第18話反乱分子

 五時間目は学級会議だった。

「今日は林間学校の班決めをします。」

と委員長の中山一が言った。中山の委員長就任に際しては影で

「ふん!目立ちたがりめ。」

となどと色々言われていた。

中山はいずれ生徒会の選挙に立候補したいとかねがね述べていたが

一年生なのでそれはまだ先のことである。

 教室は割と静かだったが教室の後ろの方の席で

ひそひそと話している女子三人組みを突然中山はキッとにらみつけて,

「そこ!しゃべらない!今日は大事な話をしてるんだから静かにして!」

と叫んだ。三人は不服そうな様子で口をつぐんだ。

実はこの三人,音楽の時間に優男の大河と中山がお似合いでないと笑った面々だった。

 しずくはハラハラした。

(わたしだったらあんなにきつい調子で言えないな。恨まれそうだもの)

「それでは今から二十分のうちにおたがい好きな人同士で班を決めてください。」

と中山委員長は言った。

 途端に教室ががやがやと騒がしくなった。

「まりちゃ~ん,こっちこっち!」

などと友達同士で呼びあっている。

特にどのグループにも属していないしずくには声がかからなかった。

しずくはもじもじして自分の席のあたりをうろうろと

亡霊のようにさまよっていた。

教室ではすでに続々とグループができ,仲のよい者同士で固まって

楽しそうに笑いさざめいている。

しずくは心細さにくじけそうになった。

(どうしたらいいんだろう)

としずくは思った。

(今の自分はさぞかし間が抜けて見えるんだろうな。

 いっそのこと消えてしまいたい)

と孤独に耐えられないしずくは激しい自己嫌悪でいっぱいになった。

 するといきなり、

「山野さん」

と自分の名を呼ぶ者がありしずくは

ぎくりとして振り返ると,そこには中山がいた。

「山野さん,うちらの班に入りな」

と決然とした調子で中山は言った。

しずくに選択肢はなくせっぱ詰まっていたので一も二もなく承諾した。

するとさっさと中山はしずくに背を向けて

鈴木や横山といった取り巻きの元に戻っていった。

(ありがたいけど,何だか怖い。

あの人わたしのことを嫌っているのにどうしてわたしのことを

同じ班に入れたりするんだろ。よくわからない)

 しずくはとりあえず窮地を脱したが心の中は不安でいっぱいだった。

(行きたくないな。林間学校なんて。休めないかな。)

 そのとき,騒ぎが起こった。

「そこ!さっさと決める!」

という中山の怒鳴り声が響き,みな一斉にそちらの方向を凝視した。

しずくも例外ではなかった。

例の三人組が人数制限で全員同じ班になれないかもしれないとぐずぐず言って

もめてなかなか決まらなかったのである。

「田代さんはこっち!」と言って三人の内の

一人を強引に別の班に組み入れてしまった。中山は

ゴリラみたいと言われた恨みを忘れてはいなかったのである。

この班にはあまり話したことのない女子がたくさんいるのに

仲良しと別れて入るのは田代にとって気がすすまなかった。

 しかし中山の発言はクラス内で絶対で、独裁者になりつつあったので

不満を抱いたまま妥協して承諾せざるをえなかった。

(女子の間でなんだかきな臭い臭いが漂っている)

としずくは思った。

 その後休み時間に中山が去った後、途端に三人組は不平不満を爆発させた。

「ねえ!うちらそんな大きな声でしゃべってたっけ?」

と田代が怒りの声をあげた。

「あいつむかつく!何でも自分の思い通りにしようとして独裁者だよね。」

と弓削美紀子が調子を合わせる。

「一(はじめ)じゃなくて,マイナスだよね!」

とあと一人の松本さおりが言ったので三人はどっと笑い出した。

「うける!今度からあいつのことマイナスって呼ぼう!」

松本は大柄で華やかな顔立ちでクラス内でも

目立つ存在だったので中山にはひそかに対抗心をもやしていた。

(リーダーというのは恨まれやすい大変なものなんだな。

 わたしみたいに外れ気味の方が気楽でいいや)

としずくは思った。

(女の世界ってこわいこわい)


五時間目が終わってからのことである。

ろうかの浄水器で水を飲んでいた中山に

「おまえやさしいな!」

と大河が声をかけた。

中山は一瞬ほほをほんのりと桜色に染めた。

(ミーくんがわたしのことを誉めてくれた!)

と思うと中山は天にも昇る心地だった。

 しかし大河の次の一言で一気に引きずりおとされた。

「おまえはしっかりしてるから山野のこと,面倒見てやってくれよ。

ついでに俺のこともとりなしてくれよ。なんか知らないけど冷たいんだ。

ま,おれが言い奴だってそのうちわかるだろ」

というとカラカラ笑って

その場を後にした。

 中山はぼうぜんと立ちつくした。まわりの何も目に入らず,

「おまえはしっかりしてるから」というフレーズが中山の頭の中で

ぐるぐると回っていた。

(ミーくんの好きな女に相手にやさしくしなきゃならないなんて!

 こっちの気も知らないでキューピッドの役をしろだなんて

なんて残酷な!わたし,どうしてもあの女が好きになれない。

でもミーくんの頼みならなんだって聞いてやりたいけど・・・

しっかりしているだって?わたしにだって感情はあるのに。)

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