絵からストーリーを想像して文章にしていく
縁側紅茶
使わせていただいた絵:bikeride / snattiさん
目覚めの良い朝だった。
特別何かあるわけじゃない。ただ、ふと今日は早めに家を出ようと思った。
髪を整え、もう半年後には着ることはなくなる傷んだ制服を、今日はいつもより長く眺めていた。
リビングへ降りるといつもより早い目覚めに少し驚いた母がまだ朝食の準備をしていた。朝食にはまだかか
ると言ったので私は庭で少し暇を潰すことにした。
ここ、◯県◯市の◯◯は田舎も田舎、総人口は約200人程度。しかもその半数以上が50代を優に超えるおじ
いちゃんおばあちゃん達。だからこの町にいてもやることなんてほとんど無い。でも私はそんな町が嫌い
じゃないし、何なら過ごしやすいとも思っている。それでも将来のことは心配で、高校は山を2つほど越え
た少し街の方に行くことに決まった。だから少し、今日は町を記憶に残しておこうと思ったのだ。
そんなことを考えながら太陽の日を浴びていた。
「何寝ぼけてんの。メシできたよ」
母からの声に少し驚いた。まだ寝ぼけているのかも知れなかった。
今日の朝食はいつも通りの白米に鮭の切り身と味噌汁だった。いつもより早く起きたせいか、今日はなぜか
いつもと違うメニューを期待してしまっていた。ムっとしつつ、白米と鮭を口に放り込む。
「今日はどうしたの?」
「何でもないよ。ただ、早め学校に行くのも良いかもって思って」
ふ~んと何か探ってるような表情をした。母の考えていることなんて容易に想像がつく。どうせ彼氏でも出
来て待ち合わせしてるんだ、なんて思っているんだ。母はそういうことが特別好きだ。私が言うのもなんだ
けどもう少し大人っぽさを身に着けてほしい。
「ごちそうさま」
早めに朝食を済ませ、2階へ荷物を取りに行く。いつもなら私より早くリビングにいる父親がまだ自室で寝て
いる。父親が寝坊しているのでは無くて、私が早く起きたのだ。と少し優越感に浸りながら荷物を抱え玄関
へ向かう。
「男の子との印象に残せる接し方、教えてあげようか」
母が背後から声をかけてきた。やっぱり私の想像通りのことを考えていた。
「けっこうです。行ってきます」
ため息を漏らしつつ、玄関の扉を閉めた。扉の奥から母の私を送る声が聞こえた。あんな母だが一緒に過ご
していてとても心地が良い。この町はそんな明るい人間ばかりだ。
カバンを自転車のカゴに入れ、自転車を漕ぎ出す。私の家は少し高い位置にあり、学校までずっとゆるやか
な坂を下っていくことになる。その際に奥に見える青く澄んだ海、横にはすっかり葉が落ちきり、どこか物
寂しさが漂っている木々が見える。毎朝見ている風景だが、もうすぐこの景色を見ることがなくなると思い
ながら見ていると、特別美しいものに見えた。
いつも通る学校までの一直線の道路を、何か特別なことが起こるんじゃないかという期待に襲われ、何とか
通れる程度の竹林の方へと曲がってしまった。入った瞬間、空気が心地良い冷たさに澄んでいくのが分かっ
た。竹がまばらに揺れ、その際に隙間から入ってくる日差しが私をどこか特別な所へ導いてくれる気がした。
小学校の頃この町を探索して楽しんでいた感覚に陥っているのに気付いた時には遅く、町はほとんど全
ての場所を回ったはずなのに、全く見知らぬ公園に着いていた。
遊具が4つ程あった。どれも深い緑の苔が付いており、随分と使用されていないことが分かった。その周りに
柵は無く、私が入って来た場所以外は竹で囲まれていて、公園に特別な何かがあると言わんばかりに太陽は公
園を照らしていた。
遊具に隠れて気付かなかったが、奥の土管に人が入っているのが見えたような気がした。普段ならもう誰も
使わなくなった公園を秘密基地にしてる子供だろうと思って引き返していたが、今日は何故か、話しかけに
行ってしまっていた。
「ね、ねぇ。朝早くからこんな所で何やってるの」
土管に入っている人影がこちらを振り向いた。歳はおおよそ5~6才、髪は肩までかかりとても手入れされてい
て綺麗な女の子だった。ただ、服装が歴史の授業で見るような古い、けど傷みがほとんどなく綺麗な状態の
着物だった。
あまりの異質さに気圧されていると、
「遊ぶ・・・?」
発せられた声に一瞬、なぜか、喋ることができるのかと驚いてしまった。
女の子は大きな瞳を潤ませながら、私の反応を待っていた。
女の子が一人なこと、服装があまりにも古風なこと、こんな場所で遊びたがっていることなどに妙な違和感を感じたが、この女の子を放っておく気にはなれなかった。
「遊んでほしいの?
なら、私とどこかに遊びに行かない?こんなところで一人だと危ないよ?」
私が話しかけた直後、女の子はあからさまに不快感を曝け出した表情をした。
驚き、女の子の言葉を待っていたが、何も話してはくれなかった。
「ど、どうしたの?遊ばないの?」
と言いつつ近づいてみたが、数歩近づく度に、女の子もその分私から避けるように離れていった。
何か触れてはいけない部分に触れてしまったのか、なぜこうも態度が急変してしまったのか全く分からないままだった。私が子供の扱いになれていないっていうのも十分にあるんだけど・・・。
こうなってしまった以上、もう埒が明かない。学校もあるし、折角早起きしたのに遅刻しては元も子もない。
私は一度学校に行って対策を立てることにした。夕方私がもう一度ここに来る時に、女の子がいなくなっていたら家に帰ったのだろうと安心できるのだろうが、なぜかあの女の子が家に戻るということを想像できなかった。
停めていた自転車を反転させる。
「機嫌悪くさせちゃってごめんね。また来るよ。その時は遊ぼうね」
と一方的に喋ってから、女の子の返事を待たずに自転車で走り出した。
一瞬見えた女の子の表情からは子供らしい期待を感じ取れた気がしたが、何を期待しているのかまでは分からなかった。
走りながら夕方どうするか考えていたが、全然思いつかなかったから、学校で友達に相談してみることにした。
結局学校に着いたのは遅刻ギリギリ5分前だった。
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