はんとら

立花佳奈

序章

兆し(きざし)

 目の前の虎がいきなり飛び掛かって来た。

「うわーっ!!」

 叫び声と同時に、思わず両腕で頭を覆う少年。



 そこには、ベッドの上で身体を強張こわばらせているすいの姿があった。



 数秒の後、恐る恐る目を開ける。 ―― が、目の前には、いつも通りの景色が広がっている。

「…… またあの夢か ……」

 うっすらと額ににじんだ汗を腕で拭うと、すいはひとつ大きく深呼吸をした。

 窓からは、朝の光が差し込んでいる。いつも通りの自分の部屋だった。


 すいは、ベッドの上にあぐらをかいて起き上がると、頭を左右に大きく倒してみる。首からゴキッゴキッと音がした。

「ててっ、寝てて肩がってるよ……」

 頭をゆっくり大きく回してみる。

「参ったなぁ……、この後、頭痛くなるんだよなぁ……」


 ベッドの上で、目をつぶったまま肩を上げ下げしたり、腕を伸ばしたりしているそのかたわらで、愛用の『水晶玉』が薄く白濁しているのには、まだ気付いていないすいであった。


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