その際は共に杯を酌み交わそうぞ!」


 再び涌き起こる声。

 ようやく酒が飲める歳となった以上、身体中にアルコールを浴びる羽目になるのは確定事項だ。


「とまぁ、ここからは例年、小難しい話をするのが通例なんだが……我の演説はここまでだ。実は、どうしてもこの場を借りて演説をしたいと押しかけてきた者がおってな。そやつにこの演説の続きを託すとしよう。さぁ、壇上に上がってこい」


 そう促され、壇上へと上がり、女王の隣へ立つアルシア。


「……さて。恐らくはこの中の多くが幾度となく見かけたことがあるだろう。いや、エイリークに限らないか。彼は世界の至る所を飛び回っているから、よもやその姿を知らない者はいないと思う。紹介しよう。我が無二の親友、アルシアだ」

「紹介に預かった、アルシアだ」


 女王から拡声器を受け取ったアルシアは、改めて眼下に広がる群衆を一瞥する。


「こうも由緒ある式典に突然現れて、なんだこいつは、と思っている者も多かろう。まずは俺のことを実際に見かけたことがある、もしくは知っているという者がどれほどいるかを知りたい。手を挙げてもらえるか」


 魔族であるアルシアには、遠く離れた民衆一人一人の顔もしっかりを識別ができる。

 結果、嬉しいことにほとんどすべての民衆が民衆が手を挙げていた。

 何度も会話をしたこともあれば、すれ違いざまに会釈をした程度だったりと、関わり合いに差はあるものの、大多数がアルシアという人物を知っているという事実に、胸が張り裂ける思いだった。


「……ありがたいことだ。ならば、多少は心を落ち着けて話をすることができる」


 一つ、深呼吸。


「この場を借りて、いくつか大事なことを打ち明けねばならない。心して聞いて欲しい。まず、俺は自分が何者であるかをひた隠しにしてきた。しかし、もう隠すことに意味がなくなった。ゆえに、俺は皆の前で真実をさらけ出そう。だからどうか、これから俺の身に起こることから目を逸らさず、刮目してほしい」


 そして、口元から拡声器を離したアルシアは小さく呟く。


解除リリース


 変身魔法を解く一言。


 人間という仮初の姿がひび割れ、ぼろぼろと剥がれ落ちる皮膚の内側から本来の姿が現れる。

 眉間から生える一対の牛角。口元に収まらない犬歯は剥き出しになる。皮膚の色は毒々しい青へと変色。爪先は獰猛な猛獣のように太く鋭いものに生え替わり、細身の肢体は筋骨隆々とした体躯へと変わり果てる。

 そして、民主の目を一際惹き付けるのは、この大空を支配するとも言われる龍のごとき異様の翼。


 民衆から涌き起こるは、動揺から生じるどよめきと、悲鳴。


「驚かせて申し訳ない。この通り、人間ではないのだ。俺をよく知る者からは、魔王と呼ばれている。改めて名乗ろう。俺は、魔王アルシア。ラストリオンの魔族を束ねる者だ」


 静寂に満ちたエイリークの城下町。

 アルシアと名乗る青年が、魔王であったなど、俄に信じられるはずもなく、ただただ唖然とする者がほとんどであった。


「動揺するのは無理もない。栄えある式典に現れたのが魔王とあってはな……。さて、俺がこの姿を披露したのには理由がある。これもまた突然のことだ。特に、これまで世話になってきた魔族たちには申し訳ないと思っているが……俺は、今日をもって魔王であることを辞めるつもりでいる」


 城下町に再びどよめきが起こる。

 しかし、それは驚きから発せられたものではなく、当惑によるものだ。


「どうして魔王を辞める決断をしたか。それには深い事情があるのだが……平たく言えば、神の使いを名乗る者に脅されたからだ。この世界の平和を願うなら、死ぬか、魔王であることを辞めるか、どちらかを選べ、とな」


 言い切って、せせり笑うアルシア。


「どちらも選ばなった場合には、この世の神がラストリオンを姿形残らず消し去ると言われた。神の使いとやらに抗ってみせたが、魔王の力で以てしても敵わなかった。ゆえに、屈するしかなかった。提示された選択肢のどちらかを選ぶしかなくなった。俺とて命は惜しい。死ぬくらいなら、魔王であることを辞めることを選んだ」


 続く沈黙に恐れず、アルシアは続ける。


「とはいえ、俺が魔王を辞めるには、諸君らの善の感情を集めるという中々にハードルの高い試練を乗り越えなければならないらしい。そういうわけで、ここからが本題だ。……皆が抱くその善とやらの感情を欲しい。感謝だの、信頼だの、そういう些細なものでもなんでも構わない。お願いだ。まだまだこの世界でやり残したことが沢山ある。よりよい世界にしていくために、やらなければならないことは山積みだ。だから、俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。諦めるわけにはいかないのだ。どうか、頼む」


 アルシアの誠意のある言葉が全世界に拡散していく。


 しかし。


「…………」


 静まりかえる城下町。


 城内もまた、魔王アルシアの突然の出現と、そんな彼が魔王を辞めると言い出したこと、そして人間たちに善なる感情とやらを願ったことに頭の整理ができていない者が大半だ。


「アルシアさんって魔王だったのかよ……まずそれに驚いたってば……」

「っつか……もしこれで俺たちの善の感情おやらを集めるのに失敗したらどーなんの?」

「死ぬんじゃない? 二択っつってたろ」

「それこそ実感湧かねぇんだけど……マジでどんな状況なの、これ」


 ある者は困惑し、またある者はアルシアが語ったことを理解できていなかった。


 無理もない話。

 突然、いくつもの真実を打ち明けられては、訳の分からないことをお願いされ、果てには、これが失敗したら死ぬことになると吐露されて。

 感情の整理すらままならない民衆たちは、ざわざわと右往左往するだけだ。


(まずい、このままでは…………)


 肌で感じる空気に、アルシアも焦りを覚える。


「この調子じゃあ、私が望んだとおりの結末になりそうだねぇ……」


 不意に背後から現れた投げかけられた声は、こうなることを誰よりも望んでいた、神の使いのものだった。


「無駄な足掻きだったと分かったろう? どうして私が端からこの案を提示しなかったと思う? 不可能だからさ。悪に生まれ悪に生きてきた者が、善人から信頼を得るなんてのは起こりえないことだからさ。たとえそれが、平和の実現を掲げて果てなき争いを終結させた魔王であったとしてもね」


 いつも間にか庭園へと足を踏み入れていたウラキラルが、やれやれと首を振って説く。


 その右手に収まっているのはアルシアの魔性を除去するための要である宝玉。

 純白の真珠にも見える水晶だが、なんらかの力が宿っているようには見えない。


「事実、清めの宝玉には今朝から露程の変化も見られない。なんともまぁ褒めようがない演説だったから当然かな。いやはや……魔王の最後にしては滑稽を通り越して無様の一言に尽きるなぁ……アハハハハッ」


 振り返り、黙れと一言叫びたい衝動に駆られるが、演説はまだ終わっていない。

 民衆からの明確な応えがあるまでこの舞台から降りるわけにはいかない。

 退路のない状況と知って、ウラキラルはなおも煽り続ける。


「そろそろ降参したらどう? 当事者でもない人間たちに乞うたところで期待する結果なんてでてこないでしょうに。残念だけど、三百年もの間、必死に努力してきた、その結果がこれさ。吃驚するくらいの平和。世界が再び闇に包まれる恐怖なんて誰も抱いちゃいない。だからこそ、皆、これが平和な状態であるということに理解が及ばない。彼らにとってはこれが普通なの。魔物と人間が争っていただの、沢山の人が戦争で死んでいったなんてこと、誰も記憶にないんだから」


 誰も実感してないのに、感謝もクソもない。

 争いの一つもなかったこの数十年で平和呆けをしている人間にとって、戦争など歴史上の話でしかない。

 どれだけの辛苦と努力の果てにいまの世界があるか、それを記憶しているのはごくごく一部の魔族だけなのだ。


 だから、演説の内容だって、恩着せがましいそれにしか聞こえない。


 事実、


「感謝しろって言われてもなぁ……魔王になにかしてもらったって実感ねぇしよ……」

「戦争時代のことなんて想像つかねぇよな……」


 城下町で演説を聴いていた民衆からは、ウラキラルが想定していた通りの反応が吹き出し始めていた。

 なかには魔王に肯定的な姿勢を見せる者もあるが、しかし、大多数が抱く得体の知れない猜疑心や恐怖心、混乱を押しとどめるには足りない。


「くっ…………」

 同じ言葉を繰り返したところで効果は薄い。

 まして変身を解き、魔王として君臨してしまっているこの状況では、眼下で広がる混乱の波に更なる一石を投じてしまう可能性のほうが大きいまである。


「もう分かったろう。無意味なことはやめるんだ。大丈夫、楽に死ねるよう介錯してやるからさ」


 明確な殺意を蛇の尾に込め、ウラキラルはアルシアの背中へゆっっくりと歩み寄る。

 ここに裁定は下った。


 覆しようはない。

 救いようがないと決まっているのに、無駄に足掻き続けた魔王の惨めな末路は、見るに堪えない。


 歴史に名を刻むだけの偉業を成し遂げた者の最後にしてはあまりにも可哀想だ。

 だから、これ以上こんな思いをすることのないよう、この手で始末をつける。


 それが、魔王の生みの親としての、最低限の務め。

 清めの宝玉は結局、最後の最後まで希望を宿すことはなかった。


 けれど、それが普通。当たり前。


 魔王アルシアとて、所詮は魔王の域を出ることはなかった。それだけのこと。

 少し創り方を間違えた程度では、長続きしても三百年程度。それが限界だということを知れたのはウラキラル自身にとっても一つ勉強になった。後処理もやって、これでようやく本来の仕事に戻ることができる。


 なんだかんだで楽しんでしまったが、緊迫感のない下界での息抜きもこれでお終い――


「なにをやっとるんだ、そこの馬鹿は」


 なんて頭の中でこれまでのことを漫然と思い返していたら、背後から呆れた声が上がった。

 ウラキラルは立ち止まり、声の主を流し目で見やる。


「まったく……まさか魔王がこんなにも下手くそな演説をするとは夢にも思わなくて心臓が止まるかと思ったぞ。命が懸っているくせになんだこの有様は。これでは民衆も当惑して当たり前という話だろうが。もう少しまともなことは言えないのか。覇気もない。威厳もない。鬼気迫るものものない。それで民衆の心を動かそうなどよく考えたものだな」


 罵詈雑言の嵐を浴びせ続けながら、エイリーク十三世がウラキラルの横を颯爽と通り過ぎ、壇上へ上がる。


「我にそこを代われ」

「…………いや、しかし」

「この後に及んでなにを躊躇っているのだ。なんでも自分一人で抱え込むな。少しは周囲に頼れ。さきほども言ったろうが。我にできることがあるなら協力すると」


 そして強引に拡声器を奪うと、再び民衆の前に立ち、大きく息を吸い込む。


「……さて、なんともまぁ見苦しい所を見せてしまったようで申し訳ない。だが、魔王とて命が懸っている身だ。多めに見てやってくれ。いまの演説のヘボさは皆の記憶から消してもらえるとありがたいと言ったところかな」


 そんな軽口が始まると、民衆もどこか安堵した様子で、所々に笑い声も起こる。


「実を言うとな、この式典の準備をしている最中、魔王が語った世界そのものについて我も独自に調べていたのだ。近頃、魔王を倒さんとする勇者なる輩が世界各地に出没しているとの報告があったからな。そしたらなんと、魔王を滅ぼさなければ、世界そのものが破滅を迎えるという結果が出たのだ」


 エイリーク十三世は両腕を挙げ、わざと大仰に戯けてみせる。


「事実、魔王は三日に一度、勇者に接待決戦をしているそうでな。それはそれは大変なことだと労っていたところだ。そうして笑っていたら、魔王を倒せないことにいよいよ痺れを切らした神様が使いとやらを寄越した。そして、その神の使いとやらはいままさに我の背後におる。魔王が皆の協力を得られなかった場合にはここで首を獲るつもりらしい」


 城下町から悲鳴が上がる。


「こんなめでたい場で阿呆あほうなことを抜かすなと叱責したいところだが、魔王をもってしても手も足もでない強さゆえ、実力行使で止めることは叶わん。だが、我とてこのひな壇を断頭台にはしとうない。だから、お願いだ」


 ひな壇の上で、豪奢に飾り付けられた金色の華が傾ぐ。


「魔王を辞めると決断したアルシアに喝采をくれっ! 魔王でなくなっても、この世界のために身を粉にする覚悟でいるこやつに声援をくれっ! 衆人環視の中、臆することなく本当の姿をさらけ出した、その勇気を称えてやってほしい! ……どうか、お願いだ……」


 女王は叫ぶ。

 感極まって、声が震える。


「アルシアが犠牲になって得られる世界の平和など、誰が望むっ!? 誰かを犠牲にしなければならない平和など、そんなものは偽りだっ! こんなところで死んでもらっては困るのだっ! こやつから学びたいことはまだまだあるっ! こやつにしかできないことだってあるっ! だから、頼む……」


 得てして巧みな演説で民衆の心理を大きく動かすことを、煽動という。

 その方法は多種多様だが、先導者の情にほだされることによってなし得るものもある。


 いつしか城下町は再び静寂に包まれ、やがて、ぽつりぽつりと声が上がる。


「よく分かんねぇこともあるけど、女王があそこまでいうならよ……」

「まぁ……魔王がいなくなるってんなら、いいことなんじゃない、かな……」

「アルシアさんが魔王ってのには驚いたけど……でも、悪い奴じゃないってのは確かだもんな……」


 広がりをみせる声は、徐々に好意的なそれへと昇華していく。


「アルシアさん、俺んとこの酒が美味いって、いつも買っていってくれるもんな……」

「そういやこの前、僕のお店でもアイスクリームをえらいべっぴんさんと一緒に食べてくれたし……」

「うちの宿屋に来たときも、手入れが行き届いてるって褒めてくれたんだよな……」


 個人的な感謝や好意に始まり。


「昔のことは本に書いてあることしか知らないけど……魔族と人間の争いを止めたのって魔王アルシア、だったよな……つまり、あの人が……」

「戦争のことは想像つかないけどよ……。あの魔王がいてくれたからこそ、誰も争うことなく暮らせるいまがあるんだよな……」

「女王の言うとおり、確かにアルシアさんじゃないとできないことって沢山ありそうだよな。そりゃあ突然死なれちゃ困るよな……」


 魔王への同情や尊敬、感謝と呼べるようなものから。


「女王があそこまでやってんだ。声援の一つくらいはくれてやるってのが国民としての礼儀ってやつだろ!」

「そうだな。女王の頼みとあっちゃあ無碍にできねぇって話だなっ!」

「魔族がどうとか魔王をやめるとか難しいことはわかんねぇけどよ、エイリークと魔王アルシアあってのラストリオンだろーよっ! まだまだくたばってもらっちゃあ困るってもんだ!」

「この祝い酒が弔い酒になるなんて御免だかんなぁ! 魔王じゃなくなっても俺たちのために頑張ってくれやぁ!」


 女王の熱弁に心を動かされ、はたまた酔いに任せて場の雰囲気に合わせて盛り上がる者まで。


 アルシアが望んだ陽気で声高な雰囲気が、民衆によって醸成されていく。

 エイリーク十三世が所望したどよめきと喝采が、熱を帯びて城下町を揺らしはじめる。

 高らかな金管の音色がそれに続き、音律を刻んでいく。


 それはまるで、希望を願い、繁栄を祝い、発展を望む人々の願いの形。

 まさに、人間が織りなす、善と呼べる想いの形に相違ないもの。


「――ッ!?」


 ゆえに、魔王アルシアの消滅を願った者の思惑は外れることになる。


「そ……そんな、馬鹿、な……」


 その手に握る清めの宝玉がにわかに輝きはじめ、ウラキラルは目を見開く。

 およそ理屈や条理では考えられない出来事が起こっていることは明白だった。

 勇者が魔族から愛される存在になるのが不可能なように、その逆もまた然り。


 しかし。


 眼前で展開される事態は見間違いようのない、実現不可能なはずのそれ。


「……嘘だ、あり得ないあり得ないあり得ないって!」


 癇癪をあげて否定し続ける間にも、城下町から漂ってくる熱に浮かされるようにして、清めの宝玉は眩くなっていく。


「まだだっ! もっともっと、お前たちの気持ちをくれっ! 魔族の王たるアルシアに喝采を! 感謝を! ラストリオンはアルシアを歓迎する! アルシアの望みを受け入れる! ラストリオンの更なる繁栄と終わりなき平和を実現するために、誰かの命を差し出すなどあってはならない! 我はこやつから学ばなければならないことばかりだ! 死んでほしくないのだっ!」

「言ったれ言ったれぇ! その通りだっ!」

「聞いてるこっちが恥ずかしくなるぜ! だけどそれでこそ女王ってやつだ!」

「俺たちの想いは女王と一つだぞーっ!」


 エイリーク十三世の更なる演説に焚きつけられた民衆たちは、やがて魔王アルシアの名を連呼しはじめる。


「これ、は……」


 これまで魔王城で魔族を相手に演説をしたときしか味わうことのなかった心地の良さ。

 種族の違いこそあれど、アルシアへ伝わってくるその熱気は同じ。

 彼を称え、礼讃し、鼓舞し、万雷の喝采を送り続ける民衆たちは、鳴り止むことのない拍手と指笛を送り続ける。


「さぁて。もう分かったろう」


 拡声器から口を離して、女王が言う。

 意趣返し。


「これが民意だ。結果など、改めて問うまでもない」

「たかが人間ごときのくせに……どうしてっ!?」

「なにをそんなに驚くことがある」

「だって、こいつは魔王なんだよっ!? 人間の敵なんだぞっ!? 滅ぼすべき存在だってのに、なんなのよこれっ!?」

「……魔王は人類の敵であり、滅ぼすべき存在だと。お前にとっては確かにそうなのだろうな。まぁ、ラストリオンの歴史を紐解けば、魔族と人間は果てしない戦争を続けてきたのは疑いようのない事実だ」

「だったら――」

「知ってのとおり、魔王アルシアは少し変わり者でな。どういうわけか人類を愛し、平和を願った。その結果がこれだ。お前はこの景色を否定するか? この世界の有様を否定するか?」

「…………そっ、それは」

「できるわけがないわな。この世界の有様そのものを否定など、できるわけがない。それができれば、神とやらにこの世界の裁定を任せてしまえばよかった。わざわざ貴様がアルシアのもとへ来ることなどなかったはずなのだから」

「…………っ」


 ウラキラルはいよいよ押し黙ってしまう。


「さて……。もうこれくらいでいいだろう。ウラキラルとやら」

「参ったわね……。充分すぎるくらいよ。もうね、呆れて物も言えない」

「それは同感だ」


 エイリーク十三世は豪快に笑ってみせる。


「我の民草は呆れるくらいに人が良いところが自慢だからな」

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