第37話 「もう必要ないもの」

 小さな島国で、僕と彼女は一緒に働いていた。働くことは好きだったけど忙しくて毎日の生活もままならず、いつもとても疲れていた。

 辞めることも続けることも、両方苦しい。そう言って彼女は去った。縁日で買った玩具のサイコロを餞別に渡した。

 出た目と色の分いいことや悪いことが起こる。そう嘯くと、彼女は微妙な顔で笑った。

 僕らはお互い以外の物を持つことを恐れていた。


 僕はもう一度あのサイコロと出会いそして別れた。御守りのように持ち続けた片割れを握り、最後に届いた絵葉書と目の前の景色を比べる。

 彼女の笑顔の意味を思う。勇気を持って踏み出したら、未来はサイコロの出目では動かない。救いは己自身でしかもたらされないのだ。


改行・スペース抜き298字

Twitter300字ss企画 第八十一回 お題「救う」




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