5 しろたしろみファン


 カランコロン。


 ある日、しろくまBar「ヒヤシンス」に、ダンディな帽子を目深に被って、ロングコートを着た紳士がやってきた。

 もしやこの姿は、探偵さん?


「ここに来れば会えるらしいって、聞いたんで」

 痺れるような低い声で、ささやく。


 誰に? 目的語が省略されてるとわからないですよ。


「しろたくん、しろみさんに」


 ・・・

 ・・・・・・。


「え? あの親戚のこどもたちのこと? しろた、と、しろみ?」

 マスターがグラスを拭きながら、きょとんとした顔をしています。


 フワリと帽子を取ると、そこには青みがかった灰色の毛をなびかせた、ホッキョクギツネさんがいました。おお、端正な顔立ちです。


「わかさぎ釣り場でファンになってしまいまして。氷上漫才のお二人に」

 おふたり? ぽかーん。

 ホッキョクギツネさんは頬を染めています。はっ? むしろあなたこそファンがいそうですが。



 早速、マスターが電話でおいっことめいっこを呼び寄せています。

「おまえらのファンって方がいらしてるから、ちょっとおいで。おやつあげるから」


 しろたしろみが到着するまでの間、ホッキョクギツネさんはしろくま事務員さんたちと話し込んでいます。どうやらしろくま事務所内でも人気があるらしいです。


「ただそこにいるだけで、しろくまのこどもちゃんたちってかわいいんですよ。それが、それが、漫才までやってるんですよー」

 なんかもう目がハートになっています。


「最近、わかさぎ釣り場にどんどんギャラリーが詰めかけて、穴もふえて氷が割れそうなくらいなんですよね」

 もなかさんが、お口にあんこつけたまま、そう言いました。

「なんですと、それは由々しき事態!」

 環境担当の「ネクタイ」さんが、飛び上がりました。


「ファンクラブ作ろうって話も出てるくらい大人気なんですよ。どこか集まっても大丈夫な場所ありますか」

 ホッキョクギツネさん、それ本気?


「そうでなくとも、氷が薄くなっている昨今」

 早速ネクタイさんが北極の地図を広げて検証に入りました。

「ううむ、北の広場なら、なんとかなるかな」

 そこまですごいのか、しろたしろみの人気!?



 しろたしろみがとことこやってきました。しろみは頭にリボンなんかつけてます。

「え、おじちゃんがファンレターくれたの?」

 しろみが無邪気に聞いています。

「そうです」

 ホッキョクギツネさんの顔がほんのり紅くなっています。

「ありがとう。おじちゃん」

 しろたも嬉しそうです。おじちゃんというより、イケメンのおにいちゃんだと思うのですがね。


「でもねー」と二匹が顔を見合わせてから、「ぼくたち文字読めないんだー。まだ『し』しか習ってないからねー」としろたが言い放ちました。

 しろたしろみ、小学一年生説浮上。


「それでどうしてファンレターだってわかったんだい?」

 マスターがたずねると、二匹は「いっぱい♡マーク書いてあったもんねー」と嬉々として答えました。

「あ」

 ホッキョクギツネさんが真っ赤になってしまいました。


「ペンギンのおじちゃんも、ぼくたちのことすきなの?」

「ま、まあね」

 いやいや、おじちゃん、じゃないから! すきと聞かれたから、まあきらいじゃないから答えたけど。別に握手してくれなくていいから。(でも、ほわっとしてたぁ。)


 しろたとしろみがかき氷を食べはじめました。二匹のだいすきな練乳がけです。

「あ、私にもお二人と同じものを」とホッキョクギツネさんがオーダーします。


「しろたはベースがメロン、しろみはイチゴですが、どちらになさいます?」

「じゃあ、半分ずつで」

 右にメロン、左にイチゴシロップがけのかき氷を、嬉しそうに食べているホッキョクギツネさん。


「今度どうやったら屋外でオペラグラスが曇らないか教えて下さい」

 彼はしろくま事務所の科学担当「虫メガネ」さんに質問しています。


 いやいや、そんなに穴のあくほど見つめる必要もないでしょ。


 いいえ、ファンとはそういうものです。






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