異界調整官外伝 吸血鬼×外交官
水乃流
異界から帰還する
“
『お疲れ様でした。検疫所へどうぞ』
かつては山の中腹だった一角は、“
私は、“
確認を終えて荷物を受け取り、施設の玄関ホールまで行くと、迎えが来ていた。
「お帰りなさい。迫田さん」
「あぁ、宮崎か、すまないな」
私を出迎えてくれたのは、私と同じ外務省異界局の宮崎だ。彼は荷物――といってもアタッシュケースひとつ――を受け取ろうとしたが、それを制して車の後部座席に乗り込んだ。宮崎も続けて乗り込むと、運転手に「戻って」と指示を出した。
車が動き出すと、宮崎はスイッチを操作し、運転席と後部座席を仕切った。
「なんだか
宮崎の質問に、私はアタッシュケースをポンと叩く。
「ヘルスタット王から首相宛の親書だ。お前にも後で知らされるだろう。それより、他の“
「そうですね。じゃぁ、まずホール2ですが――」
私たちを乗せた車は東北道に入り、一路、霞ヶ関へと向かった。
□□□
外務省異界局での簡単なブリーフィングの後、私は上司である異界局局長、江田茂と共に首相官邸に入った。首相へのレクチャーには、局長の他に外務大臣と防衛大臣、官房長が同席した。
私はブリーフケースの中から、首相宛の親書とその翻訳文書を取り出し、テーブルの上に置いた。親書は本来魔石による封がされているものだが、翻訳しなければならないため、すでに切られている。首相は、羊皮紙の親書ではなく、翻訳した文書を手に取り目を通した。
「迫田君、住まないが要約してくれるかね?」
現日本国総理大臣は、文書を防衛大臣に渡しながら私に言った。もとよりそのつもりだ。
「はい。端的に申し上げますと、ヴェルセン王国の村が
「王国内の兵力で対処できないのかね」
防衛大臣の疑問は、もっともだろう。
「実は、王国の南に位置するファシャール帝国が、王国への侵攻を画策しており、そちらへの対応のため兵を裂かねばならず、
「合わせて二百か。それでは足りないのか?」
「
「
「確かに
「やっかいだねぇ」
首相は、腕組みをして唸った。
「日本には、
「阿佐見さん……調整官は、『できれば助けたい』と」
「どっちをだよ」
「おそらく、どっちもですね。あの人なら」
やれやれと言った表情で、私を見る首相。
「それは……上手く乗せられちゃったんじゃないの? 王国に」
やはり、トップまで登り詰めた政治家だけあって、隠された意図にも気が付いたか。
「そうですね。王国側にはいくつかの思惑があると思います。ひとつには、単純に
「そして、あわよくば日本の軍事力を奪い取ろう、そう思っているのだろうな」
「それは、現時点ではないと思われます」
私は、防衛大臣の言葉に反論した。大臣だけど上司じゃないし、自分の意見をいうことに躊躇いはない。
「なぜ、そう思うんだ?」
防衛大臣は一瞬むっとした表情を浮かべたが、私に理由を聞いてきた。
「
「なるほど、そんなものか」
「えぇ」
私の意見は、この時点では間違っていなかった。しかし、
「しかし、こまったねぇ。こちらとしては、
そういって、トントンとこめかみを叩く首相。話し方ものんびりしているし、見た目も地方に良くいるおじさん然としているが、政治的には手練手管を駆使する狸親父。それがこの男に対する霞ヶ関の評価だ。敵に回すと嫌らしいが、味方として腹を割って伝えれば、けっこう話の分かるおっさんだと、異界局局長も言っていたが、本当だろうか?
「首相、十二年前に起きた悲劇の際、
外務大臣のアイディアに、首相は困った顔を見せた。
「あれ、確か時限立法だったんじゃない? それに、今回は国外の問題だしねぇ。うーむ。しまった、法務大臣も呼んでおくんだった。まぁ、いいか。異界法も改正が必要かなぁ。どう思う迫田君?」
いきなり振られたので驚いたが、なんとか慌てずに済んだ。
「問題は、時間です。一ヶ月後には、西の街に王国の兵が集まり、
「そうか、時間か。……世論を動かす必要があるねぇ」
さらっと何を言っている? 苦笑いするしかないじゃないか。
「でも、もし派兵するとしても、武器はどうするのだ?」
官房長官が現実的な質問をしてきた。
「それについては、多少心当たりがあります。つきましては、防衛大臣のご許可をいただきたく――」
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