117.彼女の魅力
ルートの検討を終えたキーファを連れ、シリルが遠方に見える囚われのリディアを指差す。
「糸がみえるか? 魔法剣だが、切断時には魔力は込めるな」
リディアの全身は金色に輝いていた。
リディアが魔力を放ち、蜘蛛の糸を可視化しているのだ。
禁止領域一帯に蜘蛛の巣は張り巡らされ、リディアは胴体以外はぐるぐる巻きの糸束に拘束されていた。
あれを剣で切り、リディアを助ける。それがキーファの役目だ。
「わかりました」
頷くキーファに、シリルはニヤリと笑う。
「お前ならやれる。自信持ちな」
「そう言われる理由がわかりません。魔法の実習なのに、俺は魔法を使っていませんが」
「お前はまだ能力を使いこなせていないだけだ」
キーファは思わず顔をあげる。
そして反応したことを恥じて顔をこわばらせて、視線をまたリディアの方に戻す。
「お前が提案してきたとき、うちのやつらはガキがしゃしゃり出てきてって思ったね。けど、自分の能力を見極めて申し出た。挑発上等、うちの男共に十分に火を付けたな。お前、うちに来ねーか?」
「え……」
魔法を発現できない自分は、ここは一番歓迎されない場所のはず。
なのに、そんなふうに言われる意味がわからなかった。
だが思う。リディアが、ここでは活き活きとしているのは、そうやって自分の能力を活かせているからなのだろうか。
「ハーネスト先生と、随分親しいのですね。随分先生は馴染んでいるというか」
思わずこんなことを言ってしまった。彼女は、大学では見せない顔を見せる、コロコロと表情が変わり、魔法師団の彼等を信頼している発言を放つ。
そしてなんというか、ここでは可愛がられているような気がする。
「そりゃあな」
「先生は、かなりここの人とは雰囲気が違いますが」
フンッとシリルは笑う。
「ここはな、――王様が多いんだよ。これまで何でも特别で、なんでもできていたヤツが集まる。王様の集合体ってつらいぜ。みんな自分が一番って考えているやつばかりだ。他のやつの事考えねーし、張り合うばかりで、面倒だし、疲れんだよ。まとまらねーし。そんなところにリディは来たんだ。リディは全然王様じゃなくて、全然できなくて、だから必死になってくらいついてきたんだ」
「……」
それが落ちこぼれだったという意味なのだろうか。
そんなところにいたらコンプレックスの塊になるだろうし、そもそも相手にもされないはずなのに。
「別にそこまでできないわけじゃねーよ。ただリディは自己評価が低いってだけで。けどな、自己評価が高い俺様がここに来て、自分は平凡だってわかる、手の届かない人外の存在がゴロゴロしている。そう感じるとポッキリ折れちゃうのさ。――リディは、できない自分を知っているから、全然折れなくて、しがみついてきて。明らかに能力はキングじゃねーのに、食らいついてくる。折れないで、最後まで踏ん張る。しかも、自分よりも他人のことばかり考えてる。自分より他人を構うのっては、余裕がないとできねーだろう。結局一番強いのはリディじゃないかって、思い知らされる。んで、そんなリディ見て王様達が心を動かされたのさ」
「そう、ですか」
キーファは複雑な気分になる。魔法が使えない分、自分のほうが出来損ないだろう。
だが、ここに食らいついていたリディアができて、自分には無理だとは言いづらい。
「なあ見てみろよ」
そしてシリルが、キーファの肩を抱く。指差すのはリディア。
「いい女だろ」
「――ええ、まあ」
どうも、男同士の会話のようなのは、気のせいだろうか?
「尻の形が最高だ」
「――あの、そろそろ向かっても?」
目の前ではリディアの目の前に蜘蛛が迫っていて、そしてここからでもわかるほどに、リディアが全身で嫌がっているのがわかる。
身を捩らせて顔をそむけて、なんだかちょっと――怪しい雰囲気だ。
「まだ待て。惚れた女が、拘束されて、悶えて、泣いてるって――最高じゃね?」
「――行きます」
キーファは、リディアに向けて足を踏み出した。
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