白痴みたいに
韮崎旭
白痴みたいに
A:なあお前その皮膚炎、皮膚科行かないのか?
B:ん? ああ、うん。
A:それさ、
B:うん。
A:なんつーか白痴みたいに見えるぞ。尋常の神経の人間なら、放置しないだろ。まして、
B:掻き毟ったりはしないと、言いたいね? わかるよ。子供じゃあるまいし、感染の危険もある。いい年をした人間が、治療可能な、そうだなあ……病変、でいいか、よくないか?まあ、病変をね、こうして放置するのが、社会規範に沿わないってーのは、とおーっても納得できる話だ。
A:なら、
B:どうして放置するのか。それはこいつが、まだ許されうる自傷行為だからさ。皮膚炎の悪化はね、異常者よりは哀れな病者とみられがちである。従って、この「せっかくの機会」を逃す手はないわけ。それは面白くはない、さして。いや、そりゃそうだろ、切断でも切開でもないたかが皮膚の表面を掘削するだけさ、それとも浅くかき混ぜるとでも言おうか? 暇。すごく暇。あと組織片の処分が面倒。たかが皮膚片ごときに逐一ブルーシートなんか用意していられないから(その分手軽だということでもあるが)、面倒。不潔。しかも出血量が笑っちゃうほど少ない! でも、仕方がないんだ……だって、今はこれしかないから。(少し目を伏せて、悲しげに笑う。もちろんこの動作は、Bによる悪ふざけであることは言うまでもない。)
白痴みたいに 韮崎旭 @nakaimaizumi
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