第48話出生の秘密

 しばらくして興奮が冷めた中山一は机の上にあった,


兄が使っている生物の問題集をなんとなくぱらぱらとめくっていた。


ふと血液型の問題に目がとまった。


「両親の血液型がO型の場合,AB型の子がいることはありえない。」


という記述を見て,頭をフライパンで殴られたかのような衝撃を受けた。


「うそだ!わたしの血液型はAB型だけど,お母さんの血液型はB型で


 お父さんの血液型はO型だ!ありえないなんてそんな!


 じゃあわたしは実の子じゃないってこと?母さんが不倫したのか?」


 一は父親の姿を思い浮かべた。色黒なところや背が高いところはどことなく


自分と似通った印象があることを思い出し,わずかな望みがありそうな気がした。


しかし扁平な自分の顔立ちとは似ても似つかない,


彫りが深く,度々外国人と間違われる父親の顔を思い浮かべて首を横に振った。


「わたしは何者なの?」


 一は物心ついたときから親兄弟と似ていないので悩んでいたことを思い出した。


「お兄ちゃんも弟も血液型はO型だから実の子だな。わたしだけが合わない。


 兄弟は皆母親似の美形なのに自分だけブサイクで悲しい思いばかりしてきた。


 他人だから全然似ていなくても不思議じゃないわけだ。


 わたしがこんなに醜く生まれたのは,実の子じゃなかったからなんだ!」


 この大きな家の中で幼いころからずっと抱いてきた疎外感は


自分だけが赤の他人であるせいだったのだと思うと,胃がきりきりと痛んだ。


この苦しみは一生続くのだ。それなら今すぐ死んでしまってもいいと


一は台所から包丁を取り出してよく研がれた刃をじっと見つめた。


「いや死ぬ前にお母さんに本当のことを教えてもらわないと。」


だがそう簡単に切り出せるものではなかった。いやむしろ知りたくない気持ちも


強かったので,中山一は葛藤に苦しめられた。


 数日後,暑さで喉が渇いた中山一はジュースを飲みたくなったが


あいにく小遣いを使い果たしていた。ふと母親の部屋から小銭をくすねることを


思いついた一は,引き出しをごそごそとかきまわした。たんすの中の


衣類をかきわけると,ごつんと固いものに指がぶつかった。


取り出して見ると,ハードカバーに「10年連用」と印字された日記帳だった。


「わたしのことが書いてあるかも。」


と思うと,怖い気がしたが,


好奇心の方がまさって一はページをぱらぱらとめくった。


 しばらくは何気ない日常のできごとが書かれていて,日記というよりは


備忘録のようだったが,やがて10年前の6月6日のところに目をとめた。


その日は自分の誕生日だったからだ。そこに書かれた内容を見て,


一の顔が見る間に険しくなった。


「うそだ!うそだ!信じたくない!そんな恐ろしい秘密を


 今まで知らされていなかったなんて!」


 一はがたがたと震え始めた。


「私は血がつながった子じゃない以上,

 

 いずれ無一文でこの家を追い出されるだろう。


 だけどわたしはだまって引き下がるような女じゃない。必ず復讐してみせる」


 一は日記を元の場所にしまうと,自室にこもって号泣したのだった。

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