Dragon angel

@koryamosu1224

第1話




それは、とある天使が家を捨てたところから始まった。無理矢理好きでもない金持ちの男と婚約させられ、子供を孕らないといけなかったが、リリーはそれを猛反対した。そして逆上した父親に蹴る殴るに加え、性的暴行も受けてしまい、耐えられずに家を出た。リリーは、以前から家事などの雑用はおろか、父親と兄から性処理にされていたのだ。母親は父親を誘惑するあばずれ女と言い、一緒になって暴力を振るってきた。奴隷のような彼女は家を出たと行っても、自由のない日々を送ってきたので寝床を借りる知人もいなければ、お金すらもなかった。あるのは美しい羽と美貌だけで、天空を彷徨った。一日中飛び回り、疲労がピークに達した。殴られた体が痛む。今までの中で一番暴力をふるわれたのだが、右腕を棚に思い切り強打したので恐らく折れてしまっているだろう。お腹も空いたし、羽はクタクタだし、これからどうすればいいのか。毎晩犯されてきたが故に、体を売ればどうにでもなるとは思っていたのだが、家から無我夢中で飛んできてしまい、栄えている街とは真逆の場所へ来てしまった。仕方ないので村を探しつつしばらく飛んでいると大きな山に洞窟を見つけた。周りの森は薄暗く、山自体が切り立っていて、なんだか危ない感じだ。しかし行くあてもないのでよろよろしながらそこへ飛んで中へ入ると、人が住んでいるのか明かりが見える。薄暗い洞窟で先が見えず、まだまだ奥は深そうだ。10メートルほど歩くと、突如けたたましい程の羽音が洞窟の外から聞こえてきたので、驚いてその場にうずくまって身を潜めた。


「誰だ。」


そして音が止んだと思ったら後ろから声が聞こえ、振り返った。入り口で人が立っている。しかしいつのまにか明かりが消えていて、数メートル先で立っているその人が、どんな顔だかわからない。影を見るとガタイが良くて長身の男性であることがわかる。しかし、そんな冷静に分析をしている暇なんてない。リリーは思い出したのだ。この洞窟が古きから伝わるドラゴンの住処だということ。これはリリーの住む村に伝わっていたおとぎ話で、ドラゴンが財宝を守っており、数多くの村人が挑んでは死んだという。家族だけでなくその村人はみんな冷たく酷い人間だったので、そんな奴らを倒してくれるドラゴンに憧れていた。だからもういっそここで殺されるのも本望だと思った。その姿を拝もうと必死にふらふらの足を地につけていたが、とうとう体力が尽きてしまい冷たい床に倒れ、意識を失った。



目を開けると、先程の洞窟の中のようだったが、明るくてなんだかいい匂いもした。それにフカフカのベッドの上で布団をかけて寝ていた。今まで床に毛布を引いて寝ていたので、少し動いただけで浮き沈みする感覚がとても楽しくて居心地が良かった。一体どこに来てしまったのだろう、死んでしまったのか、と辺りを見回した。周りには沢山の植物やランプ、薬のような小瓶に入った液体、武器などさまざまな物が綺麗に整頓されていた。そういえば、身体が痛くなくなっていた。鼻血が出て、あちこち血だらけだったのにどこにも付いていないし、腕には包帯が巻いてあり、しっかり固定してあった。なんだかよく分からないが、助かった。リリーは安堵してまたベッドに寝転がると、部屋の奥から声が聞こえた。その方向をみると、先程見た影と同じシルエットの男性がいた。髪は燃えるように赤く、美しい緑色の瞳をした、大きな男性だ。とってもかっこよくて、筋肉もあって、どうしてこんな洞窟にいるのか不思議に思った。


「さすがエルフの人間だな。看病が楽だった。」


リリーはその言葉でこの男がボロボロの自分を看病して治してくれたのだと気づいた。助けてくれた理由を聞くと、気まぐれだ。とぶっきらぼうに答え、また奥の部屋へ入って行った。唖然として待っているとお皿とお水の入ったコップを持って戻ってきた。腹減ったか。と先程のようにぶっきらぼうに聞かれたので頷いた。差し出されたお皿にはフルーツがたくさん盛り合わせてあった。とても美味しそうで目を輝かせたが、右腕が折れているので上手くフォークを持てなかった。見兼ねた男はフォークを取り上げ、果物を小さく切って取り、口元まで運んでくれた。今まで残飯しか食べなかったので、初めて食べる新鮮な食べ物が美味しすぎて思わず声が出てしまうくらいだった。あまりにも美味しそうに食べるのでそれを見ていたアダムはなんだか心が暖かくなった。あっという間に全て食べると、お礼を言って、ずっと抱えていた疑問をぶつけた。ここで伝わるドラゴンはどこにいるかと。すると男は一瞬暗い顔をして、知らないと言った。あまり深く考えない性格なので気にしなかったが、ドラゴンが好きなので少し残念に思った。


その晩、腕を怪我しているためお風呂に入っても髪を洗えなかったので、男を呼んで髪を洗って貰った。裸を見ないように終始目をそらしてくれたのだが、リリーはそれが可愛らしいと思った。料理は三食作ってくれるし、包帯の交換もしてくれる。自分はソファで寝て、わざわざベッドを貸してくれる。なんて優しいのだろう。リリーは次第に男の事が好きになっていった。1ヶ月ほど一緒にいると、リリーは男に抱きついたり、頬にキスしたりするようになった。最初は驚いて、離れるように引き剥がしていたのだが、毎回毎回くっついてくるので、諦めて大人しく受け入れていた。心を少しずつ開いた男はリリーに名前はアダム・ホワイトだと教えた。普段名前など他人に教えないが、綺麗で優しくて、何か事情があるにしろ怪我をして家を無くしているのに辛い顔を一切しないリリーを好きになっていた。アダムには秘密が沢山あるのだが、一切探ろうとせず、明るく積極的に近づいてくる。そんな彼女に近づきたい、触れたい、もっと自分を知ってほしい。そう思った。リリーがふとした時に頬にキスしてくる、それが最初は鬱陶しかったのに最近では嬉しく感じていた。ご飯を作ってあげる時や、街へ行く時の別れ際、寝る前など、一日で累計5回ほどされる。挨拶だとしても多すぎるし、自分のことが好きなのではないか、と考え、そうであってほしいと思っていた。好きだった女性と一夜を共にしたこともあったし、街へ降りては欲求を晴らすため娼婦を抱いたりもしたが、こんな気持ちになるのは初めてだった。1ヶ月半もしない内に仲がとても深まり、自分の幼少期時代のことや、好きなもの、夢など沢山話した。そしてリリーが来てから2ヶ月が経ったある日、アダムは秘密を打ち明けることにした。夜遅く、リリーはお風呂から出てソファでまったりしているとき、その隣に座り手を握り、静かに秘密を打ち明けた。最初にリリーが言っていたドラゴンの話、あれは自分のことであり、ドラゴン人間だということ。好きな時に好きな部位だけを変形できて、祖父の代からずっと守ってきた宝や財宝を今も守り続けていると。以前にも好きになった女性にその事を話したら財宝だけ持っていかれそうになり、止むを得ず殺してしまったそうだ。今までにも何人もの財宝を盗もうとした人を殺してきたが、罪の意識が強く、もう耐えられないし、医者になりたいので殺しをやめて独学で勉強をしていること。最近は来た者を殺さずに怪我を治して、特殊な薬で記憶を消し、村へ帰している。


そして最後に、そんな殺人鬼であり、独りを好んできた自分がリリーを愛してしまったこと。


たった2ヶ月だが、2人は恋に落ちていたのだ。リリーはその話を真剣に聞いていたが、最後の言葉を聞いた瞬間感極まってアダムに抱きついた。いつもは後ろから抱きつくのだが、今回は向き合ってなので心臓の音がよく聞こえる。筋肉質なアダムの腕はリリーを優しく包んで、二人は初めてキスをした。小さなリップ音をさせながらその口づけは次第に深いものへと変わっていった。好きという感情が溢れて止まらず、何回も角度を変え、深く深くキスした。自然と舌と舌を絡め合わせて、呼吸も荒くなって、リリーの太ももを撫でた。釣られてアダムの昂ぶったモノに手を当てると、一旦キスを辞めて2人で服を脱がせあい、リリーはアダムの手を掴むと膨よかな胸の元へ触ってと言わんばかりに持っていった。優しく押し倒して、華奢な体に似合わない胸を優しく揉みしだくと、甘い声が漏れた。先端の突起を口に含み甘噛みするとその声は大きくなり、くすぐったそうに身をよじった。負けじとリリーもアダムのモノを上下に触るが、既に限界を迎えているのか、かなり大きく、熱くなっていた。リリーももう我慢が限界に達していて、自分の秘部へソレを押し付けゆっくりと腰を動かした。父親や兄のよりも大きくて、少し時間がかかったが全てを受け入れた。痛くしないように優しく、ゆっくり動かすとその動きに合わせて二人の呼吸も早くなった。肌と肌がぶつかり合う音と、水の音がくちゃくちゃと響く。初めて愛のあるセックスをしてリリーは感じていた。しばらく愛し合ったのちリリーが果て、その後アダムもお腹の上に出した。アダムはリリーを抱き上げるとベッドへ運び、横になった。見つめ合い、二人で微笑んで、眠りに落ちた。


それから二人は毎晩愛し合い、体を重ね合う度に愛情が増していった。アダムから甘えることはほぼなく、リリーから毎日ハグやキスをねだったが、リリーが体調不良などで甘えてこない日が続くと、不安になってアダムからくっつくことも度々あった。一緒に住んでいると些細なことで口論にもなったが、仲の良いカップルで、よく人間の姿で街へ出かけるようにもなった。アダムは独りだった自分に天使のパートナーができ、支えあえたし、リリーは地獄のような毎日から解放され、性格を好きだと言ってくれる男性と巡り会えた。しかし二人にとっての幸運はこれだけではなかったのだ。ある日、二人でエルフの森の中へ食べ物の調達をしに行った時、リリーはなんだか懐かしい感じがして、誘われるようにエルフの国へと入った。すると、その国の王女様が現れ、リリーの名を呼んだのだ。驚くことに、彼女はここに住んでいたエルフと天使の子供であり、病気で亡くなった際ショックで記憶を失ってしまい、パニックになって家を出てしまったそうだ。当時20歳で、不死身のエルフが死ぬという事を受け入れられなかったので、そのような症状が起こってしまった。見知らぬ地を歩き周り、引き取ってくれたのが、この間家を出た元の男と女だった。自分達が本当の両親だと思わせていたが、実際は家事や炊事を全てやってくれる奴隷が欲しい女と、若い女を抱きたい、アルコール中毒の血縁もなにもない男だった。唯一暴力を振るってこなかった息子は顔も良く、優しかったが、父親にけしかけられ一緒になって毎晩犯してきた。記憶を取り戻すこともなく、日々虐待に耐えてきたが、奴らと血縁関係がなく、家族じゃないことに心の底から安心した。エルフの涙には不老不死を得る力を持つので、簡単なことでは泣かないようになっているのだが、リリーは24歳にして初めて人前で泣いた。アダムは優しく肩を撫でてくれて、王女様は優しく抱きしめて、泣くまで頭をよしよしと撫でてくれた。足に着きそうなくらいの長い綺麗な緑色の髪を持った、美しい王女様はリリーと同じくらいの娘がいるけれど貴方ほど強くないわ、と優しく微笑んだ。実の母みたいに安心感のある彼女の腕でひとしきり泣いて、前住んでいたという家へ案内してもらった。


エルフの国は地下と森と2つあり、リリーの家は地下世界の神秘的な森にあった。光キノコや特殊な生物、大きな花々が生い茂る森の中にポツンと佇んでいた。一回建だが、奥行きがあり、リビング、キッチンに加えて三部屋もあった。幼少期に遊んでいただろうおもちゃや大人になってから買ったようなドレス、母の化粧品、父親の書斎、全てがそのまま残っていた。至る所にある写真はどれも笑顔で、家族の仲良しさが見てわかるものがたくさんあった。一通り見て回ると、王女様は提案した。それはここに住まないか、というものだった。ずっと探していた迷子の娘を見つけられて、一族は大喜びだし、今まで助けて守ってくれたアダムも受け入れてくれるという。それに最近は盛んに戦争を行なっている。というのも人間がエルフの涙で不死身になれるという情報を手に入れてしまったのが原因で、保護呪文で森には入れないが、洞窟にはかかっていないのであそこに住むのはとても危険だとのこと。既にかなりの数のエルフが亡くなっていて、黒魔術師と手を組み助け合っているのだという。もし此処に住めばリリーの身の安心は確約できるが、山は危険に曝されるのだ。何十年も守ってきた山を手放すのは惜しいことだし、家族代々守り続けてきた。それに人間があの財宝を手にすればそれこそ金で武器を作れてしまい、エルフの身が危ないのだ。リリーを一旦部屋に残して王女様と二人で部屋に入り、解決策を探した。別々に暮らすということも少し考えたのだが、王女様としてもそれは幸せを彼女からまた取り上げてしまうので避けたいとのこと。数十分話し合った結果、エルフ数十人であの山に大きな保護呪文をかけ、リリーとアダムはエルフの森に住むということが決まった。その報告をするとリリーはとても喜んだ。早速大掛かりになってしまったが、近隣のエルフ達に手伝ってもらい、荷物を全て運んだ。その夜はリリーが見つかったということで宴だった。エルフの地にきてから、その神秘的な力によるものなのか、少しずつ記憶が戻ってきているようで友達も多くできた。特に王女様の娘のミラととても仲が良くなっていた。記憶が無くなる前から幼馴染のような存在で、姉妹のように仲が良かったらしく、彼女はリリーの顔を見た途端泣きだしたのだった。彼女は黒魔術師と契約を結ぶ為、その族長と政略結婚をし、既に3人もの子供がいて、その子達リリーはすぐに仲良くなっていた。記憶はまだ薄いが、小さな頃遊んだ記憶など少しずつ取り戻しているようで、二人はとても楽しそうに話していた。


それから何も問題なく月日は流れていった。戦争は少しずつ激しくなっていくが、黒魔術師の長が結婚してから森に住んでいるらしく、2人のように地下ではなく地上だが、それはとても心強いものだった。アダムですら太刀打ちできないほど強さの持ち主で、敵対している白魔術師が手も足も出ない状態だ。そして安心した生活を送り、1年ほど経つと、アダムはリリーの誕生日パーティの最中、ダンスが終わり、歓声の中一人だけ立ち膝になって、リリーへ小箱を差し出した。開くと中には輝くダイヤがついた指輪が入っていて、アダムは顔を赤くした。


「結婚しよう。」


一言だったが、リリーはとても喜んで、人集りの中でアダムに抱きついて、結婚を受けた。周りの人から大いに祝福され二人は晴れて夫婦となった。その1ヶ月後には地下世界で結婚式を行った。リリーはティアラを付け、真っ白のウェディングドレスで、沢山の人々と魅了した。とても美しいエルフだった。それからアダムはもう殺しをしないで、ミラの夫である黒魔術師のギャレットからのお願いで、黒魔術師の土地まで行き医者をやっている。根は優しいアダムはすぐに子供から老人まで、沢山の人に好かれる医者になった。独学とはいえ、その知識は正確で、沢山の病気を治した。リリーは護身術で弓矢や武術を習い出したが、才能があったようでその腕前はかなりのものだった。たまにミラに教えてもらってピアノを弾くこともあったが、それは才能がなかったようだ。そんな日々が続いて一年後にリリーは妊娠し、可愛い女の子を出産した。いつもは冷静なアダムだが、出産時は泣いて喜んだ。美しい妖精という意味のエラという名前を付けたが、実際に本当に可愛い娘で、色んな人に可愛がられて育った。


そして月日は流れた。

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