あの頃には戻れない……

華愁

第1章〖出会~紹介編〗

第1話🌠守りたいもの

〔次は◯◯駅、◯◯駅

お降りの際は足元や

お忘れ物等にご注意ください〕


今日もあの子は乗ってくる。


俺は毎日、同じ車両に乗って来る

あの子が少し前から気になっていた。


他人からの視線を

気にしているのか顔が

見えるか見えないなかの境目まで

伸ばされた前髪は結構長い。


俺からは横顔がよく見えるから

ちょっと得している(笑)


身長差のせいもあるんだろう。


百八十八センチある俺に対して

”彼”は百七十センチ

あるかないかといったところだ。


俺は◆◆駅から乗るから

あの子が乗ってくる駅より三つ手前だ。


制服と降りる駅から

あの子が《黒沢峰ヶ丘高校》

の生徒だと知っている。


なんせ、降りる駅は同じだ。


そして、ある日

降りようとしていたあの子が

乗客の波に押されて危うく

落ちそうになった所を支えたのが

きっかけで仲良くなった。


ღ¸.✻´`✻.¸¸ღ¸.✻´`✻.¸¸ღ¸.✻´`✻.¸¸ღ


美都果みつか、おはよう』


今日も電車は満員だ。


京冴けいごさん、おはよう』


美都果をドア側にやり俺はその前に立つ。


仲良くなってからの日課だ。


高校三年生の男子にしては

可愛らし容姿な上に華奢な美都果は

制服を着てなければ

女子に間違われるらしい。(本人談)


俺の仕事場と美都果の学校が

同じ駅だから改札を出るまでは一緒だ。


西口と東口に別れて改札を出る。


『仕事、頑張って。


だけど、無理はすんなよ』


美都果が毎日言ってくれるこの台詞は、

元気が出る魔法の言葉。


前妻と別れて五年。


美都果と出逢って一年。


俺は密かに美都果に恋心を

いだき始めていた。


『はいよ♬*.+゜


美都果も学校で

何かあったら相談しろよ』


家庭の事情は半年前に聞いた。


二年前に父親が交通事故で

亡くなってから母親から

疎まれるようになったらしい。


幸い、祖父母は優しいらしく、

母親と二人は精神的によくないからと、

高校に上がる際に

アパートを借りてくれて

今は一人暮らしだと言っていた。


『わかってるよ。


京冴さん、

いってらっしゃい♬*.+゜


いってきます(๑•᎑•๑)』


『美都果もいってらっしゃい(๑^ ^๑)


いってきます♬*.+゜』


こうして、俺達の長い一日の

始まりの鐘が鳴った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る