第38話 私を囲うもの

 マトリョーシカのように、何重もの箱の中で生きてきた気がする。

 旅を始めてすぐ、レモネードを売る姉妹がいた。姉妹が微笑むと、私を囲む箱が一つ開いた。人に出会う度、箱は一つまた一つと開いていった。

 箱が開くと自由になるのを感じたけど、その度になぜか私は不安になった。私を囲む箱が全部なくなったら、ぽつんとこの世界に一人どうしたらよい?

 最後に着いた田舎の町で、ふと手紙を出そうかと思った。


 今私の前で、彼はサイコロ柄の箱を開く。それは光らないし色も変わらない。私はあの餞別をなくしたし、箱の中身は知らない。でもそれを受け取っても箱は私を閉じ込めないだろう。

 私は彼を見た。私を追って海を渡って来た、大好きな彼を。


改行・スペース抜き298字

Twitter300字ss企画 第八十二回 お題「箱」

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