第2話黒い死神
由紀の体は空中に高く舞い上がった後、
固いアスファルトの路面にグシャリと叩きつけられた。
さらに後続車が何台も由紀の体を轢いてズタズタにした。
その間中、しずくは、なす術もなく立ち尽くしていた。
車の流れがようやく途切れたとき、しずくは駆けだした。
その拍子に、しずくがペンダントのように首からかけていた
防犯ブザーがひもから外れて地面に落ち、闇の中に
サイレンがけたたましく鳴り響いた。その音に驚いて、
近くのアパートからたくさんの住人が飛び出してきた。彼らが
目にしたものは、道路に広がる血の海と、散らばった手足、
それを必死で拾い集めている少女の姿だった。
年輩の男に「道路にいたら危ない」と言われ、しずくは歩道に連れ戻された。
由紀を轢いた車はすべて逃げてしまっていた。
この男は携帯をもっていなかったので近くのコンビニの前にある、
公衆電話から通報した。
救急車を待っている間に、野次馬が現場にどんどん集まってきた。
その光景を茫然と眺めていたしずくは、黒い奇妙な生き物が路面にあふれた
血をうまそうになめていることに気づいた。
それは小型犬くらいの大きさだったが、
たてがみのようなものがあり、夜目に見てもふつうの犬とは
違った生き物だということがはっきりわかった。
しかも、誰もその生き物を追い払おうとしないのが
しずくは不思議でならなかった。
やがてそれは舞うような軽やかな動きで
野次馬たちの足の間を器用にすり抜けて、消えてしまった。
さっきの出来事で受けた衝撃も忘れて、
しずくはその様子にしばし目が釘付けになった。
やがて母親がかけつけ、ほぼ同時に救急車が到着した。
警察からの事情聴取や葬式など、あわただしく日々がすぎていく中で、
その奇妙な生き物のことはしずくの脳裏から消え去ってしまった。
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