22.この後、めちゃくちゃ怒られた

 さて、話を浮月さんが生き返ったばかりの現在に戻そう。辺りはすっかり暗くなっていて、彼女の珍しい素顔はいよいよ見えにくく、それが僕には少し残念だった。


 もちろん僕は先の決断を変えたりなんかしていなくて、妹のことを浮月さんには黙っておく所存。


 その代わりというわけでもないけれど、僕は浮月さんの命ずるがまま境内のベンチに座って、豆電球の吊るされた鳥居を見上げながら、先ほどの襲撃の様子についての話を大人しく聞いていた。


「待ち伏せされていたんですよ」彼女はため息を吐いた。「この家もあまり安全じゃないですね」

「でも逆に考えるなら、今向こうは浮月さんが死んだと思っているわけだよね」

「利用しろと?」

「選択肢の一つとして」


 言ってしまった後で、それも微妙だろうかと内心首を傾げた。引っ込めかねているうちに、浮月さんは少しの間真剣に考えたらしき上で。「いいえ、やめておきましょう」と、却下した。


 私の不死身を明かすのは面白くありませんが、と断りを入れつつ。


「向こうにこれで邪魔者がいなくなったと勘違いされて、以降好き勝手されるのも面白くありません」


 自分で提案しておいてなんだけど、僕は自身の案が却下されて安堵した。というのも、浮月さんの生存情報そのものは砂音を通して遅からず敵陣営に漏れるだろう気がするし、先方としても今回の襲撃で浮月さんを殺せたなんて思っていないだろうから。


 しかしもちろん考えるまでもなくそんなことをうっかり口にすれば、自身の首を絞めることになりそうだったので、やはり黙っていた。


「どこかの時点で一度、どちらが上か見せつけないといけないようです」


 少し見ないうちにますます台詞が好戦的になっていて、もしやナイフを隠し持っているのかなと思ったけれど、持っていたとしたら間違いなく白地さんらに取り上げられ済みのはずで、恐らく純粋に彼女らとの戦力差ゆえ死んだふりせざるを得なかったことに、浮月さん自身いたくプライドを傷付けられたのだろう、なんて。


 そんなことを考えていたから、油断した。


「ところで星田くん」

「何かな、浮月さん」


 向けられた微笑みの意味を理解しかねたのは一瞬。


「『妹さん』って誰のことですか」


 ……さて。


 言うまでもないことだとは思うのだけど一応の様式美として。


 この後、めちゃくちゃ怒られた。

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