第5話 再会

まだ日が昇りきらない早朝、あおいのLINEの着信音が鳴った。

「何よ~・・こんな朝から・・ん?美智奈から?」

送信者は、美智奈だった。しかし、こんな朝から、どうしたというのだろう。

「朱里、横浜でLIVE決定!「パッションレッド」っていうライブハウス知ってる?そこでやるから、見に来てね。私も行きま~す。」

仙台で出会った同級生のジャズ・シンガー、早川朱里のLIVEが、横浜の赤レンガ倉庫にある有名なライブハウスで行われることは、大きなニュースだった。

これまで数多くの有名アーティストが立ったあのステージに、朱里も立つんだ・・そう思うと、忙しいけど、見に行きたい、その気持が先立った。

早速美智奈に、参加する旨の返事をしようとした矢先、再び美智奈からのLINEが届いた。

「当日は、応援の意味も込めて多くの同級生にも朱里を見に行ってもらいたいと思い、連絡先のわかる同級生にLINEしてます。あおいからも、連絡先の分かる人がいたら、連絡してね。」

美智奈はきっと、すごく嬉しいんだろう。ずっと応援してきた朱里が、大きな会場で歌う日が来るなんて、夢のようだと・・。

でも、あいにくあおいには、高校時代の同級生でLINEの連絡先が分かる人は殆どいないので、協力したくともなかなかできないのが歯がゆい所である。

けど、美智奈ならばあおいよりも交友関係も広いので、今頃同級生に片っ端から連を取っていると思い、ライブ当日が心底とても楽しみになってきた。


ライブ当日、あおいは普段よりちょっとだけ着飾り、ノースリーブのブルーの花柄の膝丈ワンピースを着込み、髪の毛をアップにして、可愛らしいコサージュを付けて会場へ向かった。

会場で同級生に会っても、日々の生活に疲れて老け込んだ恥ずかしい自分を見せたくないというのもあった。

赤レンガ倉庫の中にある、横浜では比較的大きいライブハウス「パッションレッド」に入ると、すでに満員に近いくらいのお客さんが会場内のテーブルを埋め尽くしていた。

どこに座ろうかと、会場をぼーっと見渡していたその時、髪の長いチャーミングな笑顔の女性が近づいてきた。

「美智奈!」

「いらっしゃーい。やっぱり来たね。あおい。」

美智奈は、黒のノースリーブにサルエルパンツで、歳を感じさせない颯爽とした雰囲気である。高校時代から、この雰囲気がほとんど変わっていないというのはある意味すごいことである。

「今日は結構同級生、来てるわよ。あっちこっちに声をかけまくった効果があったかな?あ、そうそう、あおいに会わせたい人がいるんだ。」

「え?誰?」

「あおいもよく知ってるはずだよ。あ、雪枝。おいで、あおいだよ。」

「え?雪枝って?・・高山?」

あおいは、久しぶりに聞く雪枝の名前にびっくりし、その後、美智奈のところにやってきた女性の姿を目にして、再度びっくりしてしまった。

クールだけど、ちょっとふっくらした顔つきの、ショートボブの髪型をした女性が、20歳くらいの若い男性と一緒に姿を現した。

「高山・・雪枝?」

「そうだよ。久しぶりだね、あおい。今は名字が変わって、市川だけど。」

「雪枝~久しぶり!確か20年前、宮城の遠刈田温泉に美智奈と一緒に旅行した時以来じゃない?」

「あはは、あの時以来か。あれ以来、お互い全く連絡しないままだったね。」

「雪枝、隣の若い男の人、だーれ?これ?」そう言うと、あおいは小指を立てて、いたずらっぽく笑った。

「違うわよ。大飛(だいと)、ちゃんとあいさつしなさい。」

「あ、すみません。市川大飛です。雪枝の1人息子です。」

「ええ?20年前まだ小さかった雪枝の子ども?もうこんなに立派に?」

「うん、私1人で、子育てと仕事両立させながら、どちらも何とかやり遂げたって感じかな。大飛は去年成人式を迎えて、今は大学生。今年で22になるのよ。」

「すごい。もう22歳なんだ。本当に大きくなったよねえ・・雪枝は確か、大学出てすぐ結婚・妊娠したんだよね。20年前に最後に会ったときは、もう離婚して、コンビニで働きながら女手一つで子育てしてたんだっけ?」

「そうね・・。今は再婚したし、その時よりは結構いい仕事してるわよ。」

そういうと、雪枝は名刺を渡した。

「株式会社アルフレッド・・?」あおいは、初めて聞く名前の会社に驚きつつも、雪枝の話を聞いた。

「一応は企業ホームページ開設と管理の仕事かな?大学の知り合いが起業してね、誘いを受けて、パートでも良いというから、それ以来ずーっと今の仕事を続けてる。色々な企業から依頼が来て、楽しいよ。たまに遅くまで残業もあるけどね。」

そういうと、雪枝はニッコリと微笑んだ。

「雪枝は大隈大学だもんね・・そういう繋がりはあたし達より数多あるもんねえ。」

「まあ、金光華女子大よりは多いかな?」雪枝はあおいの出身大学を引き合いに出して、半ば自慢げに話した。

「あのねえ~あんたのそういうところが、昔から嫌いなのよ。歳を取っても治らないなんて、重症だよ、最低だよ。」

雪枝は昔から、不意にちょっと人を見下すような発言をするところがある。決して悪気とかはないし、それで相手をいじめたり陥れたりする意図はないのだが、はずみで口に出てしまうのだ。

「ごめんね。そんなつもりはなかったんだけど、つい・・」

そこへ、美智奈が現れ、まるで喧嘩を仲裁するかのように2人の間に入ると

「二人とも騒いでないで、これからライブ始まるんだから、ここからは無言でお願いしますよ。ね!」

そういうと、またそそくさとステージの方へ去っていった。

「今度は・・もう、言わないでね。正直すごくむかつくから。」あおいは、気分的にしこりを感じながらも、それを抑え、唸るようにつぶやいた。

「は~い・・気をつけますっ。」雪枝は、舌を出して微笑みながら、頭を下げた。

そして、ステージには、背中が大きく開いた白のスパンコールのドレスをまとった朱里が登場した。

朱里がマイクを自分の口元のところに合わせると、同時にバンドがスイングを開始。

フランク・シナトラの「I'm sentimental over you」から始まった。

スイングに合わせ、伸びやかで張りのある声を繰り出す朱里・・・それは、20数年前にうつむきながら小声で話す朱里からは、全く想像もつかない姿であった。

「朱里・・高校の時と全く別人だよね。」

同じテーブルについた雪枝がつぶやくと、

「うん、あたしも仙台で初めて見た時、本当に朱里?って驚いちゃった。」

あおいはため息をつきながら、テーブルに置いたワイングラスに口をつけた。

「朱里は、自分の青春を歌に賭けたみたい。それが当たって、こうしてずっと歌っているけど、あたしだったら、こんな思い切った賭けに出られるかな?」

「何で?あおいは十分いろんなことに賭けてきたじゃん。金光華受験して合格したことも、今の雑誌社に就職できたことも。そして結婚して子どももいるんでしょ?

すべて、あおいが自分で望んで挑戦して、手にしたわけじゃん。」

雪枝は、訝しげな顔で、そう問いかけた。

「あたしは大隈受かって、好きだった人と結婚して子どもも授かって・・。離婚した後また好きな人ができて、再婚して・・・みんな、あたしが望んだことで、挑戦したいと思ったことだし。あ、ちなみに離婚は望んだわけじゃあないからね。」

あおいはクスッと笑うと、ワイングラスを雪枝の前に差し出した。

「乾杯しよ、雪枝。」

「あ・・そういえばまだしてなかったね。」

「久しぶりの出会いに、乾杯!」

朱里のしっとりとした歌をバックに、あおいと雪枝のグラスがかち合うかすかな音が響いた。

すべての曲の演奏が終わると、朱里とバンドのメンバーがステージ前に並び、観客はスタンディングオベーションで応えた。

あおいと雪枝も立ち上がり、大きな拍手を送った。

朱里の瞳には、遠目からも涙が浮かんでいるのが分かった。

一つの夢が叶った、そんな思いが朱里の中に満ち溢れているのだろう。


ライブが終わり、あおいは雪枝、そして遅れて追いかけてきた美智奈とともに、みなとみらいのビル群からの光に包まれた横浜の港を歩いた。

雪枝の息子・大飛くんは、彼女との約束があるみたいで、ライブが終わるとそそくさと東京へと戻っていった。

思えば大飛くんの顔には、雪枝の別れた前夫・荒川貴志の面影があった。

大飛くんも前夫同様、かなり女性にもてるらしいので、雪枝は自分の経験から、付き合った人を不幸にしないよう、常々大飛くんには聞かせているという。

「横浜、久しぶりに来たなあ~・・あたしのオフィス、新宿なんだけど、忙しいから近いようでなかなか来れないんだよね。」雪枝は、横浜の美しい夜景にしばしうっとりと見入っていた。

「私は仙台だから、もっと見に来れないよ~、ホント10数年ぶりくらいだよ、こうして見ることができたのは。」美智奈は羨ましげにつぶやいた。

「あたしは、たまに取材でこっちまで来るかな。でも、夜景なんてのんびりみてる暇はないしなあ。」あおいは、ため息をつきながら、遠くに見える色鮮やかなマリンタワーを眺めていた。

「3人で、大学の頃、見に来たよね、横浜の夜景。」雪枝は、20数年前のドライブのことを思い出したようだ。

「美智奈が運転したんだよね?運転した時の横顔、かっこよかったなあ。ベイブリッジ近くの大黒ふ頭で、冷たい夜風に吹かれながら缶コーヒー片手に夜景を見たんだよね。」

あおいは、夜風に吹かれ、長い髪を振り乱しながら高速道路を運転する美智奈の横顔が忘れられなかった。その凛々しさは、神々しいほどの強烈なオーラと格好良さを感じた。

「そうそう、でもあの車、レンタカーだよ。バイト代叩いて何とか借りたって感じ。」美智奈は、笑いながら自嘲気味に語った。

「ありゃりゃ・・そうだったんだ。」あおいはちょっとよろめいた。

「また、みんなでドライブしたいね。」雪枝は振り向き、提案した。

「みんな仕事や家庭があるから、こうやって集まること自体珍しいじゃない。でも、学生の時は、時間があれば集まってどっかに出かけてた気がするんだ。ドライブしながら、湘南とか伊豆とかに行きたいなあ~・・」

「そうだね。その時の運転は、やっぱり美智奈かなあ。ね。」あおいは、美智奈を見つめながら、ニコッと微笑んだ。

「何で私なの。最近の私は、助手席専門ですからね。」美智奈はちょっと不満そうな顔をした。ただ、一見不満そうでも、まんざらではなさそうな感じもした。

そんな時、後ろから、コツコツとヒールの音が、あおい達の近くまで近づいてきた。

「今日は来てくれて、ありがとね。あおいちゃん、美智奈、そして雪枝ちゃん・・。」

ライブの衣装の上に長いコートを羽織った朱里が、微笑みながらあおい達の後ろに立っていた。

ライブを終えて、充実感でいっぱいの笑顔であった。

「朱里~!おつかれさん、今日は良かったよ、最高だよ、最高!」

あおいははしゃぎながら、朱里の肩をポンポンと叩いた。

「どうしたの?旦那さんやバンドの皆と一緒に、どっかで打ち上げをやってるのかと思った。」美智奈はちょっと驚きの表情を見せた。

「良いのよ、あっちはもう酒が入って十分盛り上がってるから。私はのんびり外の空気を吸おうかと思って、ぶらぶら散歩してたのよ。」

朱里は夜空を見上げながら、今日のライブで歌った曲のフレーズをフンフンと口ずさんだ。

「まだ歌いたいくらい。やっぱ歌ってるときが最高だね。こうしてライブが終わると寂しくなっちゃう。」朱里は少し寂しそうな顔をした後、

「ねえ、私夕食まだ食べてないの。ちょっとどこかに食べに行かない。せっかく横浜来たんだから、中華街でも行こうか?」と言って、あおい達を手招きした。

朱里は先導するかのように、ヒールの音を響かせながら、どんどん先へ先へと歩いていった。

「はあ~い、ところで朱里、どこか美味しい店、知ってんの?」雪枝は皮肉交じりに、朱里に問いかけた。

「Yes」そう言うと、親指を立てて、朱里はサクサクと歩いてあおい達を先導し、みなとみらい地区から、港沿いの通りを歩き、カラフルなネオンがあふれる中華街方面へと足を進めていった。


朱里が入っていったのは、中華街のメインストリートからちょっと離れたところにある、小道沿いの家族経営の小さな料理店だった。

カウンターに、小さなテーブルが数基あるだけのシンプルな内装である。

「朱里、ここ・・大丈夫?あたし達以外、客いないじゃん。」雪枝は青ざめた顔で、周りを見渡しながら尋ねた。

「うん。大丈夫よ。旦那と一緒に以前食べに入ったけど、味付けはシンプルで美味しいよ。」

そういうと、朱里はメニュー表から皆で取り分けて食べられそうなものを何点か選び、併せてビールと紹興酒を注文した。

「そういえば・・気がついたことがあるんだけど。」雪枝は意地悪そうな笑みを浮かべながら、切り出した。

「あたしたち・・傍から見たら、PTAの奥様連中みたいだよね。」

クスッと笑いながらそういうと、あおいや美智奈も、そして朱里も、大爆笑した。

「ハハハハ・・確かに、普段は地味な主婦なのに、年甲斐もなく着慣れない洋服着て、きっちり化粧して、いかにも見えっ張りなPTAマダム集団だよね。」あおいはうなずきながら、笑い転げた。

「あの~・・私と朱里は子どもがいないから、PTA関係ないんですけど。」と美智奈は他人事のように言うと、

「いやいやいや、たとえ子どもが居なくても、見かけは若々しくても、ごまかせませんよ、あたし達の目は。」

雪枝がニヤッと笑って、美智奈の目尻のあたりを指さした。

「ああ・・最近少し・・ね。嫌だわ雪枝、変なところ指摘しないでよ。」美智奈はしわがちょっと出来てきた目尻を抑えながら、ちょっとぶすっとした顔をした。

「私もだよ、顔にしわみたいなものが出来てきたって、旦那に言われたのよ。仮にも舞台で着飾って歌ってる人に言うことじゃないよね~。」朱里も横を向いて、ぼそっとつぶやいた。

「もうアラフォーはとうの昔だよ。あたし達は。今やアラフィフ一直線だから。」

あおいは、ため息をついた。

「最近・・自分ってやつを少しずつ見つめ直して、若い頃からやりたかったことに挑戦するようにしてるんだ。小説書いたりとかね。」

「え?あおいちゃん、小説書いてるの?すごい!読んでみたい!」朱里は目を輝かせた。

「でも、本格的に投稿してるわけじゃないの。同人誌とかネット投稿とかだし。」

「それでも、やりたいことに向き合ってるって、なかなかできないことだよ。」

「あおいは小説書くのか。じゃああたしは、論文でも書こうかな。」雪枝がまたちょっとだけ偉そうなことを言い出した。

「何の論文?」あおいはちょっとムッとした表情で、雪枝を睨んだ。

「男という生き物について」雪枝はニヤッと笑って、タイトルを発表した。

皆一斉に笑い転げた。あおいもつい、プッと吹き出してしまった。

「笑ってるうちに、料理が来たわよ。あ、ビールと紹興酒もね。」

青椒肉絲や牛バラ炒め、麻婆豆腐など、おなじみのレシピがテーブルに並ぶと、美智奈がしっかり四等分して取り皿に分け、皆に配った。このあたりの気配りはさすがはミセス・パーフェクトだ。

「今日は見に来てくれて本当に嬉しかった!感謝の意を込めて、乾杯!」

朱里の発声とともに、4人はグラスを交わし、遅い夕食を食べながら、時間を忘れて談笑した。

アルコール度数の高い紹興酒も入り、ライブハウスでほろ酔い程度だった4人は、一気に酔っ払ってしまった。


店を出ると、時計はもう夜の11時近く。

「終電あるから、帰るね。ごめんね。」あおいはすっかり酔っ払って、ふらつきながらも、駅への道を急ごうとした。

「ちょっと待ったあおい!大事なことを忘れてるよ。」その時、美智奈があおいの足を止めた。

「記念写真、撮らなくちゃ。この4人全員が集まるなんて、なかなか無いことだし。みんなの携帯で代わる代わる、写真撮ろうよ。」

そういうと、全員が携帯を取り出した。

「自撮り棒あるよ。恥ずかしながらインスタグラムやってるからね。」そう言うと、朱里が自撮り棒をバックから取り出し、みんなの携帯を代わるがわる差し込んで、ライトアップされた関帝廟をバックに写真を撮った。

4人共酔っぱらっているので、押し合いへし合いになりつつピースサインを出して、時に誰かがふらついて倒れそうになったが、何とか全員の携帯に写真に収まった。

最後に、電話番号やLINEなどの交換を終えた後、

「じゃあね。またこのメンバーで集まろう!やっぱり朱里のライブの時に集まる?」とあおいが切り出すと、

「いや、普通に飲んだり食べたりしながらで良いと思う。仙台にみんな帰省した時にでもやろうよ。」朱里が照れながら答えた。

「あたしは今はあまり仙台帰りたくない。ドライブがいいな。伊豆とか湘南行きたい~」雪枝は、相変わらず自分の願望をぶちまけていた。

「いや、仙台でもいいドライブコースあるよ。今は色々気まずくて仙台帰りにくいだろうけど、帰りたくなったらいつでも帰っておいで。私は待ってるからさ。」美智奈は、雪枝の背中を叩きながら、ウインクして親指を立てた。

「美智奈・・ありがとね。」雪枝は突然泣き出した。

美智奈は、雪枝が離婚した当時、ずっと相談相手になっていた。若くして離婚し、実家の両親から呆れられて半ば勘当されていた雪枝は、誰にも悩みを相談できず、唯一の頼れる友人である美智奈に、色々なことを相談していた。

特に、子育てで一番つらかった時期に、深夜にもかかわらず美智奈に電話し、苦しい思いをぶちまけていた。

その頃のことが頭の中に蘇ったのだろう。

美智奈は泣き崩れた雪枝の体を起こすと、一緒に肩を組みながら歩き、大通りに出てタクシーを捕まえ、雪枝と一緒に乗り込んだ。

「雪枝のこと送ってくるね。あおいも、私達のことは気にしないで、文美音ちゃんのためにも早く帰ってあげて。じゃあ、また仙台でね。」

そういうと、タクシーのドアを閉め、あっという間に立ち去ってしまった。

「美智奈ってすごいよね、ああいう気遣いはとても真似できないよ・・」

あおいは長年付き合いのある友人の献身的な行動に、ただ驚かされ、あっけにとられていた。

「あおいちゃん、私もそろそろホテルに戻るね。旦那も部屋に戻ったみたい。またライブ、見に来てね。そして、小説・・出来たら、私にも見せてよ。」

「朱里・・今日はありがとう。シンガーとして絶対、成功してよね。年齢はアラフィフ一直線だけど、まだまだやれると思うよ。」

「あおいちゃんも。ね。」朱里はニッコリ笑うと、あおいの頬にキスし、

手を振りながら、関内駅の方向へと立ち去っていった。

一人残されたあおいは、酔いが醒めないせいもあってか、しばらくぼーっと突っ立っていたが、やがて我に返り、そそくさとJR石川町駅の方向へと歩いていった。

電車待ちのホームで、携帯を開くと、美智奈からのLINE通知があり、開くと

「熟睡してます」とだけ書いてあって、雪枝の寝顔の写真が添付されていた。

クスッと笑いながら、美智奈に返信のLINEを送った。

「また、4人で集まってバカ話しようね。今日はありがとう。」

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