ヘヴン フラワー

赤沼たぬき

第1話終わりのこと

 クルミは幼いころに、薬師の叔父の来宮獅子によく話を聞いていた。


「人って死んだらどうなるの?」

 クルミの幼いその問いかけに、獅子はクルミの頭をなでながら、低い低い落ち着いた声で、ゆっくり話す。

「そうだな」

 獅子は少し困った顔をする。クルミはそんな叔父の優しそうな顔が、大好きだ。


「人はね、死んだら天国というところに行くんだよ」

「へぇー?」

 天国という場所を、クルミは聞いたことがない。

「ねぇ、天国って何?」

「いつかクルミが行く場所だよ」

 そういって、獅子はクルミの額に口づけた。


 そのときクルミはなんとなく、獅子のことが気持ち悪いと思った。大好きで、ハンサムなクルミの叔父なのに。


それから翌日、クルミの家が燃えて、クルミの両親が死んだ。警察は当初、なぜか叔父の獅子のことを疑っていたようだが、叔父の無罪は確証され、クルミは獅子の家に預けられることになったー........。


クルミはいまだに天国という場所についてはわからない。クルミは天国の場所を探そうと、魔術をならうことにした。


魔術とは自然にある物を掛け合わせ、病などを治すために発達してきた学術の一つだ。

人は仮死状態になった時に天国という幻を見るという。だからクルミは人を仮死状態にし、天国という状態を見ようと志す。


 ある日、クルミはできたての毒をその場で飲み干した。

そうしてクルミは仮死状態のはずだったが、なぜか目が覚めると、男の体になっていた。


クルミ自身は少女のはずだったのに、鏡に映る自分は見知らぬ男の顔をしていた。クルミは悲鳴を上げて、泣き叫んだ。


あわててクルミは実験室の外にでて、辺りを見渡したが、そこはクルミが住んでいた叔父の家ではなく、見知らぬ街だった。


「どういうことなの?」

呆然と立ち尽くすクルミの足元に、一匹の犬がまとわりついてくる。クルミは生暖かい犬の体温に、吐き気がした。

クルミは生き物が嫌いだ。生きている、生を謳歌しているものをみると、虫唾が走る。

クルミは犬を軽く蹴り飛ばす。

犬は悲鳴を上げて、走り去っていく。


「あなたなにするの?可愛い犬に」

そういって、クルミを睨みつける少女が、目の前にあらわれた。

ボブカットのたいそうな美少女だ。美少女は足もとによってきた犬の頭をなでて、もう一度クルミを睨みつけた。

そうして、美少女はクビをかしげる。


「あなた、なにか魂がおかしい。英雄かなにかの生まれ変わり?」


美少女の言っていることが、クルミにはさっぱりわからない。ただひどいめまいと、吐き気がして、クルミはコンクリートの地面の上に倒れこんだ。


「ちょ、ちょっと!!」

 クルミは失っていく意識の中で、美少女の焦る声を最後に聞いた。


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