7 ひよこ隊校歌
こちらはしろくまマスターのいるBar「ヒヤシンス」です。まだ開店前だというのに、もうお客さんたちがくつろいでいます。
まあ、いつも鍵が開いてるので、勝手にみんな座ってるだけなんですけどね。
おや、しろたしろみのふたり(にひき)が写真を撮られています。
どうやら月刊「北極の友」の姉妹誌でこども向けの「北極のおともだち」のモデル撮影のようです。すっかり人気者ですね。
特集記事は「手品」だそうで、しろたしろみはマジックの恰好をしてステッキを持っています。
「いいね、しろみちゃん、目線こっち」
「そうそう、しろたくん、ステッキ上げてみて」
撮影をしているのは一角さん。彼はカメラマンなんです。ふたりを見たくて、だんだんギャラリーもふえてきました。
「ねぇ、イッカクさん、やっぱり手品と言えば、ハトじゃない?」
「しろみちゃんがそう言うだろうと思って、来てもらってるよ」
あ、いました。テーブルにちょこんと座ってるのは、ハジロウミバトちゃん。
羽白海鳩って書きますからね、れっきとしたハトさんです。黒い翼に白いポケットがついた、マジックにぴったりの子です。
「くるっくー」
しかし、このカワイイ子が実はとてもやんちゃで、撮影はしっちゃかめっちゃか大騒ぎになりました。
最後までちゃんとシルクハットの中でおとなしくしてないとだめなのに、すぐぴょこーんって出て来ちゃうんです。
「まだ、だめ!」って、しろたが頭おさえても、「こんにちは!」ってミッキーみたいな声で出てきちゃうから、みんなくすくす笑いが止まらなくなってきました。
「どこの世界に手品のタネが先に出て来ちゃうのよー」
しろみはもう泣き笑いです。
とうとうハトちゃんは、ポケットから豆鉄砲を取り出して、ガンマン気取りでみんなを打ちはじめました。
ハト&ピース。平和な時間が流れています。
*
次の日、パフィンのひなたちが元気に行進しながら「ヒヤシンス」にやって来ました。
「ひよこ隊校歌」できました! 元気よくそう宣言しています。なにそれ。
そもそもこれは、しろくまBarのマスターがつぶやいた言葉から派生したものらしいんです!
とある夜のこと。
しろくま事務所は年度末の仕事に追われ、残業続きでありました。
常連のみんなは泣く泣くBarに来れず、閉店間際にやっと、しろくま1頭「電卓」さんが飲みに来ました。
「いやぁ、今日も忙しかったぁ」
めずらしくカウンターに座った電卓さんは経理担当なので、マスターとお店の経営についての会話になったそうなんです。
その時に、マスターが「費用対効果がね、合うといいよね」とため息をついたのを聴いたホッキョクウサギのミミが、空耳アワーに入りました。
ええ、カンのいいあなたならお気づきですね。そうです。
「費用対効果がね、合うといいよね」が
「ひよこ隊校歌がね、あるといいよね」に空耳したんですね。
かくしてはりきったミミは、パフィンたちの通う小学校にかけあって、早速「ひよこ隊校歌」を作り上げました。
作詞作曲ミミ、指揮もミミ。ついでに鼓笛隊も編成されまして、小太鼓やらベルリラだのを持って、発起人のしろくまマスターの元に初披露しに来たわけなんです。
ひ、ひ、ひよこ隊♪ どこかで聴いたような。
かに、食べ行こうー♪ (それはパフィーだから)
げんきに、通うぞ、ひよこ小学校♪
パフィンちゃんたちがテケテケ歩いている姿は大変愛らしいです。オレンジ色のくちばしと水かき、そして困ったようなお目目がチャームポイント。
僕たちペンギンとよく似てると言われるんですが、圧倒的に負けてる気がするんですよね。なにしろ、パフィンは飛べるんですよー。(涙目)
「まあまあ」とマスターが、珊瑚色ハイボールを僕の前に置いてくれました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます