第42話恐ろしい偶然


 翌日しずくは具合が悪いので学校を休もうかと思ったが,

授業がわからなくなると困るので午後になってから登校した。

 すると待ち構えていたかのように大河の巨体がぬっと現れたので

しずくはぎょっとした。

「山野,おまえに妹がいるって小宮から聞いたんだけど,紹介してくんない?」

と大河はにやけた顔で言った。しずくの妹なら器量がいいに

違いないと踏んでのことだった。

「あいにく由紀には会えないよ。うんと遠くに行っちゃったからね。」

「えっ,どこどこ,どこにいるの?」

 しずくは「あそこだよ。」

と言って窓の外に見える,裏山にある墓地を指差した。

大河は意味がわからず,きょとんとしていた。

「お盆の丑三つ時にあそこに行けば会えるかもね。」

と言うとしずくは薄ら笑いを浮かべた。

「要するに,もうこの世の者じゃないってこと。うちの近くで車にはねられて,

 死んじゃったんだよ。最初にはねた車はいまだに捕まってない。」

大河はどきりとして

「おまえのうちってどこにあるんだっけ?」

ときいた。

「宝幸寺っていうお寺のすぐそばだよ。由紀は薬局の目の前で

 夕方スイミングスクールのバスから降りた後,

 道路に飛び出してはねられたんだ。」

大河はがたがた振るえ始めた。

「やべえ。おれはあのとき兄貴の軽自動車を失敬してドライブしていたんだ。

 それまで一回も事故にあったことがなかったから今度も大丈夫だろうと

 油断しちまったのがウンのつきだった。ビールをがぶ飲みして

 べろべろに酔って気が大きくなって100キロ近く出して走ってたら,

 急に人が飛び出してきやがった。おれは無免許でおまけに酒を飲んでいたから

 捕まるのが怖くて逃げちまった。せっかく忘れていたのに,

 よりによってあのガキがほれた女の妹だったとはおれもつくづく運が悪いぜ。

 あのがきんちょが勝手に飛び出してきたのが悪いんだ。

 おれは今まで万引きを5回ほどやったが,一度も捕まらなかった。

 今度だって逃げ切って見せるぞ!」

 しずくはそんな大河の様子には目もくれず,妹が眠る墓をじっと見つめていた。

「生きていたら間違いなくわたしよりも美人になっただろうに。

 わたしと違ってピアノや数学が得意でみんなからかわいがられて,

 将来有望だったのに。何で横山や小林みたいなクズが

 のうのうと生きているのに不公平だ。

 それもこれもみんなわたしの不注意が悪いんだ。」

しずくは小宮に妹が死んだことを言わなかったことを後悔していた。

昨日ドアに挟んだ指がずきずきと痛んだ。




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