act.1 救助要請

 獣人の国ラメルにあるルベーヌ砦。ちっぽけな城塞都市だ。帝国との国境地帯にある岩場に建てられている。帝国とラメルをつなぐ一本道を塞ぐ位置にある要衝だ。しかし、帝国とラメルの関係は良好で紛争も何もない。ここはいつもの様に平穏そのものだ。

 俺はハーゲン。鋼鉄人形と呼ばれる人型決戦兵器の操縦士ドールマスターだ。今この砦に地球からの客人が来ている。150光年彼方の地より、特殊なゲートを用いて訪れた男の名は金森と言った。

「ハーゲン様。どうかp.w.カンパニー元社長のオルガノ・ハナダをお救い下さい」

 ここは砦の応接室になる。俺の目の前に金森氏。俺の横には軍医のリオネが座っている。色白で黒髪が映える。美形だが華奢な体型の女性だ。金森氏は背広を着ているが、例の異世界生物との戦闘実験では白衣を着ていた男だ。色白で細面。七三に分けた髪が地味な印象を与える。何処から見ても科学者と言った風貌だ。

「ハナダ氏には恩がある。救出したいのはやまやまだが、そのイベントとは何だ。意味がよく理解できないな」

 俺の言葉に頷く金森。彼は資料を広げながら話し始めた。

「場所は『異界電力ベイエリア』と呼ばれる広大な埋め立て地です。ここは異界電力株式会社の所有となります。この会社は永久機関と言われる『パラダイス・エンジン・システム』を用いた発電システムによりエネルギー供給を行っています」

「ああ、そこまではいい」

「まず問題なのがこの『パラダイス・エンジン・システム』なのです。我々p.w.カンパニーが所有している所の、異世界に関する特許を無断で用いている可能性が高いのです。更に、そこでは人の命を燃料としてエネルギー開発が行われている可能性があります。そこに元社長のハナダ氏が囚われていると思われるのです」

「人の命を燃料とするエネルギーか……なるほど、潰し甲斐があるな。ところで、ハナダ氏は拉致監禁されていると考えていいのか?そうなれば軍が動くのではないのかな?」

「わが国ではそれは警察の役目となります」

「そうか。すまない」

「しかし、異界電力は不正に得た資金をばら撒き、警察や官僚を味方に付けています。『異界電力ベイエリア』内においてはほぼ治外法権と考えてよいと思います。好き勝手やりたい放題なのです」

「つまり、治外法権地域である事を逆手にとって、p.w.カンパニーは戦闘イベントを開くわけだ」

「その通りです。戦闘イベント、つまりカンパニーの開発した対異世界生物撃破用サイボーグを投入しての虐殺イベントです。アルファベットシリーズと呼ばれるサイボーグを投入し、異界電力関係者、およびエリア内にいる一般人を虐殺するのです。そして、最も多く殺したサイボーグは誰か?を当てるゲームとなります。大金の動く賭け事です」

「それに参加しろと言うのか」

「いえ、乱入して欲しいのです。このイベントをぶち壊してほしい。そして、異世界電力の発電プラントを破壊して欲しいのです。そして、ハナダ氏を救出して欲しいのです。出来ればカンパニーの手の届かない場所へ逃がして欲しい」

「注文が多いな」

「申し訳ありません。ハナダ氏は救出しなくてはいけません。しかし、カンパニーの手の内にいればまた記憶を書き換えられるでしょう。会社の操り人形にされてしまうのです」

「それはどういうことかな?」

「はい。会社はハナダ氏の記憶を操作し操っていました。異世界へ人を送り悪さをさせていたのです。例の戦闘実験開始直後に、彼は自分が操られていたと気づきました。そして、実験終了後に姿を消しました」

「俺が会ったのは?」

「記憶を取り戻した本物のハナダ氏です」

「そうか。そのハナダ氏が今、異界電力にいる。その彼を救出する」

「はい。そうです」

「アルファベットシリーズのサイボーグが投入されるのは、一般人や異界電力関係者を虐殺し、ハナダ氏を確保する為でいいんだな」

「はい、そうです」

「俺は、そのアルファベットシリーズよりも先にハナダ氏を確保する」

「はい。お願いします」

「その、アルファベットシリーズの詳細はわかるかな?」 

「こちらをどうぞ」

 金森は資料を見せてくれた。

 人型で大きさも人と変わらない。しかし、いくつか巨大なサイズの型式がある事に気付く。ゼクローザスよりも大きい。

「この数値は信用できるのか?」

「はい。我々が開発しましたので正確な数値です」

 俺はゼクローザスの追加装備と兵装のプランを練っていた。今まで黙っていた軍医のリオネが話し始めた。

「ハーゲン。あんた行くつもりなの?無茶じゃないの?」

「無茶でも行く。ハナダ氏には世話になったからな。彼からの情報が無ければこの砦は壊滅していた。助けに行くよ」

「相手の情報が少なすぎるわ。ゼクローザスでも勝てない相手だっているのよ。分かってるの?」

「ああ、分かっている」

「じゃあ、ネーゼ様に話して帝都防衛騎士団か皇帝警護親衛隊を派遣してもらいましょう」

「それは無理だ。俺が単独であれば問題は無いが、大部隊を動かすと戦争になるかもしれない」

「硬い事言うのね」

「ああ、帝国と地球との友好を壊したくない」

「それもそうか。で、どうするの」

「ゼクローザスは元々拠点防衛用に開発された機体だ。兵装の搭載量は帝国随一だよ」

「知ってるわよ。それなのに軽装備で大剣振り回すあんたが珍しいの。あ、今回はどっさり積む気ね」

「まあな」

「私もついていくわ」

「来なくていい」

「馬鹿ね。私はこれでも医者です。あの、生命を燃料に変えて発電するっていう機械を是非拝ませてもらうわ。こないだの件(注1)もあるしね。私がついて行かなきゃね。あんただけじゃ不用心なのよ」

「そういう事か」

「そういう事」

 リオネはやる気満々である。

「明朝0600に出発します。それまでに準備いただけますか?」

「任せておけ」

 金森の言葉にうなずく。今から整備士のフェオに追加兵装の指示を出さなくてはいけない。あいつはこういう事が大好きなので嬉々として作業するだろう。未知の相手にどの装備が有効なのか、金森から預かった資料を見ながら検討に入った。 



注1:こないだの件とは前作「鋼鉄人形ゼクローザス」セカンドステージにおいて、闇商人アルゴルが配っていた魔石事件の事。この魔石に触り何人かが命を落とした。リオネは生命を燃やすエネルギーとこの魔石が関係あるのではないかと疑っている。

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