第63目 六ノ目 笊籬宣
「おやおや、まさかこんなところにいらっしゃるとは。今日は、なんとすばらしい日なのでありましょうか。こんなめぐり合わせもあるものなのですね」
そんなわざとらしい声が、転人に向かって投げつけられた。
「もうすでにお話をお聞きかもしれませんが、私自らが語るべきだと、そう強く考えておりました。これは“自白”と思ってもらってかまいません。
訓戒というものは、なにも聖職者が与えるものではなく、聖職者自身も受けるべきものであって、むしろ率先してそうあるべきものなのです。
ですから、このような機会にめぐり合えたことは、私にとって幸いであると同時に、廻さんにとっても、これ以上のない幸運なのかもしれません」
「相変わらず持って回った言い回しをしますね、笊籬さんは。あなたの言うとおり、あなたがなにをしたのかは知ってます。でもそれはきっと、あなたふうに言うと――」
「そうです。私はただ彼女たちの願いを聞いて、ただ最大限の助力をほどこしたに過ぎません。もちろんそのことについて、廻さんがお怒りになられるのは当然のことだと思っております。それに、私は誰からの願いも受ける立場にございます。ですからつまり――」
「その必要はありませんよ。
俺はあなたを責めるつもりはありませんし、あなたに願うこともありません。これは、それこそあなたの言うとおり、彼女たちの選択の結果であり、俺の道程なんです。あなたに、その道案内を託すつもりはありません。
これは彼女と、そして俺の進むべき道です」
「そうですか。それは――残念ですね。しかしそれは、なんと申しますか、とても――そう、とてもすばらしい」
転人と『DOG』は、笊籬を無視するように、ドアを抜けて歩きだした。
そんな転人たちに向かって、笊籬は祈ることはせず、柄にもなくすずしげに言葉を残した。
「今のあなたには、“神のあと押し”など不要のようですね」
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